太靈道断食法講義録 第9回

第2章 肉体に及ぼす影響
第1節 胃腸 

 断食が身体に及ぼす影響中、その第一位にあるものは胃と腸とである。したがって胃腸に疾患ある人が断食を行ったときには、ほとんどそれによりて病気は治するものである。
 霊子は元来分量的なものではないが、それが人体に運営するときに当たりては、ある定まった量、定まった力をもって働くものである。胃及び腸においてもまた等しく定まった量及び力をもって働いている。その霊子作用は、平素においては胃腸そのものの運動消化作用、疾患部の癒能作用という風に分かたれているのであるが、断食時においては、食物が胃腸に到らぬために、その各種に分かたれていた力が、ほとんど全く癒能の一面に働くようになって来て、胃腸病は驚くべき急速をもって快癒を見得るのである。さらに胃腸に疾患がない人にあっては、ますますその健全を加えるに至るべきは、絮説(じょせつ:くどくどと説く)するまでもない事である。  

第2節 脳

 断食によりて胃腸が健全になれば、従って脳も健全になって来る。
 胃腸が健全になったため、それに関連して間接的に脳が健全を加うるのも一面の事実ではあるが、断食の結果として、直接的に脳が健康になる根本的事実がある。
 既に脳病に罹[かか]って、悩みつつある人は、断食をもって第一の回復法として採用すべきである。従来の脳病薬にして、直接的、根本的に脳に効果があるものはほとんどなく、必ず胃腸を侵す性質のものである。 
 ここにおいて、かかる迂遠にしてかつ有害な療法によることなく、胃腸にも、脳にも、直接的効果のある断食によることを必要とするのである。 

第3節 肺臓、心臓、腎臓、その他臓器 

 肺に関するすべての疾患も、断食を行なうときには顕著な効果をあげ得るのである。既に疾患を有する人は、不完全な薬物によりてその治癒を図るよりも、生理的に、心理的に、卓効を奏する断食によるときは、現前的確にその治癒を見るべきものである。
 肺の疾患のみならず、心臓、腎臓、その他の臓器も、胃腸と脳とにおけるように、間接的に、あるいは直接的に断食より来る効果に浴し得るものである。 

第4節 骨髄、皮膚、筋肉、毛髪、その他体組織

 断食によりて完全に発動し来る霊力は、単に身体中の主要器官にその作用を及ぼすのみではない。骨髄にも、皮膚にも、筋肉にも、毛髪にも、はたまたその他すべての体組織にも働いて、それぞれの機能なり、作用なりを完全に行わせるように、発動し来たるものである。
 霊力の旺盛と併せて、生理作用をして敏活にさせるのは実にこの断食の賜物というべきである。 

第5節 血液及び細胞、内分泌 

 血液は断食によりて浄化さるべき性質のものである。そして人によってその血液に清澄混濁の差異があることは、その人の体質、食物並びに環境等によりて生じるのである。
 いずれにせよ、断食には血液を浄化する力があることは争うべからざる事実である。断食後における血色の良好なるに徴[ちょう]するも、その一端は推知することができるのである。
 皮膚病者は、古来断食によりてその回復を図り、しばしば奇効を奏した実例もある。皮膚病の療法として取るべきは、単に断食のみにて可なりとは称し難けれども、皮膚病に限らず、いずれの病気であっても、血液を清浄にさせることは非常に必要である。
 血液中における赤血球と白血球とは、霊の内放作用及び外放作用によりて生じたものであって、断食するときには一般に両者の活動力を旺盛にさせるものである。 
 前にも再三述べてきたれるがごとく、断食は人類の勢力をしてますます旺盛ならしむる結果、その内放外放の両作用は完全に行われ、赤血球及び白血球の機能をして活発旺盛ならしめ、身体の栄養方面に寄与するところは実に大なるものがある。
 次は、細胞に及ぼす影響であるが、血液におけるのと同じ理由によって、その活動は極めて活発になって来るものである。細胞が人体のすべてを組織しているものである以上は、その機能が旺盛となる結果として、よく心身の健康を促進し、さらによく外邪に堪ゆるの力を増殖するに至るべきは自明の理である。 
 絶食を行うことによりて、人体の内分泌は著しく欠乏を来たすものである。この内分泌の作用は、食物と密接な関係を有するものであって、絶食中には食物の欠乏を来たすために、著しき内分泌の減退を見るに至るのである。
 もちろんこれは平時において、何らの準備も注意もなくして食を絶つときの事を述べたのであるが、今講述しつつある完全なる太霊道断食法によるときは、食を絶つことはいうまでもない事であるが、食を絶ちつつも却って内分泌作用の旺盛なるを見るのである。
 その理由は至ってわかりやすいものである。即ちこの完全なる断食法によるときは、体力、精神力及び霊力が生命力全体の上に完全旺盛に発動し来たるものであるから、内分泌腺の機能も従って促進されることとなり、内分泌が著しく増殖して来るのである。

第6節 精力 

 断食によりて霊的作用が増進され、従って生理作用の旺盛を来たし内分泌が増殖するに至ることは前節に述べた通りである。
 そして、その内分泌が特に体力の方面に現われたる精力のごときも、ために著しく増進されるに至るのである。断食によりて旺盛になった生理作用は、体力そのものを健全にするのはもちろんの事であるが、内分泌が旺盛になった結果、その増進された体力の上に、さらに精力を加うるに至ることは実際における断食の効果である。
 この精力が生殖方面に及ぼす好影響も、見逃し得ざる問題である。この精力増進は僅々一週間内外の断食によりてすらも、現前的確に経験し得るところであって、一たびこの悦びを味わったものは、時々この断食を行わなければ、物足らなさを感ずるに至る程である。
 付言するならば、断食と体力並びに精力の関係について、寸間瞬時も忘れてはならないのは、腹力の充実である。

第3章 精神に及ぼす影響 
第1節 思索力の発達 

 断食の精神上に及ぼす影響は、第一に思索力の発達である。考える力が非常に旺盛になるのである。
 その理由としては種々な点をあげることができるが、その一つとしては、断食中にはすべての思索を禁ずるがゆえに、この期間中においてその力が充実されるということも数え得るのである。
 しかしその最も根本的にして直接的な理由は、断食によって全枢(フォルニックス)部位の完全発達を起こし、従ってその外放線が極めて明瞭濃厚になるからである。
 これに反して、断食中において思索をあえてするときは、全枢の発達を阻害し、その外放線をして微弱朦朧ならしめ、思索力の阻止減退を惹起[じゃっき]するものであることは、既によく了解されていると思うのである。

第2節 推理力の発達

 推理力というのは、ある対象に向かって確実なる推理をなし得る力のことである。人にして、もしこの推理力が乏しかったならば、その思想生活の上に、またその実生活の上に、著しい不便と寂寥[せきりょう]とを感ずるものである。
 想像力も、ある点までこれを必要とするが、この確実なる推理力に至っては、思索力と共に人間の全生活に必要欠くべからざるものである。そしてこの推理力は、前節に説述した思索力と等しく、断食によりて非常なる増進を見るは疑いなき事実である。 

第3節 記憶力の発達

 断食によりて記憶力の発達することは、実に意想の外に出ずるものがある。
 その理由については縷説[るせつ]するまでもなく、全枢の機能増進にあるのであるが、ここにその記憶力発達につき、事実を例として説明しておこう。
 即ち断食前の記憶力と、断食後のそれとを比較して見るときは、よくその発達の程度を知り得るのである。例えば、断食前において五、六桁の数字を記憶するのに相当の困難を感じたとしても、断食後においてこれを記憶しようとすれば、覚えることも迅速であるのはもちろん、何日も経るもこれを忘るるものではないのである。これは誰人も断食によって経験することができる記憶力発達の一証左である。 

第4節 統一力の発達
 この統一力の有無は思索を行うに際しても、また事業をなすに当たりても、その関係するところ実に大なるものがある。人によりては、事物を断片的一部的にはこれを考え、また完成する力はあっても、それらのすべてを総合統一する能力を欠くものがある。
 事物を断片的に一部的に考える力は、やがてそれを推し拡めて行けば、全部に達するがごとく解する人なしとせざるも、断片的なものを単に推し拡め集合せしめたるのみにては、総合統一された状態であるとは言い難いのである。
 しかしてこの総合統一する力は、断片的一部的な思索力観察力よりも、より以上尊きものであって、全的生活に進もうとするものには、緊要欠くべからざる力である。
 断食は自己の精神力のすべてを総合統一する力を与えるものであると共に、対象の事物を精神上に総合統一して行くべき力をも発達せしむるものである。 

第5節 決断力の発達
 精神力の旺盛なるものは、概して決断力も強いという関係にあるのである。
 そしてある事物に対して充分の思索観察をめぐらしてそれを解決せんとするにあたりて、いかにするも決断力の足らざるを感ずることがある。
 こうした状態にある時、ある外的な刺戟または内的な衝動によって、図らずも決断の力を得るような事がある。が、かくのごときは一種の精神の昂奮少なくとも変調に基きたる決断力であって、全的なものとはいい難いのである。
 しかるに断食は事物の思索力、推理力、記憶力、統一力等を発達せしむるがために、適切にして明確なる判断力をも得られるわけではあるが、断食によりては決断力そのものも、端的に旺盛に発達せしめらるるものである。