Healing Discourse

ヒーリング随感 [第24回] 裡なるバランスを聴く

◎身体を様々に使った時、例えば体の左右いずれかのみに疲労や痛みを感じるとしたら、まず骨格の歪みを疑うべきだ。「自分は右(左)利きだから、偏って疲れるのも当然」といった根拠のない理由を勝手にでっち上げ、体そのものの歪みという真実から目を逸らせ続けていると、左右いずれかに偏した痛みや不快感は次第に慢性的になり固まっていく。
 こういう歪み・偏りのバランスがわずかでも是正されて初めて、今までの自分は歪んでいたのだと、身体そのもので実感できる。
 まず、これまで「なかった」身体のパーツが戻ってくる。身体各部の上下・左右・前後が均整、あるいはほぼ均整に近く感じられる。同じことをするのに、以前より随分少ないと感じられる労力で済むようになる。同じことをしても、全身がバランス良く使われて気持ちいい。そして、眠りが心地よくなって深くなる(元来自然なことのはずだが)。

◎身体の歪みを正せば上記のような変化が起こってくる・・そういう話は、読者諸氏もどこかで聴いたことがおありだろう。私もかつて、いくつかの書籍を熱心に読み、実験・実践してみたことがある。
 しかしながら、それらの本に説かれている内容及び技術をほとんど理会できず、行なっても顕著な効果を感じることができなかった。そもそも自分の歪みが何を原因としており、体のどこがどのようになっているのか、色々な「タイプ」分け法に従ってチェックしてみても、「これ」にも当てはまるが「あれ」にも何となく合致するといった次第で、さっぱり要領を得ない。仕方ないから、内的意識を常に研ぎ澄ませることにより、身体的アンバランス感を是正するよう努めてきた。

◎ところが、2年前、ふとしたことから自らの身体の歪みの根本原因が突然わかった。
 単行本にも書いたが、私は生まれつき片耳がまったく聴こえない。すると音の3次元的要素が完全に失われる。つまり、どんな音も平面的で方向性がない。両耳が普通に聴こえている人には、実感があまり湧かないらしいが、片耳を完全に塞いで数日生活してみれば、私が述べていることをご理会いただけると思う。
 片耳だけに注意を集中して聴こうとすれば、自然に首がねじれ、首と腰は連動しているから腰もねじれ、かくして全身がアンバランスに歪んでいく。この程度のことは誰でも推測がつくし、私も以前から自覚して、日常生活の中で常に注意を払ってきた。夜寝る時に耳栓を使うだけでも、随分偏りが正されるものだ。

◎2年前、沖縄の西表島(いりおもてじま)巡礼を契機として「わかった」のは、耳そのものの意識が、私の場合極端にアンバランスになっているという事実だ。聴こえる側はよく意識できるが、もう一方の耳は非常に存在感が鈍く、どこに位置しているかもよくわからない。ヒーリング・タッチを使って初めて、どこか遠いところから時間をかけて戻ってくるような感覚と共に、少しずつピントが合ってくる。
 そして耳の感覚/意識(存在感)が、聴こえない側の耳そのものにおいて合致した時・・・・・、突如として全身の骨格が内側から組み換えられ始める! メキメキ、ギリギリ、あちらをひねり、こちらをねじり、複数箇所で同時に互いの位置関係を調整しつつ、呼吸によって生じる全身の伸縮を巧みに利用しながら、絶妙の操作が内的に加えられる。・・・あっという間に身体各部の違和感が正され、上下、左右、前後の感覚が「均等」になっていく。

◎例えば直立し、左右いずれかの耳に少しだけ注意を傾ける。そちらの耳で、より多く聴こうとする。その状態で前屈してみれば、耳の意識のちょっとした偏差がどれほど全身に大きな影響を及ぼすか、直ちに理会できるだろう。その歪みに気づかず、熱心に日々体を鍛えたとしたらどうなるか?

◎耳にヒーリング・タッチしたことで、劇的ともいえる骨格整正が起こるのはなぜか? ・・・・・・そう考えた瞬間、耳の奥にある三半規管の、あのSF的な造形が脳裏に閃いた。そして、その意味が「わかった」。
 マナが聖性示現する際には、このように疑問と答え、そして両者を結ぶプロセスのすべてが、同時にやってくる。「超越的」と私がしばしば言う所以(ゆえん)だ。
 ご承知の通り、三半規管は全身の平衡感覚と深い関わりを持つ。三半規管そのものをヒーリング・タッチで意識化し、左右をクロスオーバーすることで、「平衡感覚」を錬り磨くことができるのだ。

◎耳孔にそっと指を入れ、指先に意識を研ぎませつつヒーリング・タッチ。一指禅の訓練がこんな思いがけないところで活きてくる。・・・数秒ほど待つと、「それ」が起こり始める。全身の骨格が内面から組み換わる。
 実感としては、体の形がみるみる変わっていく。外形がそれほど変化するわけではないが、内的には大きな配置替えが起こる。各筋肉や腱のトーン(緩みと張りの具合)がまるで違うものになってしまう。
 こうした内的変化は、ヒーリング・タッチにより触知可能だ。皮膚の中身が信じられないようなやり方でうごめき、みるみる組み替わっていくのがわかる。
 こういう複雑にして精妙、しかもダイナミックな変化を、外部から骨格を操作することで直接引き起こせるとしたら、それは大変な技術だと思う。少なくとも、私にはできそうにない。今の私にとっては、ただ耳の穴とヒーリング・タッチで触れ合い、耳の奥をダイレクトに感じれば、それでよい。最初は、大まかな広いエリアで充分だ。
 後は身体自身が必要なことをすべてやってくれる。身体の叡知を信頼し、それに任せ切ればよい。

◎三半規管が耳の奥のどのあたりに位置しているか、解剖学的構造を確かめた上で耳孔にヒーリング・タッチすれば、より奥深いレベルで身体の調律が起こる。
 耳の穴のアングルも、実際に指でよく触れ合って感じてみれば、思いがけない角度になっている。指の周囲すべての感覚を使って、耳孔の形・位置・角度を丁寧に感じるように。両耳に綿棒を入れ、鏡でどういう角度になっているかを確認することをお勧めする。

◎半世紀近くに渡って蓄積し続けてきた歪みが、1日や2日で解消されるはずは、もちろんない。筋肉も相当アンバランスになっているはずだから、それがまとも(普通)になることなどそもそもあり得るのかとも思う。
 が、毎日気づいた時に実行することで・・・この修法は寝ていても歩きながらでも、信号の待ち時間にあれこれ体を捻りながらでも、いかなる態勢でも行なえる・・・確かに「変わり」つつあることを時々刻々、実感しつつある。
 まず、何をやるにしても楽で自然だ。ヒーリング・アーツの修法を実践しても、身体全体がそれを歓び、受け入れるのが実感できる。必然的に、修練の効率及び効果が劇的に向上しつつある。
 肉体労働で体のどこかが変な疲労感を覚えても、耳にヒーリング・タッチすれば、偏った疲れがただちに散り始め、左右均等になった瞬間、心地よい充実感へと変容する。バランスよく体を使って働けば、疲労が壮快なものになるという話は本当だった。

◎左右の耳の意識/聴こえ方がまったく等しい人に、いまだ出会ったことがない。利き耳というものは確かにある。ということは、三半規管も左右アンバランスに使われている可能性が高い。これまで調べた人は、皆そうなっていた。

◎三半規管は、ただ倒れないようバランスを取るだけではない(それだけでも凄いことだが)。
 例えば、腕をちょっと曲げた状態で、耳に指を入れてヒーリング・タッチ・・・すると、筋肉や腱、筋膜の全身的トーンが内面的に(皮膚で囲まれた空間内で)切り替えられ始める。五感を始め、人間のあらゆる営みにおいて実践すれば、自ずから中庸・中道が顕われてくる。

◎今回説いた三半規管の意識化は、「ヒーリング・バランス」中の一法だ。ヒーリング・アーツにはこの他にも、全身の平衡を図る修法がいろいろある。
 アルテミス修法も、応用次第では心身調律法となる。各自で工夫してみるといい。

<2009.03.10>