Healing Discourse

ヒーリング随感2 第18回 オラン・スンガイ

◎マレーシア領ボルネオ、サバ州。
 密林のエネルギー・ルート、大蛇[おろち]のようにうねり流れゆく大河・キナバタンガン。

サバ州最大の河、キナバタンガン。

 最近、<河>からの呼びかけ[コーリング]をしばしば感じるようになった。ナイル、ガンジス、メコン、インダス、チグリス・ユーフラテス、長江、ザンベジ、ミシシッピ、アマゾン、キナバタンガン・・・。いずれの名も、強烈な吸引力をもって私を魅了する。
 キナバタンガン・・・この言葉を満身に響かせる時、ボルネオ先住民らが描く蛸足のドラゴンの如き生[ナマ]の流動を、私はしばしば内観(感)する。
 腰椎の両脇にある太いスジ(脊柱起立筋など)を支え(中心)として、言葉のヴァイブレーションを響かせる、それが言霊法[ヒーリング・ヴォイス]の基本だ。腰スジに自らの音声が共鳴するようになれば、言葉が即いやしとなり、健康賦活法となり、願望成就法ともなる。
 蛇足だが、食べ物を噛む際にも、腰スジの弓[アーチ]を意識化することをお勧めする。咀嚼しながら、腰スジにヒーリング・タッチし、そこを動作の中心として意識する・・・と、上あごと下あごの使われ方、コンビネーション、トーン、細やかさなどが、瞬時に劇的に、変わる。
 ひとたび体験すれば、噛むという動作の全身的中心が外れることが、顎の動きの変質[アンバランス]を招き、充分動かない部分、使われない部分に血液停滞が起こり、歯周病等の原因となる事実が、各自の身体そのもので如実に「わかる」はずだ。

◎地球上で最も生命[いのち]が濃密とされる場所を、私たち夫婦は昨年に引き続き、巡礼のため再び訪れた。
 マレーシアとはよほど縁があるのだろう。これまで何度この国を訪ねたか、よくわからないほどだ。妻は、昨年初めて訪問してたちまち恋に落ち、「次はいつ、今度はどこに・・・」なんて、しょっちゅうやっている。マレーシアでは、あちこちで「Beautifull girl!」と言われ(まんざらお世辞でもなさそうだ)、若い女性たちから美容の秘訣を真剣に尋ねられたりするから、マレー熱[フィーバー]がますます高じようというものだ。

キナバタンガン河を見下ろすシャレーのバルコニーにて。

◎河のほとりで生まれ、河と共に生きる人々を、オラン・スンガイとこの国では呼ぶ(オランは人、スンガイは川/河の意)。
 河の民。オラン・スンガイみたいに河辺で暮し、河と触れ合い、河を感じ、河と共振し、河という存在そのものを我が身の裡に映す。そうやって河から教えを受け、学ぶ。それが、今回の巡礼のテーマだ。

◎コタキナバルからスールー海に面したサンダカンへと飛び、そこから車で約2時間、こたびの巡礼地と定めたキナバタンガンの中心地・スカウ村に到着した。
 まずは河で禊を、と思ったが、何しろ写真のようなやつがうようよいるところだ。全身を河に浸すのは諦め、もっぱらボートを介して波紋と共鳴することに専念した。

イリエワニ。滞在したリゾートホテルの船着き場すぐそばで、夜間に発見・撮影。頭だけで60~70センチくらいあった。人を襲うことがある、とされる種類。

◎スカウでは、小舟に乗り込み、朝、夕方、晩と、定期的にリバー・クルーズに出かけるのが、私たちの日課となった。ホテルのオーナーに誘われ、熱帯の太陽が容赦なく照りつける真っ昼間にも釣りに出かけたりした。
 毎日6~7時間をキナバタンガン河の上で過ごしたことになるが、朝もやに烟る水墨画のような幻想的光景に酔いしれ、原始の森の超立体感に驚きの目を瞠り、あるいは蛍が飛び交う深夜の支流に分け入って精霊の蠢[うごめ]きを体感するなど、退屈している暇[いとま]は全然なかった。
 絶妙のタイミングで、珍しい動物や鳥が姿を現わし、クルーズに華を添えた。
 今回の巡礼では、写真もしっかり撮ってきたから、新趣向のスライドショー形式にて、その一部をランダムにお目にかける。メドゥーサ修法ができる人は、観の目モードを使って向かい合えば、さらに楽しめるだろう。写真中央(中心)にまず視点を定めてじっと見つめ、視点は変えずに「見つめる(凝集する)」ことだけをレット・オフする(オフの裡に留まり続ける、オフを無限に連ねていく)。

◎前回、腰スジと腹を対応させつつ、あらゆる姿勢・動作の中心に据える「腰腹相照原理」について述べた。
 希望者に試験的に教え出してからまだ日が浅いが、非常に奥深い(根源的な)変化を経験し始めた人が、すでに何人も出ている。
 腰と腹が対応しつつ起動すると、その場でみるみる体型が変わり、動きが質的に変わる(高性能となる)。
 ある女性からは、次のような体験談が届いた。

 ・・・前略・・・臍の裏に調腰板(かまぼこ型の板。腰スジのカーブに当てて反りを補助)の頂点がくるようにして腰スジに敷いた状態で、先生に臍とヒーリング・タッチしていただきながら、臍に垂直線を通していくと、姿勢がガクガクと強烈に変化していきました。
 仰向けになっている状態で臍が真上を向いておらず、まったく違う方向を向いており、臍が歪んでいたのだと分かりました。そして臍の奥にあるブロックが浮き上がってきて感じられ、その強い痛みに驚き、思わず叫んでしまいましたが、それを受け容れていくことでみるみる開かれていき、それは臍が歪むことでつくられたブロックなのではないかと感じました。
 当日、私は生理の2日目を迎えており、前日は生理痛が重く、当日の朝も下腹部の重さを特に感じていました。
 先生に促されて、生理の痛みがひどいときの状態を、調腰板を敷いた状態でつくってみたのですが、腹直筋が変に縮んで臍も歪み、そうすることで生理時の鈍く痛む重い感じが戻ってくることを感じました。
 それから調腰板で腰スジを扇のように開きつつ、同時に臍を境として腹の左右・上下を均等に分けていくことで、歪んで縮んでいた腹がメリメリと伸ばされていき、先程まで感じていた重さがスカーッと爽快に消え去っていって、それは本当に劇的な変化で、凄いとしかいいようがありませんでした。これほど爽やかに生理痛が消えていく瞬間を、生まれて初めて体験しました。・・・後略・・・

 ある合気道指導者は、腰腹を相照させ袴[はかま]を穿くようにしたら、より無駄なく動けるようになり、術[わざ]のかかり具合が明らかに良くなった、と報告してくれた。
 次のような体験談を送ってくれた人(男性)もいる。

 ・・・前略・・・相承会前に先生のご自宅にて何手か腰を整え、全身を整える術を掛けていただいたところ、今まででもっとも全身が隙なく統一され、全身のバランスが一変することに驚愕しました。今までも全身が変化することは何度も経験していますが、腰を中心にして整えることで、これほど短時間で、精密にバランスが整えられる経験は初めてでした。一時的であるにせよ、全身の意識化がバランスよく進んだ結果、背筋[せすじ]、腹筋[はらすじ]が、文字通りスジになっていて、無数の繊維があって、そのスジが全身の在り方を規定している、根本になっている、ということが非常にはっきりとわかりました。
 私個人の実感では、仙骨や骨盤周辺にかなり根深い、主に、古い、腰を反る、という誤ったコマンドによって徐々に堆積したブロックが潜在しているようで、腰の使い方を変えることでこれが掘り起こされ、解消されれば、相当な変化が心身に起こるのではないかと感じています。・・・後略・・・

◎腰椎や腹直筋、胸郭、骨盤などの解剖学的構造はどうなっているか、どこがどういう風につながり合っているか、そういうことについては現代科学が非常に細かいところまで明らかにしてきている。
 しかし、その構造をどうやって使うのが最も自然(=効率的=健康的)なのか、私たちの大半は知らないし、疑問に思ったことさえないのではなかろうか? 
 骨をつなぎ、動かす「スジ」がある。
『ヒーリング・アーティスト列伝』第1章でご紹介した井上仲子は、万病と対応する「臍すじ」を発見した。
 肥田春充は、腰と腹の即応・統合が強健をもたらすことを示した。
 腰腹相照原理とは、これら優れた先人たちの業績をエッセンスとして吸収し、学び、取り、よりわかりやすく実行しやすくバージョンアップされた現代版煉丹法の基本コンセプトとして、私が今、新たに提唱するものだ。要は、臍(腹)すじ、腰すじ、背すじ、首すじの対応関係について述べたもの、といえるだろうか。
 肩とか首、背中、腰などが凝った時、一生懸命もみほぐそうとして力を入れギュウギュウやっても、労の割に効少なきことは皆さんもしょっちゅう経験していらっしゃるだろう。それは、押さえる方向を間違えているのだ。
 しかるべき方に力を向け直しさえすれば、軽いタッチでも驚くほど「効く」ようになる。骨を動かす方向は、どこの武術流派でも秘伝とされているようだが、これはただある角度にプッシュする、といった単純なものではない。スジのカーブを体性感覚のレベルで意識化し、その曲線(面)に常に直角にタッチすることが秘訣[シークレット]だ。これができるためには、意識を空間的・複層的に使いこなせることを前提とする。

<2010.09.16 鶺鴒鳴(せきれいなく)>