カヴァカヴァの潜在的危険性〜副作用、相互作用などについて

帆足茂久(医学博士)

 いかなる食品、ハーブ、薬品であれ、不適切に使用すれば人体に有害であることはいうまでもありません。大量の醤油を一度に摂取すれば死亡することもあり、また秋の味覚の王者であるマツタケも茸アレルギーの人にとっては毒となりえます。
 そこでカヴァカヴァを安全に楽しんでいただくために、このハーブの潜在的危険性について医師の立場から論じてみたいと思います。ただし、カヴァカヴァの副作用に関する医学的報告のほとんどは、後述するようにカヴァカヴァそのものではなく、カヴァカヴァから有効成分を化学的に抽出した製剤に関するものであることを、あらかじめご了承ください。

1)肝臓への影響

 カヴァカヴァに関する最近の情報では、カヴァカヴァの成分を含んだ錠剤が生んだ事件があります。それは肝臓に重大な影響を及ぼすというものです。その多くはヨーロッパからの報告でしたが、この情報を元に、いくつかの国でカヴァカヴァの成分を含んだ製品が販売中止となったり、注意勧告がなされたりしました。
 しかし、本当にカヴァカヴァ自体に問題があるのでしょうか? 南太平洋の広い地域においては日常生活の中で大量のカヴァカヴァを摂取しているという事実があります。そうした国々でのカヴァカヴァの摂取法は伝統的方法に従ったものであり、有効成分のカヴァラクトンのみを化学的に抽出し製剤にする方法とは異なります。
 カヴァラクトンを化学的に抽出し製剤にする場合、主にアルコールを用いて高濃度のカヴァラクトンを抽出します。したがって、カヴァラクトンの量的問題が考えられ、問題となった製剤(これらのほとんどがアルコールなどにより抽出されています)を大量に摂取したため、体内に取り込まれるカヴァラクトンが過剰となり副作用が出現したのではないか、ということが考えられます。
 しかしながら、もしカヴァラクトンの大量摂取が肝臓に毒性を引き起こす大きな要因ならば、カヴァカヴァを日常的に大量摂取する南太平洋諸地域の人々にも、肝毒性からの重篤な病気の発生が見られるはずですが、そうした事実は現地の医療機関によって報告されていません。
 カヴァカヴァの副作用に関しては、オーストラリアでのケースもあります。オーストラリアでは、1980年代、アボリジナル(オーストラリア先住民)に対してアルコールの代用としてカヴァカヴァが紹介されました。それは結果としてカヴァカヴァの乱用を引き起こし、死亡事故も起こりました。
 しかしながら、それらのほとんどの場合において、患者はカヴァカヴァを使用し始める前にすでにアルコール中毒となっており、大量のカヴァカヴァとともに大量のアルコールを同時に摂取していたようです。
 カヴァカヴァと肝毒性に関して報告された海外の医学文献をみると、近年になり、そのシェアの増加と肝毒性にて注目を浴びるようになってからは、ハーブとしてのカヴァカヴァとカヴァカヴァの成分を含んだ製品とを区別するような表現(例えばカヴァカヴァ含有製品といった表現)を使用しています。これは両者が異なることを示唆していると思えます。日本の厚生労働省薬務課に問い合わせたところ、やはり天然ハーブのカヴァカヴァ(パウダー)と、人工的なカヴァカヴァ製剤とは別物と考えている旨の回答がありました。
 FDA(合衆国食品薬品委員会)はカヴァカヴァ含有製品の利用に関して、消費者とヘルスケアに携わる人に肝毒性の可能性について忠告しています。そして、すでに肝臓病を有する人や肝臓病になるリスクのある人(アルコールを大量摂取している人など)にはさらに警告を促しています。ヘルスケアに携わる人はこうした製品を利用するにあたり、患者に肝臓に障害がないか質問をするよう考慮すべきであるとしています。
 天然のカヴァカヴァは、人工的なカヴァカヴァ含有製品とは異なることを考えると、肝臓に対する影響は乏しいと思われます。私を含む多くの友人たちが、十年以上に渡り、定期的に(中にはほぼ毎日)カヴァカヴァを楽しんできていますが、健康診断で肝臓に問題が発見された人は1人もいません。しかし、こうしたカヴァカヴァに関連した情報は知っておくべきでしょう。

2)その他の副作用

 ドイツでは3000人以上からの副作用に関する調査が行われています。カヴァラクトンを日に120〜240mg摂取している人の2.3%に、日に105mg摂取している人の1.5%に副作用が報告されました。もっとも頻度が高いものは胃腸障害、皮疹、頭痛、そして光線過敏でした。
 南太平洋では(天然ハーブの)カヴァカヴァによる皮膚の副作用が報告されています。それは「カヴァ皮膚病」と言われ、鱗屑(りんせつ)状の発疹を示します。皮膚は黄色くなるので、一見、肝臓が悪いのではないかと思われるのですが、患者自身いたって元気で、発疹はかゆくなく、そしてカヴァカヴァの摂取量を控えることにより改善されることが特徴とされています。現地ではこうした症状は病的な副作用というよりは、むしろカヴァカヴァ愛好家の「勲章」として自慢の種となっているようです。この症状が現われるには、相当大量のカヴァカヴァをかなりの長期間(数十年以上)に渡って継続的に摂取しなければならないとのことです。

3)相互作用

 海外の報告で、カヴァカヴァとアルコール、あるいはベンゾジアゼピン系薬物、バルビツレート(両者とも催眠・鎮静薬)、その他の中枢神経に活性のある物質との組み合わせでの服用は、相乗効果による副作用を引き起こす可能性があることが警告されており、カヴァカヴァの摂取時にはこうした薬物にも注意すべきでしょう。

4)要約

 肝臓に何らかの問題がある人、現在催眠・鎮静薬を使用している人がカヴァカヴァを使用する場合は、かかりつけの医師の指導を仰ぎつつ、ごく少量から慎重に実験を進めるべきでしょう。何らかの副作用が現われたら、ただちに使用を中止してください。カヴァカヴァとアルコールの併用は、いかなる場合もお勧めできません。
 妊娠・授乳中の女性、また未成年者も、カヴァカヴァを避けてください。
 カヴァカヴァのドリンクを作るためには少々手間がかかり、またできあがった飲み物はかなり苦くて、口中がピリピリと痺れます。ですから有効成分のみを抽出して小さな製剤にし、手っ取り早く効果を得ようという気持ちはわからないでもないのですが、それが少数とはいえ有害な副作用を引き起こした事実を考えると、やはり伝統的な方法にしたがって使用するのがベストであるといえます。南太平洋諸地域では2千年以上にわたって多くの人々に愛好され、安全性が確認されてきているわけですから、先人の知恵を尊重するべきだと思います。
 以上を要約すれば、肝臓病や抗うつ剤を使用しているなどの特殊な場合を除き、一般的な健康状態にある人が、アルコールとの併用を避けつつ、常識的に使用する限り、カヴァカヴァを安全に楽しむことができるといえるでしょう。

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