太靈道断食法講義録 第6回

第3節 水分の注意

 水分というのは、食物中の流動物を意味するのであるが、日本において一番普通の飲料であるところの茶も、断食中には飲まない方がよろしい。ただ純良なる水の適量を用ゆることは差し支えがない。その水の中でも、水道の水には自然の精気が少ないため、なるべく用いることを避け、井戸の水を使用することが望ましいのである。なぜかというに、井戸の水は自然の精気を多く含み、生命機能を旺盛ならしむる作用を有しているからである。
 茶は用いない方がよいと述べたが、茶の中でも特に番茶を選び、それに小量の塩を混じて晩に飲むことは、短期断食の際は敢えて差し支えないのである。
 水分の量は、天候に比例するということができる。好天の際は多量を用い、曇天の時は小量を用いることになっているのである。そして、多くの断食者の経験談を総合すると、仮に晴天といえども、2、3日中に曇天または雨が来ようとする時には小量の水分で足り、またこれと反対に、雨天の場合といえども、2、3日中に晴天となるべき時には、水分を用いることが比較的多量であるということになる。すなわち、断食を行う場合には、自ずから天気を察知することが可能になるのである。このように断食中に要する水分の量は、天候のいかんによってその増減を見るのであるが、それらを総合平均すると、1日の平均需要量2合(360cc)くらいになるのである。しかし、この平均の分量に拘泥して、天候いかんに関わらず、毎日一定の分量を摂取していると、かえって健康を損なうに至ることがある。
 そもそも、人間が宇宙生命と相連関してその生を保っていく以上、宇宙生命との交渉を顧みずに行動するというのは、生命の軽視であるということになり、そこに何らかの変調を惹起するに至ることは、自ずから明らかなる事実である。

第4節 沐浴の注意

 断食中における温浴は、絶対に禁ずべきである。もし温浴の冒険を敢えてすることあらば、著しく体力を減殺され、甚だしき機能の萎縮を来たすものである。これに加えるに、ひいては疾病を醸すことなしとも言い難いのである。しかれども、全然沐浴を行なわざるにおいては、皮膚の気孔ふさがるるに至り、これもまた不健康の元となるのである。
 すなわち、如上の理由により、水浴を行う必要を生ずるのであって、この水浴を行いたる後、その皮膚を検するに、健康者に見るが如き光沢を持ち、膨れ上がりて著しく弾力を増したるがごとく感ずるのである。それと共に、身体の機能も極めて旺盛なるを見るのである。
 水浴の時刻は、朝をもって最良となすのであるが、また夜間就寝前に行うもよろしい。
 しかし、水浴後直ちに火熱に近づくのは、健康上極めて不良の結果を招き、第一に脳に及ぼす影響は最も不良であり、これに従って身体全部にわたり不利な結果を見ることになる。
 さらに、この水浴を、断食後といえども継続して行う時は、健康上非常の好果をもたらすものである。ゆえに水浴は、常時においても必要な事柄であると共に、断食時にあっては必ず実行すべきものである。

第5節 飲料の注意

 第3節においてすでに水分に関する注意を述べ、さらにまた飲料に関する注意を述べるというのは、いささか重複するやの感ありといえども、ここにいう飲料とは、水以外の飲料を指すのである。
 しかして断食時においては、水以外の飲料は何であれ絶対に禁絶すべきである。すなわち、酒類、サイダー類のごときは、いずれも取ることを禁ずるのである。氷水等はもちろんよろしくない。
 ただし、塩水、珈琲糖水、砂糖に塩を加えたる水のごときは、若干用うることは差し支えない。すなわち、塩水を用いてなお渇きを覚ゆる場合は、珈琲糖を少しく水に溶きて飲むがよい。また、砂糖水に小量の塩を混ぜて用うるのも不可ではない。

第6節 補食の注意

 断食中においても、周囲の事情によって補食の必要な場合が生ずることがある。すなわち、天候の変わり目または気温の変化等によって、補食の必要が起こってくるのである。
 断食中における空腹が、苦痛を訴えるほどに強くなってきた場合、それを忍びつつ断食を続行するのは、心身に悪い結果を来すものである。断食は単に何週間断食を続行したという、そのことに意義があるのではなくて、長期に渡りて飢餓に絶え得る力を養うことにおいて、断食の意義と価値と尊さがあるのである。
 断食開始後4日目、5日目頃には、非常なる空腹を感じるものであるが、かかる場合には適当の補食をとる必要がある。
 しかし補食は、いずれの場合においても必ず粥もしくは重湯に限るのである。これを軽率に考えて、流動食ならば差し支えなからんと思い、ミルクなどをとることはよろしくない。ただし、これは日本人を主として言うのであって、日本人と習慣を異にしている外国人なれば、話はまた別である。
 粥または重湯以外の固形物を補食とすることは、もちろん弊害があるのである。
 捕食の分量は、なるべく少量なる方がよい。しかして、捕食には決して糖分を混じてはならない。菓子等を取るのは非常によくないことである。

第7節 精神上の注意

 精神上の注意としては、第2編第3章において述べたるところの、精神上の準備と大同小異であるから、その項目をよろしきにしたがって適用すればよい。されば煩わしくここに再説することは避けることにする。
 要するに断食中においては、精神を乱雑に用いることと、あまり思考に耽ることは禁ずべきことである。
 精神を使う必要ある時は、補食を取った上のことにすべきである。また、補食中においてこれをなすのは、もちろんよろしからぬことである。これらの理由については、前編においてすでに詳述した如くであるから、よろしく参照すべきである。

第8節 肉体上の注意

 肉体上の注意についても、前節・精神上の注意と等しく、これを乱雑に用うことを禁じなければならぬ。座業、手先の仕事などは、比較的労力を要すること少なきがため、ややもすればこれを軽視し、これを敢えてする傾向があるが、共によろしからず。長期の断食においては、特に慎むべきことである。また、短期断食といえども、なるべく身体を労せざるよう、努むべきである。