Healing Discourse

ヒーリング随感 [第5回] 形の裡

◎妻の新曲『夜光貝』(シェルコレクション・シリーズ#2)に導かれつつ、手を柔らかくしっかり振りほどき、全身を揺さぶり、レット・オフを使ってたまふり状態を励起した。そのまま直ちに、仰向けにピシャリと横たわる。
 芸術作品としても完成度が高いこの曲においては、ヒーリング・アーツの様々な波紋の作用を音楽的に表現するという新たな試みがなされている。
 静かに音楽に耳を傾ける・・・と、全身のあちこちに、いろいろな角度から透明に輝く水滴が次々と滴り落ちてくる、そんな不思議な感覚が起こってきた。
 ウンディーネ(水精)のタッチ。その1つ1つから同心円状に波紋が拡がり、互いに響き合い、絶妙なヒーリング感覚となって全身を満たす。音が接近したり後退したり、まとまったり拡がったり、移動したりうねったり・・・・。
 面白い。
 素晴らしい。

◎心身の上に積もる埃とは・・・・既成概念(思い込み)であり、先入観であり、偏見であり、子供っぽさへの軽蔑であり、狂気への恐怖だ。
 まずは、見ようとすること、感じようとすること、聞こうとすること、これら1つ1つを丁寧に感じ、強調し、レット・オフしていくことだ。
 感覚に歪みが伴っていることが、だんだんわかってくるだろう。見ようとするだけで、どこかに力が入る。そういう歪みを開き放たない限り、鏡に映すように、物事をありのままに「観る」ことはできない。
 
◎肥田春充(肥田式強健術・創始者)曰く、「天地万有の原動力とは? 拡散力と凝集力との、争いに外ならず」と。
 ヒーリング・アーツは、この凝集・拡散の作用を活用する。それは自分自身と息を合わせ、人と息を合わせ、宇宙と息を合わせる術(わざ)だ。

◎ヒーリング・タッチの第1の要訣(重要な秘訣)は、「ゆっくり、柔らかく、粒子的に」。
 第2は、「相対(あいたい)する皮膚面を直交させて触れ合う」。
 第3は、「形を感じる」。
 この第3要訣を実践・体感してみよう。
 かしわ手を打った手で、自分の体の形を丁寧に、正確に感じていく。適当にやっただけで「何も起こらない」と早急に結論づけることの、どうかなきよう願いたい。おそらく、あなたの人生の根幹にまで関わるであろう重大事について、私は論じている。
 寝ころんで、自分の体のいろいろなところと触れ合っていく。手が届く場所はいくらでもある。体を折り曲げれば、足先とだって触れ合える。ただし、どこにも窮屈さがないように。
 滞ることなく流れるように掌をゆっくり移動させ、あるいは同じところを何度も繰り返し行ったり来たりして、「つながり」を確かめる。言うまでもなく、体表面のすべてが1つに連なり合っている。
 体表が非常に複雑な形状をなしていることが、知的に理解できるだろう。その理解を、体自身で感じる「理会」へと変容させていくのだ。理会とは、思考という精神作用(マインド)を介さず、身体によって直接知ることを意味する。頭で考えるのではなく、体で感じる。知識とは異なる認知のモードだ。
 表面の形を充分感じたら、今度は形の中身(空間性)を感じようとしてみる。・・・・・・・そのようにして、裡へと超越せよ。

ヒーリング・ムービー#23で示演している修法(上腕二頭筋の開放。公式の詳細は単行本で解説)に第3要訣を適用すれば、さらなる熟達が直ちに起こる。
 そのためには上腕二頭筋(力こぶの筋肉)とヒーリング・タッチで触れ合い、筋肉のカーブ(形)を丁寧に正確に感じる。そういう曲面を有するものに対して自分は働きかけているのだと、まず体そのもので理会する。上腕二頭筋のそのありのままの形を、触覚的に感じるのだ。
 腕を少し曲げたり伸ばしたりしながら、そのカーブの裡(空間)で上腕二頭筋の筋繊維が集合的に収縮したり緩み拡がったりするのを感じていく・・・。そこで体感的に見出されるものと、これまであなたが上腕二頭筋の緊張・弛緩と感じていたものとの、あまりの落差に驚くことだろう。

◎意図の働きの一例。
 術者は水を入れたグラスを持ち、受け手(複数でも構わない)は術者の身体とそっと触れ合っておく。まず術者は、「(固体の)グラスを持っている」と意図する。受け手は特に何も感じない。普通に人と触れ合っている感じ、ただそれだけだ。 
 術者は次に、「グラスを手にしている」という意図から、「(グラスを通じて)水を持っている」という意図へと注意を移し替えていく。
 すると、身体が水のようにサラサラ流動的にほどかれ始める。術者の身体とそっと触れ合っている受け手たちにも同じ体感が「映り」、やがて全員が1つの流れとなったように溶け崩れていく。

 何らかのテクニックを使って、相手を崩したり倒したりするのではない。そういう意味では、「何もしていない」。ただ、注意をグラスから中の水へと移し替えるだけだ。
 イメージとか「そういうつもりになる」のとも違う。いくらイメージしても、何も起こりはしない。視覚的な焦点を移動させるのでもない。
 考えるのではなく感じるのだ。ヒーリング・タッチで「形」を感じる。まずグラスの表面的形(サーフェス)を感じ、次にその内部空間(サブスタンス)へと注意を向ける。
 グラスの形をした裡なる空間は、水で満たされている。その水と触覚的に響き合う時、驚くべき変化が我が身の裡に自然発生的に起こる。まるで水を満たした革袋になったみたいだ。ユラユラ波打つ感覚を身体内でリアルに感じる。
 私が面白いと思うのは、ヒーリング・タッチで術者と触れ合っている受け手たちにも、同質の変化が期せずして生じることだ。黙っていても勝手に同期(シンクロ)する。非常に繊細な神経情報が触覚的にやり取りされているのだろう。

◎手首を持たれた状況に対して、「掴まれている」から「掴ませている」へと意図を切り替える。あるいは、相手と掌を触れ合わせつつ、「触れる」、「触れられる」、「触れ合う(触れる×触れられる)」という3種類の触覚的意図を自在に切り替える。
 ヒーリング・アーツではこういうトレーニングを徹底的に積みながら、「意図」を鋭く磨いていく。

<2009.02.12>