解説/ヒーリング・ネットワーク事務局
ヒーリング・アーツの学びの場はいつも、皆で心を合わせつつ、共にかしわ手を打つことにより幕を開けます。そして、手と手をそっと柔らかく触れ合わせてヒーリング波紋の共振を発生させる「手合わせ」へと続いていきます。
手を打ち、合わせることは、私たち日本人が古来より行なってきた祈りの形であり、ヒーリング・アーツにおいては手の感覚を活性化させる大切な手法としての意味も持っています。
精密な身体感覚を用いて、オーロラのように揺らめく超微細粒子的波紋を自他の身体内に引き起こし、それらを意のままに操作する術(わざ)、それがヒーリング・アーツです。
受け手の肩の内面にヒーリング波紋を起こす術(わざ)が示範されています。ヒーリング・アーツの内的テクノロジーは物質と精神を超越して両者の源泉となる心身一元の領域に基盤を置くものであり、その効果は肉体のみならず精神にまで及びます。この肩へのヒーリング・タッチでは、受け手は肩が粒子状に分解されて柔らかく優しく崩れていくかのごとき身体感覚と同時に、重荷を下ろすような大いなる解放感を味わいます。肉体的感覚と精神的感覚とが渾然一体となって融合しているところに、ヒーリング・アーツによるいやしの効果の特色があります。このヒーリング波紋は、複数の受け手にも伝播していきます。
ヒーリング・タッチを応用し、骨盤の仙腸関節と恥骨結合を緩めほどく術(わざ)です。正確に行なえば、サラサラした液状感覚と共に骨盤が緩むのが、生理的にハッキリ感じられます。
ここでは上述の術を、多数に腰をがっちりつかまれ、身動きできなくなった武術的シチュエーションで応用しています。術者が骨盤を開放すると(他者の手の上からでも自分に術をかけることができます)、不思議なことに攻め手たちの骨盤にも同質の波紋が期せずして起こります。そして腰から虚空の中に溶け込んではかなく消えていくような拡散感覚を覚えつつ崩れ落ちていくのです。ヒーリング・アーツでは、こうした現象をヒーリング共振と呼んでいます。
柔らかな静的練修にある程度慣れてきたら、活動的でダイナミックな武術的状況で同一の原理を活用する稽古に入ります。動と静、剛と柔の練修を交互にバランスよく行なうことで、深さ、高さ、幅、奥行きのすべてを兼ね備えたトータルなヒーリング感覚を磨いていきます。ヒーリング・アーツにおける「ヒーリング」とは、心身がバランスよく活力に満たされ、気力が充実し、意識が鋭く研ぎ澄まされた状態を言います。
ここで示されているのは、筋肉を硬くさせるような力を一切使うことなく、身体の「内部」で繊細なるヒーリング波紋をコントロールすることにより、四方八方から自由に攻めてくる多数の相手を自在にさばいていく練修法です。
ヒーリング・アーツでは、脇と肩の密接な関係を重視します。脇をヒーリング・アーツで緩め開くと、たちどころに肩や胸が消えて透明になったかのような深遠なリラクゼーションが生じるのです。動画中に登場する「レット・オフ」とは、このような心身の粒子的開放を引き起こすための、ヒーリング・アーツ独自のインナー・テクノロジーです(レット・オフに関してはディスコースで詳説されています)。
脇から肩・胸が緩みとろけ、その余波が全身へと拡がっていくエクスタティックなヒーリング波紋は、術者と触れ合っている受け手にも共鳴して響き合ってきます。相手は心地よい流動感覚の中に溶けていくのを感じながら、ゆっくり床に崩れ落ちていきます。
ヒーリング・アーツの様々なメソッド(手法)を使って、身体の裡より自然に発するヒーリング・ムーヴメンツを呼び起こすことができます。通常の運動と異なるのは、「(自分が)している」という努力の感が一切ないこと、力をまったく使わず常にリラックスしていること、無理がなく長時間動き続けても嫌な疲労感を覚えないこと、動き舞うことが即ヒーリングとなること、意識が内向していくことなどです。
熟達すると、普段ならできないような動き、これまでやったことがないような動きが自然に現われてくるようになります。そのさらに先へと進むと、自然運動は超越的舞へと昇華され、一種の身体言語としての明確なメッセージ性と、物質と精神を超越した霊的主体性とを備えるようになります。このようないわば超意識的運動を、古人は「霊動」と呼びました。
ヒーリング・アーツは狭義の意味における武術ではありませんが、学習者は「活殺自在」というコンセプトの元、柔らかで優しい触れ合いの能力を育むと同時に、内的エネルギーを他者との関係性においてダイナミックに運用するスキルも養成していきます。
実際に術(わざ)をかけられ、流され、かわされ、崩され、倒される、その瞬間に、間合やタイミングの取り方が身体を通じて術者より受け手へとダウンロードされます。
ヒーリング・エクササイズ(旧・肥田式強健術)腹胸式呼吸法。腹式と胸式呼吸を交互に行ない、内臓の強壮をはかる呼吸法です。強健術は肥田春充(1883〜1956)によって創始された独自の心身錬磨法であり、ヒーリング・アーツの重要な礎(いしずえ)の一部をなしています。
ヒーリング・アーツの原理で指圧を行なうと、相手の腹を指先で柔らかく押さえるだけで、背中まで作用が浸透していきます。ここではまず数人を相手に、腹から背へ、背から腹へと行き来するヒーリング波紋を起こす術が示されます。それに続き、気合によってヒーリング波紋を加速度的に増幅させる武術的応用例が示演されます。
腹式呼吸で息を吸うと、横隔膜の緊縮圧下により腹腔・骨盤腔内の圧力が極度に高まり、腹部にある大動脈(人体最大の血管)から脚部へ向かって一気に熱い動脈血が流れ込んでいきます。腹式呼吸を行なっている術者の脚を強く掴んでおけば、横隔膜の動きに伴って術者の脚がはっきり膨らんだり縮んだりすることが確認できます。これは、脚内部の血管の膨張・収縮によって起こる現象です。
横隔膜の緊縮圧下をレット・オフでほどくと、術者の脚には柔らかく吸い込まれるような作用が発生します。脚を掴んでいた者たちは全身の力がフワフワと抜けてしまい、恍惚のうちにゆっくり倒れ込んでいきます。
骨盤底の隔膜をコントロールすることで、腸を中心とする消化管に特殊なヒーリング波紋を生じさせることができます。それは触れ合っている他者にも伝わり、腹の底から柔らかくとろけるようないやしの共鳴が起こります。
不動金縛りの術。満ちる波(内向波紋)と引く波(外向波紋)を同時に発生させてぶつけ合うことにより、受け手の心身は電撃を受けたような硬直状態に置かれ、思考することさえままならなくなります。それをゆっくり解除していくと、凍りついていた時間が溶けるように心身の流れが戻ってきます。
短棒術の一例。相手の左右の力が棒の中で平衡状態になっているゼロポイントを、触れ合った瞬間に感じ取り、そこを中心として相手をコントロールしていきます。ヒーリング・アーツでは、こうした訓練を通じて拮抗する力を融和・統合する術(すべ)を学び、自己の心身錬磨や他者の病気治療等へと積極的に活用していきます。
柔らかく緩み開いた術者の心身の状態が、複数の受け手に次々と伝わり響き合っていくヒーリング共振の一例です。やがて「往く波(術者から受け手へ)」と「還る波(受け手から術者へ)」とが複雑なハーモニーを奏で始め、受け手を身体内から揺さぶり、内的こわばりをほどいていきます。
短棒術、その二。棒を介しても、素手の場合とまったく同じようにヒーリング波紋は伝わります。棒にヒーリング作用が通じると、それを掴んでいる相手は、棒に手がピタリと吸いつき、棒と融合したような心地よい一体感を味わいます。
呼吸の速度をコントロールすることにより、ヒーリング波紋を極度にゆっくり、柔らかく作用させることも可能です。受け手は、時間の流れが緩慢になったような不思議な感覚の中で、身も心もとろけていきます。
ヒーリング・アーツを応用すれば、楽器演奏も直ちにいやしの術(わざ)へと変容します。楽器に対して能動的に働きかけつつ、同時に楽器から返ってくる反作用を受動的に受け入れると、相反する二つの方向性が身体内で交わり、融合して、意識の新たな超越的次元が開かれます。それは霊妙ないやしのヴァイブレーションを産み、演奏者と触れ合っている受け手の心身にもダイレクトに響いてきます。ここで使用されているのは、タイの伝統的民族楽器キムです。
組み手練修、その一。相対でしっかり組み合い踏ん張った態勢より、術者は瞬間的に心身統合のヒーリング状態へとシフトします。すると彼我のバランス関係が内的に変化し、新たに生まれ出たゲシュタルトの結果として、相手は自然に崩れていきます。
相手を崩そう(変えよう)として何らかの作為を弄すれば、却って両者の力がぶつかり合い、拮抗し、多大なエネルギー・ロスが生じます。それは日常生活における対人関係、対社会的関係においても同様です。ヒーリング・アーツの組み手練修は、対立状態から調和を生み出す術(すべ)を、全心身丸ごとで学んでいくためのトレーニング法です。
組み手練修、その二。ヒーリング・アーツの組み手練修には一定の決まった形式は存在しません。相手によって、状況によって、術(わざ)は自在に変化していきます。ここでは、相手の腕をからませて重心を崩す用例が示されます。これらの武術的練修はすべて、心身の中心や内的流動感覚への理解を深めることを目的として行なわれます。
身体の左右半身をそれぞれ個別に運用しつつ、左と右の意識をクロスオーバーすれば、自然に心身統一状態が惹起されます。それによって身体内に生じる流動感覚を応用することにより、次々と攻めてくる複数の相手を、一瞬たりとも留まることなく流れるようにさばいていくことが可能となります。
四方に注意を配りながら、流れを読み、内なる波に乗るこのような訓練を通じて、人生という大海を自在に航海するためのナヴィゲーション能力が培われていきます。
ヒーリング・アーツでは、ヒーリング作用を全身のあらゆる箇所から発する能力を養成するために様々なトレーニングを行ないます。ここでは下脚(膝から下)からヒーリング波紋を起こし、脚を強く掴んできた相手との間で共振させる術(わざ)が示範されています。骨盤を中心として、意識を脚の内部に納めることがポイントです。受け手は、自分がどのようにバランスを失ったかさえわからないまま、自然に崩れ倒れていきます。
組み手練修、その三。前腕の皮膚同士を柔らかく触れ合わせた態勢にて、術者は左右の半身を多層的に活用しつつ、皮膚面上を自在に巡る流動感覚を起こしていきます。身体運動の基本単位であり内臓のコントローラーでもある経絡(けいらく)を活性化させ、受け手との間で経絡同士を共振させる練修法です。
蓮華掌による上腕二頭筋へのヒーリング・タッチ。前腕を曲げ伸ばしする上腕二頭筋の作用を、この筋肉を覆う皮膚面上の粒子的拡張・収縮として触覚的に認知することでこの術は運用されます。蓮華掌を活用して上腕部の皮膚に虚実の波紋を起こし、これと連動する前腕の動きをコントロールすることで、上腕二頭筋開放の波紋を内向させ、身体内のより奥深い部分を緩み開いていきます。
ここではごく小さな動きで術をかけていますが、単行本『奇跡の手 ヒーリング・タッチ』では、初心者向けにもっと大きな動きを使ったわかりやすい手法が詳しく解説されています。
仙骨へのヒーリング・タッチ。ヒーリング・アーツにおける「柔らかさ」とは、単に身体の曲げ伸ばしの可動性だけを指すのではありません。仙骨がほどけるに従い、固く強ばった部分を粒子的に優しく分解するような独特の波紋が発生しますが、それがいかなる作用なのか、受け手と触れ合っている第三者の溶け崩れ方が間接的に表わしています。
蓮華掌の応用。空中に持ち上げられている状態でも、蓮華掌の開放作用を他者と響き合わせることができます。術者の蓮華掌の開花に合わせ、受け手全員が一つの波となったようにゆっくり崩れ落ちていきます。
高所から落下するなどして重大な事故に直結する可能性もあるため、ヒーリング・タッチの基礎原理を体得していない方が不用意に試みることはご遠慮下さい。
蓮華掌(れんげしょう)。蓮の花弁が柔らかく閉じたり開いたりするような精妙な作用を手の中心から起こし、他者とヒーリング波紋を響き合わせる手法です。多数で下からしっかり支えた手の上に術者が蓮華掌を載せ、閉から開へと波動的にフェーズ(位相)転換していくと、粒子的に緩み拡がる作用が徐々に全員へと浸透していきます。この際、術者の蓮華掌は常に受け手と同一の圧力を保って触れ合い続けるようにし、下に押すような作為的力を一切加えません。
蓮華掌の詳細は、高木一行先生・著『奇跡の手 ヒーリング・タッチ』に、具体的手法(第1~第4段階)がすべて公開されています。