Healing Discourse

ヒーリング随感5 第18回 肥[こえ]だめに落ちた男

◎若き日、沖縄の西表島[いりおもてじま]で、1人の熱心な蝶マニアと出会った。
 夏のある夜、焚き火を囲みながら、旅先で知り合った友人たちと一緒に、彼が「肥だめに落ちた」話を聴いた。
 ところで読者の皆さんは、肥だめというものを御存知だろうか?
 一昔前は、人糞を作物の肥料としてリサイクル活用することが全国どこでも普通に行なわれており、畑のすみなどに直径1メートルくらいの円筒形の穴が深く掘られ、そこに汲み取り式便所から糞尿を運んできて発酵熟成させていた。それが肥だめだ。私が子供の頃は、近所でもよく見かけた。

◎さて、くだんの蝶マニアは、ある日、珍しいギフチョウをとらえるべく、バスで長時間かけ、自宅から遠く離れた山奥の村へ出かけていったという。
 が、目指す獲物はなかなか見つからず、やがて日も傾いてきて、諦めかけた時・・・・ついにギフチョウ発見!
 逃してなるものかと必死に捕虫網を振り回すが、敵もさるもの、ヒラリヒラリと巧みに身をかわし、大人しく網に収まろうとしない。
 夢中になって追いかけ回すうち、アッと思った次の瞬間には、彼は肥だめに落ち、頭のてっぺんまで沈み込んでいた。
 サァ、そこからが大変だ。
 口の中に入った「肥」をピューッと吹き出すところから始まって、彼が、身ぶり手ぶりを交えながら、異臭を放つ肥まみれの異様な姿でバスに乗り込み、何とか自宅にたどり着いたはいいが、家の中に入れてもらえず、庭で1週間のテント生活を送るに至ったその一部始終を、微に入[い]り細に入り活写する話しぶりのあまりのおかしさに、私たちは笑いが止まらなくなり、皆、腹を抱えて転げ回る始末——。

◎以前は決して書かなかったようなこと——人間の暗部、愚部、醜部に属すような話題——を、最近の私がしばしば取り上げていることに、読者諸氏はすでにお気づきだろう。
 自分自身が肥だめに落ちてみて、明るさや光のみに目を向けていたのでは不完全であり、全[まった]き調和は得られないことに気づいた。
 暗闇の奥底へと真っ直ぐまなざしを注ぎ、そこにわだかまるドロドロした不定形の「モノ」を直視することを・・・・以前の私は避けていた。
 が、私はもう目を逸[そ]らさない。
 決して。

◎前回、茶番の如き裁判への関心を失ったと記したが、執筆直後、弁護士が留置所に私を訪ねてきて、3名の裁判官が私の裁判を担当することに決まった、と教えてくれた。
 事件の内容が重い場合や、裁判が紛糾して最終判断が難しいことが予想される時、あるいは社会的反響が大きい可能性があるケースなどで、通常は1名の裁判官が3名に増員されることがあるそうだが、今回のような件(私を取り調べた刑事は「ショボイ事件だ」と言った)では異例であるという。
 弁護士と相談した結果、そもそも私を裁こうとしている法そのものが違法ではないか、との論点から裁判で争ってゆくことになった。そういうことであれば、私も裁判に臨んで堂々と自らの主張を述べるにやぶさかではない。
 何だか面白くなってきた。

◎いまだ発表することができない『1万回の「愛してる」を、君へ』にも記したが、今春、龍宮館(自宅)フェンスの下のところから、見慣れぬ奇妙な葉が生え出てきた。

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 時折水をやりながら成長を観[み]守っていたが、初夏に咲いた花をみてあっと驚いた。
 10数年前、庭で1、2回育てたことがある、中米原産のタバコの一種ではないか。
 建物土台の切り立った部分に埋め込まれた、排水用の塩ビパイプの口へ、種が一体どうやって入り込んだものか、そして10年以上もたってから、今、なぜ突然芽ぶいたのか。
 タバコは本随感第12回でも記したように、南北アメリカ大陸の先住民文化全般において、神聖なハーブとみなされ、神々の世界と人間界とを橋渡しする作用を持つ、とされてきた。
 タバコの花言葉は、「あなたは1人ではない」だ。

◎これまで一面識もなかった人々までが、私を応援し、力づけて下さる。
 多数の人が私のために祈って下さっているとも聴いた。
 私は・・・・1人ではない・・・・。
 弁護士のことなど一切考えず、ただ1人でレジスタンスを完遂する覚悟で大阪へ乗り込んだ私にとり、実に意外な、これは、展開だ。

 ただ、ただ、有り難い。
 無限の感謝を捧げることしか、私にはできない。
 歓喜と感謝に満たされて、神々の聖戦を、非暴力にて戦い抜くのみ。

 樂[たのし]!!!

<2013.10.19 断食 Day26>