Healing Sound

たまふりオルガン

1. トッカータとフーガ ニ短調 13:16
2. 目覚めよ、と呼ぶ声が聴こえ 6:35
3. 装いせよ、おお、わが魂よ 9:54
4. おお神の子羊、罪なくして 12:42
5. 小フーガ ト短調 4:46
6. 主よ、人の望みの喜びよ 5:53

1~6:作曲/J. S. Bach
6:編曲/Harvey Grace
オルガン演奏/高木美佳
使用楽器/ヴァイカウント・オルガン
Viscount Classic Organ PRESTIGE Ⅰ

ラベル・デザイン/佐々木亮

たまふりオルガン

高木美佳

 偉大なる音楽の父、ヨハン・セバスチャン・バッハ(Johann Sebastian Bach)は1685年、ドイツのアイゼナッハに生まれました。生涯で250曲以上のオルガン曲を作曲していますが、バッハが活躍した当時は作曲家としてよりもむしろオルガンの名手としてよく知られていました。
 熱心なキリスト教信者だったバッハのオルガン曲は、すべて神に捧げられたものであり、その信仰の篤さ、深さが全作品に反映されています。
 パイプオルガンはキリスト教会とともに発展してきた楽器です。神への敬虔な祈りとともに、オルガンの特性を知り尽くし、弾きこなす力量があったからこそ、バッハのオルガン曲は他の追随を許さない高貴で燦然とした輝きを放っているのでしょう。もちろん国境や宗教を超えた芸術性においても比類ないものです。

オルガンについて

『たまふりオルガン』で使用されているオルガンは、イタリア製のヴァイカウント・オルガン<PRESTIGE(プレスティッジ) Ⅰ>です。このオルガンは電子式ですが、本物のパイプオルガンと遜色のない優れた音色を持ち、世界各地の教会でも採用されています。プレスティッジⅠは3段鍵盤と57個のストップ(音色選択ボタン)という、大型パイプオルガンと同等の規模と機能を持ちます。各ストップの組み合わせにより、無限ともいえるヴァリエーションの音色を創ることができます。同じ楽器で演奏しても、音色を創る演奏者によってまったく違う楽器に聴こえるほどです。音創りは、オルガニストのセンスがもっとも問われる部分です。

たまふりオルガン

 私がオルガンを演奏する前後には、合掌し、かしわ手を打って祈りを捧げます。演奏の合間にはヒーリング・アーツを実践して全身をよくほどき、活性化しながら弾いています。技術ではなく祈りの行為として、<たまふり状態>をキープしながら演奏することを心がけています。『たまふりオルガン』は、<たまふり(ヒーリング)>とバッハのオルガン曲とが融合した、古くて新しいヒーリング楽曲CDです。

※たまふりとは、心身が活き活きとした健康感や爽快感に満ちた、生命力あふれるヒーリング状態を指します。

1.トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
Toccata und Fuge d-moll

 バッハが作曲したオルガン曲の中でも、もっとも有名な曲のひとつといえるでしょう。一度聴いたら忘れられないトッカータ冒頭の旋律から、流れるように続くフーガは、オルガンの音色や機能を最大限に活かしきった名曲中の名曲です。何と、バッハ20歳頃の作品とされています。
「トッカータ」は、イタリア語の「トッカーレ(toccare)」という言葉に由来し、トッカーレとは英語の「タッチ」と同義語で、「触れる」、「撫でる」といった意味があります。速い動きのあるパッセージ、細やかで技巧的な表現を用いた即興的な楽曲のことを指します。そのためか多くのオルガニストが、この曲を非常に速いテンポで演奏しています。しかし大きな教会など、豊かな反響のある場所で速すぎる演奏をすると音と音が相殺しあって、聴衆には何を弾いているかほとんど伝わらないことが往々にしてあります。バロック音楽時代は、音楽の演奏速度をはじめ、人々の生活のテンポが非常に速かったといわれていますが、私はこの説に疑問を感じます。自動車や電話、テレビ、コンピュータなどがまったくなかった当時、時間感覚は今よりもずっとゆったりしていたはずです。また作曲家の立場からしても、何を弾いているのかわからないほどの急ピッチな演奏ではなく、聴衆に一音一音にこめられた音楽の意味を十分に味わってもらえる適度なテンポの演奏を望んだことでしょう。『たまふりオルガン』ではあえて悠然としたテンポにこだわり、ヒーリング・アーツの要訣を活かしながらヒーリング・トッカーレ(タッチ)として演奏しました。
 冒頭から4分7秒までのトッカータにつづき、フーガがはじまります。シンプルでありながら独創的な旋律が、何声にも絡みあいながら複雑な音楽建築を形作ります。フーガとは、2つ以上の同じ音型の旋律が組み合わさって構成される曲のことです。同じ旋律が異なる声部に繰り返し登場し、まるで旋律同士が対話をするように音楽が織りなされます。

→試聴する(約30秒)

2.オルガン・コラール 目覚めよ、と呼ぶ声が聴こえ BWV645
Wachet auf, ruft uns die Stimme

 変ホ長調、4/4拍子。カンタータ140番第4曲が原曲となっています。バッハ最晩年のころに出版された『シュープラー・コラール集』に収められたまさに円熟期の作品です。バッハが信仰したプロテスタント(ルター派)の教会では、音楽を神からの賜物と考え、聖書の言葉を音楽として表すカンタータが発達しました。
 一方、「コラール」はもともとルター派の教会で会衆によって歌われる賛美歌のことを指していました。一般信者が歌いやすい、単純で平易な旋律で創られることが多く、バッハはその旋律に厳格な中にも、思いもつかない奇想天外なアレンジを加えています。コラールの旋律が主役ではなくわき役にまわり、本来伴奏である部分の方がメロディーになり、足鍵盤によるベースの音もメロディーの一部分として低音部を飾ります。
 バッハ自身がオルガン用のコラールとして編曲したこの曲は、むしろオルガン・バージョンの方が有名になるくらいの完璧かつ素晴らしいアレンジです。アリアの歌詞は聖書の中の物語で、乙女たちが花婿を迎えるために舞い踊り、花嫁となる準備をする様子を謳いあげています。バッハのオルガン・コラールの中でもとくに有名な曲です。

→試聴する(約30秒)

3.装いせよ、おお、我が魂よ BWV654
Schmücke Dich, o liebe Seele

 変ホ長調、3/4拍子。『18のライプツィヒ・コラール集※』の中の一曲。このコラール集もバッハ最晩年にまとめられており、ひときわ深遠なオルガン宇宙を垣間見せてくれます。

 カンタータ180番からのアレンジですが、多くのオルガニストに愛される佳曲です。ロマン派の作曲家シューマンはこの楽曲を、「コラールの旋律が金の葉飾りによって美しく縁取られている」と評し、メンデルスゾーン(ロマン派の作曲家)もこの曲を愛奏したといいます。メンデルスゾーンはシューマンに、「私の人生からあらゆる希望と信仰が奪い去られたとしても、このコラールがありさえすれば、そのすべてを取り戻すことができるだろう」と語ったそうです。
「金の葉飾り」をあらわす部分は、ヴァイカウント・オルガンの特徴的なストップである、<Prinzipal 8'(8フィート・プリンツィパル)>の音色を使っています。私がもっとも好んで使う音色のひとつです。このストップの音色は「金の葉飾り」に相応しく、音色と楽曲とが一体となってひとつの芸術を生み出しています。

※現在では『17のライプツィヒ・コラール集』と呼ばれることもあります。

4.おお神の子羊、罪なくして BWV656
O Lamm Gottes undchuldig

 イ長調、4/4~9/4拍子。『マタイ受難曲』の冒頭で、少年合唱によって奏でられるコラールの旋律を基盤として、オルガン用の編曲ではまったく新しい新境地が切り開かれています。荘厳な天上世界を現世に写し取ったかのような、深く魂にまで響くいやしの音楽です。ある女性オルガニストが、「この曲を私のお葬式で流してほしい」と言うのを聴いたことがあります。
 冒頭の音色はヴァイカウント・オルガンの中でもひときわ美しい響きのストップ<Krummhorn 8'(8フィート・クルムホルン)を使用しています。つぎつぎと変奏曲風に展開していく中、ソプラノ、アルト、テノールにコラールの旋律がかわるがわる登場します。少しずつストップの数が増えていき、最後には重低音のバスを奏でる足鍵盤にも旋律が受け継がれ、その低音部メロディーの上で手鍵盤によるあらたな音楽が展開していきます。

5.小フーガ ト短調 BWV578
Fuge g-moll

 4/4拍子。トッカータとフーガニ短調とともに、バッハのオルガン作品中もっとも有名な楽曲です。その独創的で斬新、際だって美しい旋律が、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4つの声部に次々とあらわれ、絡みあい、極彩色にきらめく光の神殿を構築します。この名曲も、若き日のバッハが創作しました。この楽曲を演奏する時、演奏者はお上品に気取ってはいられません。音とともに空高く舞い上がり、旋回しながら降下したり、再び飛翔し、回転したり・・・、全身すべてを使わなければ乗りこなせない荒馬のような楽曲の上に乗ってすべてを委ね、音とともにダンスします。
 小フーガト短調はたくさんのオルガニストによって録音されていますが、それぞれの音色はまったく異なります。ストップの数を少なくしてあまり音量を出し過ぎず、可愛らしい感じの音で弾く人もいれば、たくさんのストップを駆使する人もいます。この録音では、いろいろなストップを重ね、オルガンらしいきらびやかさと重低音の太い響きでより立体的な音創りを心がけました。

6.主よ、人の望みの喜びよ BWV147
Herz und Mund und Tat und Leben

 ト長調、9/8拍子。カンタータ147番からの編曲。あまりにも有名なこの曲は、多くの人々から愛されつづけてきました。「心と口とおこないと生きざまもて」というのが正式な題名です。バッハ自身がアレンジしたものはオルガン用にはありませんが、たくさんの作曲家がさまざまな楽器編成で編曲を試みています。
 この曲の特徴である、つぎつぎと可憐な花が咲くかのような8分音符の音色は、フルート(4,8フィート)系のストップを重ねています。全身を貫き通すような大音量から、このように優しく愛らしい音まで自在に創り出せるパイプオルガンは、まさに<楽器の王>といえるでしょう。

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