Healing Discourse

『太極拳論』を語る 第十一回 頂勁

高木一行:編

【高木】

 2023.01.07~09の3日間、久しぶりとなる龍宮会りゅうぐうえ(第6回)を広島にて執り行なった。その際、『太極拳論』と関わる内容も扱い、動画撮影もしたのでご紹介したい。テーマは、虚領頂勁の「頂勁(頭頂をつよめる)」である。
 なぜ「虚領(首の力を抜く)」抜きの「頂勁」かといえば、首を直接操作することによって「頂勁」を体現しているわけではないからだが、結果的に(必然的に、自ずから)虚領となってはいる。
 以下の動画1では、まず足元から頭頂までを柔らかに・トータルに張り伸ばす修法が示される。術者は、頂勁にしたり・やめたり、をリズミカルに繰り返す。外部からもわかりやすいよう、術者の頭頂に補助者が板を当てている(背丈を測るのと同じ要領)。
 ご注意いただきたいのは、術者は頭や首などに意図的な操作を一切加えておらず、膝等もむろん曲げ伸ばししないし、体を伸び上がらせたりなどもしてない。
 にもかかわらず、頂勁にすると明らかに身長が伸びるのだ。

動画1 『頂勁1』 2023.01.07~09 於:天行院

フルハイビジョン画質 00分40秒

【高木】

 この基礎修法の原理は、「人は通常、頭頂と爪先の間を自らの身長として仮想している(無意識のうちに誤って思い込んでいる)」というものだ。その仮想を正すには、爪先から踵へと体重を移し替え、踵に体重を落とす。そして、「頭頂と踵(床とついている部分)の間が身長である」と認知を改める。
 そのためには、頭頂の意識(板が当たっている感覚)と踵の意識(床と触れ合っている感覚)を同時に感じる。すると、頭頂と踵の間(身長)に意識が入り、その結果として身長が伸びる。

【渡邊】

 踵に体の重さをかけると背が伸びるというお話がありました。実際に壁に背をぴたりとつけた状態で立ち、爪先側に落ちている体重を踵に預けるようにしながら、踵で立つようにしました。すると、踵から伸び上がるような流れ、動きが生じ、背筋や首筋が伸びることを感じました(編注:動画1)。
 私の頭頂に板を当てていただき、どれくらい伸びているのか確認していただきましたが、1~2センチは伸びているということでした。年齢を重ねると背が縮むとよく言われますが、立っている時に足の爪先側に体重がかかることで縮んだ状態になるのではないかと思いました。歳を取るとつまずきやすくなると言われますが、そのことが原因の一つになっているのではないかと思っています。

【道上】

 (虛領)頂勁について、首そのものに力を入れて動かす、あるいは逆に力を抜くことで頭部の角度や高さが変わるといった操作ではなく、立ったままの状態で体重を踵に落とすと内部から頭頂部を貫く流れが生じ、結果として頭頂を突き上げる姿勢へと変化していました。
 膝の伸縮で起きることとは違うことも確認するため、術者が壁に背中をつけた状態でパートナーが板を頭頂部に当て、高さが実際に変化するのかを確認してみましたが、膝を使って壁に沿って上下させるのと、内部から突き上げる流れに従い自ずと頭頂部の位置が上下するのとでは、頭頂部から伝わる感触が全く異なっているのが感じられました。膝や首から上の操作で高さを変えようとする時は、頭頂部以外の場所を操作して動かしているという感触があるのですが、内部からの流れに従って高さが変わる時は頭頂部そのものが上に向かって柔らかく伸びてくるような異様な感触がありました。

【東前】

 術者が壁に背中をあて、直立した状態にて、四角い板を当てて実際に背が伸びるのか確認する機会がありました(編注:動画1)。術者が頂勁の姿勢へと変えてゆくと、頭頂にあてた板に下から上に突き上げる力を感じ壁に沿って上にスライドしていきました。身長を計測する際に顎を引いて頭を突き上げるようにすることがありますが、それとは別の現象だと感じました。
 その際の印象を述べるとすれば、術者の頭の真ん中あたりが内側から力強くグイッと持ち上がってくるような印象を受けました。
 先生にご指導いただき、私も行なってみたところ、踵に重さを乗せるようにしていきますと身体内が上下に張り延ばされながら下から伸び上がるように感じて、頭が板を押し上げていきました。身体内が充実し、明晰さと安定感を覚えました。そして身体内が細やかに振動し出し、絶大なヒーリング効果を感じました。
 その後、先生より爪先に重さを移してみるようにとのご指示をいただき、重さを徐々に爪先に移していきますと背丈が縮んで板が下がっていきました。同時に身体内の張りも緩んでいき、振動感覚も失われていきました。その時の変化が老化のプロセスのように感じられました。

【帆足】

 頂勁は、外見的に体を真っ直ぐにすればできるというものとは異なり、内面から骨格の調整が行なわれていき、上下で整えられた状態がもたらされると背骨全体に意識が灯ったように感じられました。背骨の意識が明瞭となることで、身体に軸があることを実感することができました。外側から意識するものではなく、内面から感じられる軸でした。

【高木】

 頂勁によって全身がトータルに引き伸ばされた状態をキープすると、やがて背骨を中心として微細な縦波の振動が発生し全身を満たす(動画2)
 縦波と横波の違いがわからぬ者が多いようだが、ネットで検索すれば動画付きで解説されているサイトがいくらでもあるから各自で調べ、確認してほしい。縦波とは、縦方向に波打つこと「ではない」。縦波がわからないままでは、龍宮道を理会することは決してできない。

動画2 『頂勁2』 2023.01.07~09 於:天行院

フルハイビジョン画質 00分53秒

【渡邊】

 先生が頂勁の状態に入られると背が伸びるだけでなく、先生の頭頂部に当てた板が微細に振るえ始めました。先生の身体を通して下から突き上げてくるヴァイブレーションが板を通して私にも響いてきますと、意識が内向し始め、心地よい波紋に全身が満たされていくことを感じました。
 次に頂勁の状態に入られた先生の身体と改めて触れ合わせていただきました(編注:動画2)。先生の身体がブルブルと振るえているわけではないのですが、微細な波紋が伝わってきますと力がスーッと抜けていき、その場に崩れ落ちてしまいました。

【道上】

 高木先生や他の参加者の頭頂部に手を当てて、ただ立って首を立てている状態から頂勁へ移行するのを感じ取ってみると、変化が起きるとこちらの内部にフワリとした流れが生じるような、共振し微細な振動感覚が満ちるような感覚があります。当てている手から順に伝わって流れ込んでくるというものではなく、同時リンクのように即座にこちらの内部に発生し、これも不思議な感覚でした。

【高木】

 動画3では、(虚領)頂勁で全身に超微細振動を満たし、その状態を保ちつつ自在にわざを運用してゆく。自らの背骨1個1個の間(椎間板)に相手の力を吸収して無効化している状態、といえるかもしれない。
 私は頂勁にすると、足の土踏まず(にある足底腱膜)も振動するのをハッキリ感じる。

動画3 『頂勁3』 2023.01.07~09 於:天行院

フルハイビジョン画質 01分39秒

【高木】

 今回の龍宮会では、頂勁を基礎とする力足ちからあしという新しい修法体系が顕われ始めた。これは、陳氏太極拳の震脚(足を強く踏みつける動作)にも通じるものかもしれないが、本シリーズはこのあたりで一区切りつけようと思う(力足に関しては、「ヒーリング・ムービー」にて取り上げる)。
『太極拳論』をテキストとして学びを進めてきて、単なる古典の解読に留まらず、自分たちのわざが大いに進展、熟達するという有り難い経験をさせていただいたわけだが、「いいとこ取り」もあまりに過ぎれば貪欲となり、過分な恩寵は溢れこぼれるばかりであろう。
 自分たちがただ受け取るばかりでなく、独自の発見・洞察をお返しするという気持ちでこれまで進んできたつもりだが、いかほどのことを示し得たか、はなはだ心もとない。
 まあ、毎度のことながら、かなり楽しませてもらった。

【一同】

 ありがとうございました。

<2023.01.21 款冬華(ふきのはなさく)>