鳩間島の陸上風景を、幕間劇としてお届けする。島の道を、海辺や集落内など、あちこち歩き廻りながら、帰神撮影した。
目的地に着くためだけに脇目もふらずさっさと歩いていく、そういう普段の歩き方を、巡礼の旅では、まずやめてみることだ。「どこへ行くか」ではなく、「どうやって行くか」。風や、匂い、色彩、陰影、形、いろんな要素に導かれるまま、立ち止まったり、回り込んだり、腹這いになって観上げてみたり・・・・あれこれやっているうち、巡礼地そのものと波長がだんだん合ってくる。
すると、世界がこちらの想いに応えてくれるかのごとき現象が、頻々と起こり始める。
これまで逃げ回っていた蝶も、すぐそばにとまり心ゆくまで帰神撮影することを許してくれる。よく観ると羽がずいぶん傷んでいて、亜熱帯のこの島でも夏が終わりに近いことを感じさせる。
ドラゴンフルーツの蕾とか、沖縄で胡椒の代わりによく使われるヒハツモドキ(ヒバーチ、ヒハツ)の生きた姿を、初めて観た。
ドラゴンフルーツの蕾(左)とヒハツモドキ(右)。
なお、今回の帰神スライドショーの冒頭に登場するヤシガニは、夜のうちに捕まえておき、翌早朝に帰神撮影したもの。
帰神スライドショー5 『島の道』
高画質版 :
昼間のかがやきがひっくり返ったかのように、沖縄の夜の闇は深く、濃い。
鳩間島滞在中、雨降りの晩以外、夜がとっぷり更けてから島中あちこち歩き回るのが日課だったが、いつもヤエヤマオオコウモリが案内を務めてくれた。翼を広げると60センチくらいになる、果物を主食とする大型のキュートなコウモリだ。
ばさっばさっと大きな音を立て元気よくあたりを飛び回りながら、私の先へ行ったり、また戻ってきたり、どこかへ行ってしまっても鳴き声を真似て呼ぶと、全然似てないにもかかわらず、すぐ2、3頭がすっ飛んでくる。
じっくり姿を観せてよ、と心の中で念じると、まるでそれが通じたみたいに、ジャンプすれば届きそうな木のこずえにサッととまってぶら下がり、懐中電灯を向けると眩しいだろうに、いつまでも飛び立たずじっとこちらを観ている。
前回ご紹介した帰神スライドショー4の舞台となった海辺で、ある深夜、砂浜に座って心身を吹き抜ける風を楽しんでいたら・・・・・、心の中に声なき声が囁きかけてきた。
そのまま思考を静まらせ、「世界=私」を瞑想し続けよ・・・と。
数分が過ぎたろうか。何かの気配を感じてそっと目を開けると、すぐ目の前に、今回鳩間島で出会った中で最大のヤシガニが、静かに、佇んでいた。
懐中電灯で照らしても逃げ出さない。・・・そっと甲にタッチしてみる。・・・まったく動じない。このくらいの大きさになると、自信がつくのだろうか。それにしてもあまりに無防備すぎる。簡単に捕まえられるではないか。
だんだん大胆になっていって、見事な色艶や強大な威力を秘めた造形美などを讃えつつ、爪やら脚やら、しまいには弱点の柔らかい腹部まで、繊細にタッチしまくった。
一応念のため申し上げておくが、ヤシガニというものは普通、人の姿を見たら慌てて逃げ出すものだし、下手に手を出して捕まえようとすれば猛烈に抵抗することだろう。爪ではさむ力は強烈で、人間の指をスパッと切ることはできないが、ペンチのように握り潰すことならたやすくできそうだ。
<2020.12.30>