Healing Discourse

ヒーリング随感2 第16回 黒の強健術

◎夏休みをひと月半ほど取って、妻と一緒にマレーシアで遊んだり、巡礼したり、いろいろ楽しくやっていた。

ヒーリング・エクササイズ(旧・肥田式強健術)の奉納。@マレーシア・サバ州(ボルネオ)のキナバタンガン河畔。2010年8月。

 私が30年以上前、初めてこの国を訪れた頃、日本ではマレーシアについて知る人はほとんどいなかった。ところが、今や日本人が引退後に住みたいと思う国の第1位がマレーシアだという。
 私はかつて、マレー半島の密林を蛇行するミルクコーヒー色の川を、動物コレクターを雇ってボートで遡行[そこう]したことが幾度かある。川岸に次々と展開されるダイナミックなジャングルの光景に圧倒され、時折現われる野生動物の姿に異様な感動を覚えたことを、今でも鮮やかに思い出せる。
 そうした鮮烈な体験を、帰国後、周囲の人々に熱意を込め物語ったが、本当に熱心に聴く者は1人もなかった。彼女/彼らにとり、それは、現在も将来も自分とはまったく関わりのない、遠い世界の夢物語でしかなかったのだ。
 だが今では、ジャングル体験が子供やお年寄りにも安全・気軽にできる様々なツアーが、マレーシア各地で盛んに催行されている。そうしたツアーに参加する日本人の老若男女と、今回の旅でもたくさんすれ違った。
 
◎マレーシアに出かける直前、学研『ムー』誌の記事を1つ書き上げた(今月9日発売の10月号掲載)。私にとっては、仕事も遊びも趣味も、すべて溶け合って1つだ。
 今年始めに出た『ムー』誌3月号の記事では、正中心現象(人体の物理的重心部で肉体と精神の中心が合致する際に起こる超越的法悦境)における身体感覚と心理状態について、肥田春充以降初めて、実体験に基づき自らの言葉で述べた。
 限られた文字数では、削りに削ってあれだけ残すのが精一杯だったが、魂込めた私の言葉は、幾人[いくたり]かの人々と確かに響き合ったようだ。編集部によれば、かなりの反響があったといい、それら読者からの手紙の一部が、『ムー』誌6月号で2ページにわたり特集されもした。
 そして、「是非、続編を」という次第と相成った。
 
◎続編といっても、単に水平次元で量的につけ足すだけじゃ面白くない。
 そこで、「黒の強健術」をテーマとすることにした。
 強健術は正確に行なえば絶大な効果があがるが、やり方を間違えば心身を歪ませ、運命をも狂わせかねない悪魔的副作用を秘めている。その事実を、今回、初めて公にした。
 人の心と体を歪め、病ませ、卑怯・卑劣を平然と行なわしめる悪魔の法。肥田式には、そういう闇の側面が、確かにある。
 肥田式関係者の内、心身の調律が甚だしく狂い、運命の暗い谷間を転落していった者がどれだけ多いかを知れば、あなた方もきっと驚くだろう。
 四半世紀前、肥田式強健術を世に紹介した時には、それに重かつ大&深かつ刻なマイナス効果が、ブービートラップ的に隠されているなんて、思いもしなかった。私自身は、強健術から大いに恩恵を受けつつあり、その広大無辺な世界を、驚きの目を瞠[みは]りながら楽しく探求していたからだ。
 強健術創始者の肥田春充(明治16年〜昭和31年)も、詳しく知れば知るほど、尊敬すべき素晴らしい先覚者・達人であると私には思えた。この人が、意図的に悪意をもって私たちを害そうとするなど、あるはずがない・・・。
 この根本的な<信>については、今に至るも微塵も揺らいでいない。

◎肥田春充とは、真心の人、誠の人だ。彼が切り拓き、書き残した境地のすべてを私は経験し尽くしたわけではないが(異様な超能力など)、通常とは異なる意識の特殊なシフトに伴い、知覚そのものが驚くべき質・量両面の変化を遂げる現象については、確かにそれが実在することを、数え切れないほどの様々な実体験を通じ確かめてきた。真勇が滾々[こんこん]と湧き溢れる状態も、私が言う意識変容の一種だ。
 そうした変成意識を、自らの身体内において神経的に引き起こすことができる。ただし、しかるべき準備が整ってなかったり、やり方を間違えたりすると、重大かつ深刻な副作用が発生するおそれがある。神経系を直接操作するのだから、改めて考えてみれば当然のことかもしれない。
 私の場合、本格的に肥田式に取り組み始める前に、中国武術の基本鍛練で身体を錬り、瞑想で心を鎮める訓練に励んでいたことが、どうやら幸いしたらしい。肥田式の要求に、私は素直に、無理なく応えることができた。どこも傷めたりしなかったし、心身がみるみる発達していくのがありありと実感できた。
 恐怖が消えていき、どんどん大胆・無謀になってもいった。いわゆる「肝が据わる」とはこれか!と、うれしさのあまり大空に向かって絶叫したくなる衝動を覚えたことも幾たびぞ。

◎全身各部の中心は、同心円的ヒエラルキー構造によって統括され、諸々の中心がネットワーキングしつつ、最終的には下腹中央の奥に鎮座する正中心(重心)へと帰一する。これが、人体の最も自然な姿だ。重心を根本中心として、全身各部が常に調和的に動くこと。
 この全身的な中心ネットワークの調律が狂えば狂うほど、ぎくしゃくしてくる。硬くなる。錆びついたように重苦しくなる。狭く、暗い感じがする。それが高じれば、心身の様々な病となるのも当然だ。

◎中心(バランス、中庸)の道を通り、人は自らの根源(正中心)へと辿り着く。
 肥田春充とは、究極の中心を知った者だ。
 その、洗練され切った至高の内的感覚に基づき、肥田式強健術のすべての型は構成されている(春充が正中心体得後に制定した型を指す)。
 そして、肥田式とは外れた中心を元に戻す術[わざ]ではなく、一定レベル以上バランスが取れている身体をより強く、健やかにするための鍛練法であることも、覚えておいた方がいい。つまり、すでにある程度できている者のためのものであって、できるようになるためのものではない。
 これがわからない人、わかろうとしない人が、非常に多い。彼女/彼らは、表面的な形式に盲目的に従うのみで、決して自省せず、自らの身体に問いかけることをしない。
 そういうやり方では、強健術の真は決してわからない。わかるはずがない。
 中心が抜けた強健術を熱心に練修するなんて、人生の空費以外の何ものでもない。

◎中心力探求に限らないが、まずは身体の狂い・歪みを、「中心ネットワーク」という観点から調律していく必要がある。自らの身体感覚と運動モードが高性能となっていく実感がリアルに伴うなら、あなたの心身調律プロセスは成功を収めつつある。
 初心者でも手軽・気軽に試し、身体認知を根源レベルで変換できる手法をいくつか、今回の『ムー』誌記事では紹介しておいた。
 それを使えば、強健術は元より、スポーツや芸道などでも、劇的な熟達を遂げていくことができる。
 例えば、手の親指の角度とか乳首の本当の角度(斜め前になっている)など、これまでディスコースで発表したものを始め、目の角度、腰と腹の対応など、未公開の要訣・手法も、与えられたページ数を精一杯活用して概説した。
 いずれも、肥田式のみならず、人のいかなる行為に対しても、直ちに応用可能な修法ばかりだ。
 タッチの重要性にも言及したが、『ムー』の記事で初めてヒーリング・タッチというものについて知り、この文章を今読んでいらっしゃる方のために、その実例をムービーでお目にかけよう。2週間ほど前、プライベートな指導会の合間に撮影した模範示演の一部だ。
 あらかじめお断りしておくが、ヒーリング・タッチとは人を倒すための技術ではない。

 ヒーリング・タッチは、意識を覚醒させる術[わざ]だ。意識変容に伴い、受け手の身体が自然に動き、床に倒れていったり、思いもかけぬ動きを演じたりする。期せずして、習ったこともない舞を舞い始めることもしばしばある。それをSTM(Spontaneous Tuning Movement=自発調律運動)と私たちは呼んでいる。外的には動かず、意識がどんどん内向きに動いていって瞑想状態に入ることもある。
 ヒーリング・タッチは、掌や指先、爪など、全身どこでも構わないのだが、自分と相手の皮膚接触面同士を、鏡に映し合うように、作用・反作用的に同等に、対置させる。すると、指先でちょっと触れ合っているだけなのに、その小さな接触面に文字通り「全身全霊」が反映・集約してくる。
 これができるようになるための具体的方法は、人類全体のQOL(生の質)向上のため、本ウェブサイトのディスコース各論で情報を全面的に公開している。ご自由に取り(採り)、ご活用いただきたい。

◎次にお目にかけるのは、ヒーリング・エクササイズ(旧・肥田式強健術)の型をとる受け手に対し、私が上述のヒーリング・タッチを使い補助している映像だ。
 3人の受け手が登場するが、順にそれぞれ、手の親指の角度、目の角度、腹直筋の角度(及び上下のつながり)と触れ合い、ただそれ(タッチ)のみを使って、相手の重心点(中心)を移動させている。
 受け手の体を強く押したり引いたりするような力は、まったく加えない。指1本すら動かさない。ただ、相手の身体各部の今あるがままの場所に、タッチを使って意識(自己存在感)を呼び込む手助けをする。
 3人の受け手も、意図的に一切何もしようとしていない。タッチすればどうなる、こうなるなどと、あらかじめ伝えてもいない。

◎このようにして『ムー』誌の記事を書き上げ、手法の効果・効能を実際に試して確認し、編集担当者に原稿、写真、図版下書きなどを電子メールで送信した。
 その最終作業とちょうどタイミングを合わせるかのように、以下にご紹介する電子メール(原文のまま)が、ヒーリング・ネットワークを通じて私の元に届いた。発信者の名前も住所も共に記されてなかった。
 黒の強健術で変わり果ててしまった者の、これが実例だ。

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 私はかって荒波先生の指導を受けた者です。高木さん、肥田家と和解したらどうですか?  その上で肥田家の許可をとって、肥田式の指導をするべきではないでしょうか?
 あなたがいくら強いといっても、死には勝てないでしょう。
 肥田先生の生き方は、死を超越したことと言うのは、あなたにもわかりますよね? ぐずくずしていると後悔だけが残りますよ。

<2010.09.01 天地始粛[てんちはじめてしゅくす]>