01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
高木一行
梅雨の合間の、半日だけの薄曇り。
毎年この時期になると、私たち夫婦は近隣の湯来町[ゆきちょう]へと、蛍狩りに出向く。
懐かしく、慕わしい、おそらくは日本人の元記憶にインプットされた、原初の光景を求めて。
今回は、当然、帰神撮影と相成った。
夜7時半前、自宅をタクシーにて出発。
8時過ぎ、目的のサイトに到着。
すでにあたりは、どっぷりと暮れている。
ついでに温泉につかることもせず、つかりたいとも思わず、ただ帰神撮影のみを、くらがりの中で粛然と執り行なっていった。
時折、かしわ手を柔らかに打ち鳴らしながら。合間合間にマナ(修法)の実践を差し挟みつつ。
美佳は、帰神録音も執り行なった。
ちょっと前の私たちからは想像できないようなストイックさ。が、それもまた快なり、だ。
湯来温泉郷から、轟々どうどうとぶちあたり・はじけ・泡立ちながら流れ降る渓流沿いの道筋を、ずうっとさかのぼっていく・・・・・と、まもなく、例年最も華やかな蛍ショーが開催される一帯にたどり着く。
道路脇の、小さな水田が幾段か重なり高くなっていった、その先の高台に、大きな古民家が一軒。くろぐろした影となって、山すそにうずくまっている。
こんな、蛍が群れ集う清流のほとりで暮らすというのは、一体どんな感じなのだろう、と、ここに来るたびいつも思う。
田んぼを懐中電灯で照らしてみて驚いた。
水が物凄く澄んでいる。
小さなおたまじゃくしがいっぱい、ころりころりと腹をみせ転がったりしながら、盛んにお食事中だ。
みあげると、山肌で不規則に明滅するたくさんの蛍たちが、またたく満天の星々とたくみに溶け合い、1舞の巨大宇宙絵を成している・・・・のだが、喜んだのもつかの間、私たちのカメラでは、その荘厳な光景をありのままに写し撮ることは不可能であるとわかった。
蛍1匹1匹の空間性(位置関係)にまで注意を払ってシャッターを斬るも、何も写らない。
光があまりにも弱すぎる。「そういうものまで観ることができる人間の目ってスゴイ」と、美佳がしきりに感心していたが。
河鹿(カジカガエル)の澄んだ鳴き声が、 轟然たる水音の連なりの上を、ころころころころ軽やかに華やかに、転がっていった。
そこで、個々の蛍に、意識の焦点を合わせることにした。
暗闇を舞う幽玄な光の精。その姿をとらえるべく、ヒーリング・アーツを駆使して取り組んでいく。
だが、蛍のあかりは、ファインダー越しだとほとんど、あるいはまったく観えない。
おまけに、今回カメラを向けてみて初めてわかったのだが、蛍というものは意外と「速い」。おまけにトリッキーだ。
そんなこんなで、かなり手こずったが、スピリット世界と共鳴し合い、蛍たちが空間に刹那的に描き遊ぶ神秘文字を斬り撮ることに、夫婦そろって成功した。
観の目で観れば、蛍の描く軌道が、非常に立体的・空間的であることがおわかりだろう。
まるで、蛇とか龍みたいに観える「文字」もある。うろこに覆われた線もある。
従来の帰神フォトと比べ、光学的な情報量が圧倒的に少ないように思えるかもしれない。が、白と黒だけで構成される書や水墨画が、色彩豊かな絵や写真よりも、はるかに豊かで深遠な情感を生むこともある。
この作品をより良く観るための、この作品自身の裡より顕われ出でてきた修法を、ひとつ。
蛍が文字を描いていく、その流れに沿い、元から末へと辿っていく。つまり、視点を移動させる。
その際、明るいところと暗いところがある。それも意識。
最初から最後まで点、または球のレベルでつなげ終わったら、レット・オフで観の目に入る。
初心者は、球(明るく光っている単位)が移動していくのを見るようなつもりで執り行なえば、わかりやすいだろう。その球が、ふーっと時間をかけて暗くなっていったり、ふわっと突然明るくなったり、あるいはリズミカルに明滅したりしながら、時折くるりくるりと螺旋を描いてねじれつつ、神秘文字を空間に揮毫していく、その筋道をていねいにたどっていくのだ。
終点まで来たら、目の集中を(さらにわずかに絞っておいて)手放し、視界が画面一杯に均等・等圧に拡がり、満ちていくに任せる。
以上は基本わざだが、これだけでも、わかり・できるようになったら結構凄い。
本物の蛍が、点いたり消えたりしながら目の前をスーッと飛び過ぎていくかのような、玄妙なリアリティに満ちた感覚が味わえる。それにより、独自のヒーリング作用が発生する。
さらに、「観の目とはスライドショーの画面内だけを観るものである」という無意識的先入観(=束縛)を、レット・オフで手放す。と、PC画面が視界の中で超空間的に浮かび上がり、不可思議な石板みたいに観えてくるだろう。
その「モノリス」内のハイパースペースに映し出される帰神フォト世界の生々しさときたら、・・・・とても言葉では表わせない。
これは、超宇宙的な書道だ。
星間を泳ぎ戯れる宇宙龍を、蛍の舞を通じ描き出す。
書道作品を鑑賞するようなつもりで、1舞1舞、観照していくといい。その際には、視点はあまり動かさない。
美佳が帰神録音した現場サウンドとクロスオーバーしてお届けする。
真っ暗にした部屋で、ヘッドフォンを使い、大きめの音量で聴くのがお勧めだ。
たちまち時空スリップが起こるだろう。
超越的な蛍狩りを、どうかお楽しみいただきたい。
<2011.07.05 半夏生>