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高木一行
借りてきた仔猫のようにおとなしい、というが、どうしてどうして、このマヤは大変なやんちゃ娘であることが、わが家に来てすぐ判明した。
キャリングバッグから出されるやいなや、ちょっとリビングルームを探検してから、活発に遊び始めた。
猫じゃらしにマナ(生命力)を込め、振ると、元気よく飛びついてくる。
が、そうやって猫じゃらしと取っ組み合って遊んでいても、まだ人間と遊んでいるのじゃなかった。猫じゃらしと遊んでいる。その背後にいる人間のところまで、マヤの意識はいまだ広がってない。
何か面白いものをめざとくみつけ、さっとそっちへ駆け寄っていく、その途中で何か他のものが興味を引いたなら、もうそちらへ完全にかかりきりになってしまって、最初の方はスッカリ忘れ去っている。そんなことが、今でもまだ時々起こる。
意識、というものの本質を、ヒーリング・アーツでは実存的に探求していくのだが、マヤの成長を観察していると、意識の何たるかについて本当に教えられるところが多い。
自らを「楽しさ」の感覚で慰め、鼓舞しようとするかのように、ひたすら駆け回り・遊び回り続けるマヤ。狂騒的なまでに。
元気はいい。
目も、活き活きしている。
仔猫用のフードを裏ごしして与えるようにしたら、いまだチュウチュウ吸ってはいるのだが、何とかうまく食べられるようになった。
が、夜間、一頭[ひとり]きりの時間が長く続くと、必ず下痢をする。室温は常に28〜29度。
増えかけていた体重が元に戻ってしまった。そこからさらに下降し始めたら、何せわずか500gの体だ、警戒態勢に入らねばならぬ。
これはどうも、食事内容とか室温とか、そういう問題ではないらしいと、マヤを観の目で観ているうちにぱっと「わかった」。
ひとり切りが神経にこたえるのではないか?
そこで妻が試しに、マヤを育てている一室で、夜一緒に寝てみることにした。
布団の上に乗ってきて、すぐそばで気持ち良さそうに寝ていたという。
それ以来、下痢はピタリと治まった。爾来今日まで、病気知らずの超健康体だ。
約1月後、マヤが少し成長して階段の昇り降りも自由にできるようになり、家中どこでも好きなところへ行けるようになるまで、妻は毎晩マヤと一緒だった。
寝返りを打ったら誤ってつぶしてしまいかねないほど、マヤはまだ小さいから、睡眠中であってさえ、潜在意識下での注意を怠ってはならない。眠っている間に動く時は、ゆっくり柔らかく、粒子的に。これは、ヒーリング・タッチの要訣でもある。
眠っていてそんなことができるはずがない、と強硬に主張するとしたら、その人は猫と寄り添って一緒に寝たことがないのだと直ちにわかる。
ところで、マヤは今、先住猫のマナ、スピカと一緒に猫用こたつ(一名、猫の楽園)で眠ったり、妻と私の布団を行ったり来たりしている。お客様がある時は、そちらの布団に入っていって喜ばれたりもする。マヤはまったく人見知りしない。
人の頭の隣に、小さいかわいい頭が布団から出て並んで眠っている様子は、何ともいえずキュートだ。最近のマヤは、食事直前になるとキューキュー凄い声で鳴いて催促するところから、キューちゃんなるあだ名を付けられたのだが、それが女性たちに好評で、「キューちゃん! キューちゃん!」と大人気である。
仔猫が不安に駆られて親猫を呼んだり、おなかが空いたと催促する際に発する特別な鳴き声を研究したら、人身操作に関する新しい理論が発見されるかもしれない。あれは、確かに人をも動かす力を持っている。
妻とリビングで話していて、階上からマヤのみゅうみゅういう声が聴こえてきたなら、二人ともたちまち気もそぞろになって、「あっ、キューちゃんが呼んでる。いかなくちゃ」と、せき立てられるように2階へと急いでしまう。
我らはバステト教徒なり。
<2011.11.23 小雪>