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高木一行
近年、アロマテラピーやハーブティー、ハーブを使った料理などが流行り、香りを意識したイベントが盛んに行なわれるなど、心の深層に届く香りの神秘作用が各方面で再認識され始めている。嗅覚は脳の神経回路に直結しており、視覚や聴覚など、分析的に情報を処理する他の感覚器官と違って、直接脳を刺激するといわれている。
沈香(香木)は東南アジアのごく限られた地域にのみ成育する樹木の樹脂で、松やにのように樹皮の外ににじみ出るものではなく、樹の内部にしみ込んで蓄積されていく。
適温で加熱すると、「その様やさしく、位[くらい]ありて優美なり」とか「宮人[みやびと]のごとし」などと形容される素晴らしい香りが漂う。
世界で最も高貴な香りと呼ばれる理由は、実際に「聴いて」みれば直ちにわかる。
室町時代の臨済宗の僧である一休宗純(1394~1481)は、「沈香の十徳」を以下のようにまとめている。
いわく、
感格鬼神(感は鬼神に格[いた]る)
清浄心身(心身を清浄にする)
能除汚穢(よく汚穢[おわい]を除く)
能覚睡眠(よく睡眠を覚ます)
静中成友(静中に友となる)
塵裡閑愉(塵裡に閑を愉[たの]しむ)
多而不厭(多くして厭わず)
寡而為足(寡[すくな]くして足れりと為す)
久蔵不朽(久しく蔵[たくわ]えて朽ちず)
常用無障(常に用いて障[さわ]りなし)
香道では、灰の中に炭火を埋め、その上に小刻みにした沈香を少量、そっと載せて、やがて漂い始める幽玄な香りを楽しむという。
が、そんなお上品なやり方では肝心の「煙」があまり立たない。
そこで、点火したチャコール・ディスク(炭の粉をディスク状に固めたもの)の上に、粗く刻んだ沈香のチップを山盛りにしてみた。香道家がみたら気絶しそうな粗っぽい使い方だ。
すると、・・・・かぐわしい香りを孕んだ立派な煙が、どんどん立ち昇ってきて、やがて家中が沈香の香りで満たされるほどとなった。
帰神撮影の結果はごらんの通り。
<2012.06.12 腐草為螢(ふそうほたるとなる)>