高木一行
妻が定期購読していた猫専門誌に、監修者である獣医師の言葉として、「猫は単独行動を好む生き物なので、他猫[たしゃ]に対する思いやりとかいたわりなどの感情を持たない」と書いてあったそうだ。
嘘か真[まこと]か、観の目を開き、本作と向き合ってみれば(ヒーリング・フォトグラフは真っ暗な部屋で観照するのが基本)、自分自身で判断できるだろう。
猫に限らないが、動物が舌でなめるという行為は、人間がヒーリング・タッチで触れあうことと等しい。
ヒーリング・タッチで触れ合うとは、「思いやり」や「いたわり」をタッチを媒介としてダイレクトに分かち合い、共振するということだ。
龍宮館に引っ越してまもなくの頃、生後1年を迎えたばかりでまだ経験が浅いマヤは、新しい環境にすぐなじめず、ちょっとした物音にも過敏に反応して逃げ回ったりしていた。
そんなマヤを舌によるヒーリング・タッチでいたわる、おもいやりに満ちた行動のように、「これ」は、少なくとも私には観える。
そして、マヤもスピカのいたわり・慰めに対し、すっかり安心しきって、顔をうずめて甘えているように、少なくとも私には観える。
こうした行動は数日間続き、その間、マヤはスピカとぴったり寄り添って仲むつまじく眠ることが多かったが、マヤが龍宮館に慣れてしまうと、両者が同じ猫ベッドで眠ることはなくなった。爾来今日まで、1度も観てない。
妻は、くだんの猫専門誌を取り寄せることを、やめた。
<2013.01.27 水沢腹堅[すいたくふくけん]>