Healing Discourse

対話篇1 第一回 対話篇・開講

編集:高木一行

 対話篇(ダイアローグ)とは・・・・・・、対話形式によって表現された哲学書や文学作品を、元々は指す。
 道草や回り道なども大いに歓迎しつつ、友と<ヒーリング>の道について、自由に、楽しく、語り合ってゆこう・・・と、これは、そういう趣向の新シリーズだ。
 第一弾となる本編では、ヒーリング・アーツ、龍宮道の基礎修法である「レット・オフ」(神経的反転術)と「観の目」(視覚と意識のリンク)が、主な話題として取り上げられる。インターネット上のBBS(掲示板)にて、ヒーリング・ネットワークの同志諸君と対話した記録(2020.12.01~2021.02.01)を基に、整理・編集した。

 初学の読者諸氏に対しては、ヒーリング・ネットワーク1時代に執筆した記事を、参考用にご紹介しておく。
 レット・オフについてはヒーリング・ディスコースの『たまふり』を、観の目に関してはヒーリング・フォトグラフのアーティクル『観の目』を、入門用としてそれぞれ参照されるとよいだろう。

 レット・オフも観の目も、ヒーリング・アーツや龍宮道を理会・修得するために必要、といった瑣末さまつで限定的なものでは、ない。
 あらゆる流派、主義、主張、組織、人種、性別、国家、などを超え、人生万般、趣味にも芸道にもスポーツにも、日常生活にも、QOL向上、健康向上、心身の潜在能力開花、健康寿命の最長マキシマム化も含め、大いに役立つ「人生の極意」! 多年の検証と実体験を通じ、そのように我々は感じ、確信するに至った。
 それゆえにこそ、全身全霊、祈りをこめてこれらのウェブサイトを制作している。神伝霊授の聖なる極意の数々を、オープンソースとして公開し、いやしの福音をより多くの心ある人々と分かち合おうとしている。

【高木一行(以下、高木)】

 ヒーリング・ネットワーク1(2007~2013)のウェブサイトで、変わった言葉遣いを敢えて用いようとする際には、なぜわざわざそうするのか、その言葉によって何を言わんとしているのか、何を伝えようとしているのか、様々に表現を変えながら幾度も繰り返し説明してきた。
 とりわけ、他に類似の用例がない新しい独自の用語と、それによって指し示そうとする内容については、入念に、いやったらしいくらい言葉を尽くし、自ら省みて饒舌じょうぜつに過ぎると感じるほどに、説明を繰り返した。

 しかし、そうした過去の諸々の活動に一区切りをつけ、今、新しい一歩を颯爽さっそうと踏み出さんとするにあたり、よそではあまり見かけない特殊な言葉遣いや独自の用語などについて、この機会に改めて取り上げ、様々な角度から新しい光を当ててゆくことは、これから始めようとする・始めたばかりの・初心者にとっても、さらなる奥秘を極めんとする・熟練者にとっても、共に深い意義があるだろう。

【東前公幸(以下、東前)】

 先般、大阪でご指導いただいた折り、刑務所での生活を色々とうかがいました。刑務所のような極限状態でも効く「レット・オフ」の凄さには、驚くばかりです。

 私自身は理解が浅く、先生が送られた生活に比して穏やかであるはずの、日常生活のストレスにも悩まされることが多い毎日です。
「地獄を花園にまで変え」てしまうというレット・オフについて、段階を追って理会を深めていけたら、私も含め多くの方が、より生きやすくなるのではないかと思います。

【高木】

 レット・オフはヒーリング・ネットワーク独自の用語の一つであり、ヒーリング・アーツ、龍宮道の基本であると同時に極意でもある。最初のテーマとして取り上げるにふさわしい。
 まずは、君たちのレット・オフ体験談を、いくつか聴かせてほしい。 

【東前】

 私の場合、幼少の頃より怒りなどの感情のコントロールに困難を覚えており、人生で失敗や損失を重ねてきました。
 レット・オフで自分の感情や思考に働きかけることを教えていただき、少しずつですが、抑え込んだり、発散するのとは違う対応ができるようになってきているのを感じています。
 最近の出来事ですが、レット・オフの体験として私にとっては素晴らしい内容でしたので、ご報告させていただきます。

 仕事で同僚がミスをし、立場上私が注意しないといけない状況でした。いつも同じようなミスを繰り返す人だったので、腹が立ち、怒りの感情と、どのように注意し、罰を与えれば改善されるだろうかという考えが頭の中でずっと回り続けていました。
 しかし、今までも何回か同じような状況で同じように考え、行動したことがほとんど効果がなかったことを思い出し、一旦保留し、レット・オフを繰り返してみました。
 するとゆっくりとですが、怒りの感情がオフになり、相手の立場を思いやるような思考に変化し、翌日には今までにない対応策を冷静に実行していました。

 その行動後もさらにレット・オフを続けていくと、日本の懲罰的司法システムに憤り、改善すべきだと考えている自分と、実人生で自分が上の立場から人を裁き、懲罰を与えるような思考、感情で行動していることが、俯瞰的に観えてきました。
「裁く者」と「裁かれる者」が、共に私自身として同時に意識され、また同時にレット・オフされていきました。レット・オフが、心の深い層にまで届いたのだと思います。
 この体験を通じて深い解放感と洞察が与えられたことに、感謝の念が湧きました。

【帆足茂久(以下、帆足)】

 数年前にコンビニの駐車場に車で入った際、こちらは徐行運転をしていたのですが、敷地内に止まっていた4tトラックが突然バックし、こちらの車の右後方にぶつかってきました。
 トラックのほうもゆっくりだったため、大きな事故にはいたらなかったのですが、急なことで身体を強張らせたためか、右首の回りなどに違和感が残りました。
 その後、違和感を感じている状態を強調し、レット・オフしていくことを心がけました。最初は、そのときの状態を作るだけで気持ち悪さがあったのですが、適宜レット・オフしていくうちに、気持ち悪さは消え、やがて違和感が消えていくのが感じられました。

【高木】

 経験を積んだ医師が語ると、ちょっとしたヒーリング体験も重みが違うものだね。
 むち打ち症の人はなぜか、内臓のバランスも崩れている。帆足君はむち打ちまではいかなかったようだが、ヒーリングの際に感じた気持ち悪さは、首ではなく腹から来ていたはずだ。
 皆も覚えておくといいが、むち打ち症の人とワークする際には、首だけでなく内臓(腹)にも働きかけるようにすると、より迅速でトータルなヒーリングが起こる。

【高原辰巳(以下、高原)】

 2019年、先生がまだ刑務所にいらっしゃった時ですが、広島で行なわれたヒーリング・アーツ指導会に参加させていただきました。
 ヒーリング・タッチ入門編で、手と手を合わせてのレット・オフを初めて体験しました。
 手の内部で無数の粒子が泡立つように、まるでサイダーの泡が弾けるようにして、手の内部空間に次から次へと際限なくわき起こるのを感じました。
 驚きと感動で、こんなにも凄いことなのかと思いました。

【道上健太郎(以下、道上)】

 昨年のことですが、同じ現場に入っている人物があまりにもちゃんと仕事をせず、誰が何を言ってもこたえる様子もなく行動を改めないので、私のイライラやストレスが相当溜まってしまったことがありました。
 自分でも驚くほど怒りや嫌悪感が強くなっていて、相手はともかく自分自身が気分が悪いので、この感情や衝動をなんとかレット・オフしようと試みたのですが、短時間ストレスが緩むことはあってもまたストレスがぶり返す、ということを繰り返していました。
 とうとう、今日こそ何かきっかけがあったら手を出して怒鳴りつけるしかない、というほどストレスが極まって爆発しそうになった時、何度やっても一時しのぎにしかならなかったレット・オフが、その日その時は急に強烈に起きて、自分の怒りだけでなく、自分とその相手の間にあるこれまでのやりとりや関係性や在り方までが、全部解体されていくのが感じられました。
 そして、なんであんなに腹が立っていたのか、相手の存在そのものに生理的に耐えられないほどの嫌悪感を感じていたのか、自分でも不思議に感じるほどスッキリ落ち着くことができました。

 不思議といえば、私自身は相手と今後どう相対あいたいしようと、その場その場で平静に対処すれば良い、という心境に切り替わったのですが、相手の方も、私の言い分を聞き入れ、それなりにちゃんと作業をしてくれるようになったのです(私とその相手に関してのみですが)。
 レット・オフが起きた瞬間には、相手は私の目の前にいたわけではなかったのですが、その影響が伝わったかのように、私だけでなく相手を含めた全体の在りようが丸ごと変容したように感じました。

 何かぶつかるものを感じたときに、強調してレット・オフを行なうことで、心身や物事がスムーズに流れるようになるということは、日常の小さなレベルで実行して充分な効果を感じてきましたが、上述のケースではちょっとやそっとではオフが起こりませんでした。
 ストレスが極まって後がないところまでいって初めて、根本的な部分にまで作用する深いオフ作用が起きることが実感できました。

【渡邊義文(以下、渡邊)】

 思考や悩みに対してレット・オフをかけていただいたことが凄かったです。
 ある伝授会で先生が、悩みにレット・オフをかけたらどうなるだろうかとおっしゃり、手合わせをさせていただきました。
 何かを悩むようにと言われ、ずっと気になっていたことに注意を向けていると、先生の意識がヒーリング・タッチを通して、悩みの中というか隙間に浸透してくることが感じられました。
 その感覚も凄かったのですが、先生がレット・オフをかけられた瞬間、悩みそのものがパッと弾け飛んで、頭が空白状態になり、私自身もその場に崩れ落ちてしまいました。

【平川晋一(以下、平川)】

 レット・オフに関しては、食欲や性欲、仕事に関係した事柄に対して、また過去の過ちや囚われを取り除くべく、実践してきました。
 大抵の場合、掌芯(労宮)を凝集してレット・オフという形式で、自宅で比較的長い練修時間が取れた時などに、適宜行ないました。
 さすがに、1回や2回行なっただけで全てが解放されるわけではありませんが、行なうたびごとに開放感を味わってきました。

 ある時、まだ若かった頃の過ち、囚われに対し、自分自身の中から取り除くという発想ではなく、諸々の過ち、事象その他全ての責任を一身に背負うべく、全身全霊で受け入れることを試みました。
 その時は受け入れた後、レット・オフは特に意識して行なわなかったのですが、2、3日経った頃、これまでいつもつきまとって私をあれほど悩ませていた過去の諸々の出来事が、自分の中からいつの間にか消失していることに気付きました。
 これは、受け入れがトータルになって極まり、自動的に反転が起こったのではないかと考えています。

 今までは強調→レット・オフ、の強調プロセスにおいて、レット・オフの対象に対し全身で向かい合うことなく、また受け入れることなく、上っ面だけで強調していたところがあったようです。
 対象に対して全面的に向き合い、受け入れることが、強調のプロセスにおいては極めて重要であることが感じられました。

 レット・オフの実践は、まだまだ理会し切れていないところがあります。引き続き実践し、検証を加えていきたいと思います。

 ところで、先生のレット・オフのお話の中では、「神経反転のわざ」、「神経反射的に」、「神経レベル」など、「神経」というワードがよく使われています。
「神経」という言葉は頭では理解しているつもりであっても、体感的には理会が及んでいないところがありますので、いろいろな角度からご教示、ご解説いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

【高木】

 ヒーリング・アーツ入門者が最初に学ぶヒーリング・タッチは、神経レベルの共鳴を引き起こすわざだ。レット・オフも神経に働きかける。
 単なる観念論や思い込み、妄想、イマジネーションの類いでないことを強調するため、「神経的」という言葉を使っているのだが、実際、レット・オフに熟達すると機械のスイッチを切り替えるみたいに、認知とか意識そのものを自在にシフトさせることができるようになる。そこまで使えるようになるため、ごまかしの効かない武術的シチュエーションで稽古することを、龍宮道では重視している。

 ちょっとした実験をやってみよう。まずは、次の動画で女性のシルエットが時計回り、反時計回りのいずれ向きに回転している(ように見える)か、確認してほしい。
 この動画は、ウェブデザイナーの茅原伸幸かやはら のぶゆき氏が初めて制作し(2003)、当時世界中で話題になったものだ。
 
 https://www.youtube.com/embed/WAuLOVFDdp0?loop=1&playlist=WAuLOVFDdp0

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