Healing Network

◎物分かりが悪いやつのことを朴念仁ぼくねんじんというが、その朴念仁だな俺も、としみじみ実感している今日この頃である。
　一体唐突に、何を言いだすのか、この男は・・・と眉を顰ひそめられても致し方のないこととわかりつつ、それでもどうしてもこのように書かずにおられない。朴念仁、わからず屋、鈍感いや愚鈍、・・アホ、を通り越して大阪の禁句、ビーエーケーエー（アイドルグループと間違えるべからず）である。

◎過ぎ去った不公平・不公正な裁判のことを改めて持ち出してきたりして、深い深い魂の傷に塩をすり込むような因幡の白兎的自傷行為を敢えてするがごときマゾヒスティックなことを、なぜ、今、私はやろうとしているのか。やらなければならないのか。
　その理由わけが、つい最近になって、ようやく理会できたのである。前回の記事を執筆した直後のことだ。
「理解」ではなくてなぜ「理会」か、は、古い読者に改めて説明の必要はなかろうが、未来の人々にも語りかけるつもりで常に言葉を綴ってきたので、（古い人にとっては）言わずもがなの重複も、どうかご容赦いただきたい。頭だけでわかることを理解、全身丸ごとのトータルな悟りを理会、と書き分け、龍宮道、ヒーリング・アーツでは区別する。

◎自らの裁判を通じてわかったと思っていたことが、実は全然わかってなかった。裁判中に記した随想の中で、真実へと何度も迫り、他でもない自分自身が具体的な言葉で繰り返し書き表わしていたというのに、それが意味するところが真にわかってなかった。
　自分で書き記しておきながら、単に表面的に理解しただけで、本当のリアリティを生きる（理会する）ことが、まるでできてなかった。文字通り、頭でわかっただけで、全身丸ごとでわかったわけではなかったのだ。
　たぶん、そのようにトータルにわかろうとすることを自分自身で拒絶していたのだと思う。本当に理会すれば、それがどれほどの葛藤や苦しみを生み出すものか、無意識のうちに知っていたからだろう。
　場合によっては、これまで一義的に正しい（根本的で、それ以外にあり得ない）と信じ・貫いてきたことがすべてひっくり返ってしまう可能性すらある。愛とか祈りとか、そういうものに心を向け続けようと努力すること、それ自体が本質的に間違っていたのであって、社会崩壊・人類絶滅のため全身全霊で呪うことこそ宇宙より課せられた天命だったのではあるまいか、とすら、私は今、真剣に疑い始めている。

◎一体何について私が述べているのか、結論のみここに記すことはたやすい。
　が、上述の通り、私自身がいまだに信じられない思いでいる。誤解・曲解・妄想・迷妄・・・であってほしいと、心の底から願っている。
　それゆえに、裁判時に執筆した随想と再び向かい合う必要があるのだ。私自身がそれを・・・この上なく、必要としている。
　要点を浮き上がらせるため、重要ではあるが本質的でない部分を大幅にカットしながら、今後時間をかけ、わかりやすく全体を整え直してゆくつもりだ。

◎刑務所の中でしばしば、英語のpassionという言葉を黙想していた。パッションの意味はよく知られている通り「情熱」だが、「十字架上のキリストの受苦」という意味もある。
　両方とも、私にとって非常に意義深い。
　社会や国家に対する無邪気な信頼を手ひどく裏切られ、浅ましい人間性の見本に事欠かぬ刑務所という異様な空間で長年過ごすうち、＜人＞というものに対する情熱、人間愛、人類愛を・・・自分は果たして持ち続けることができるのか。刑務所の中でずっと、そのように自らに問いかけ続けた。
　と同時に、「自分」が「自分」のために苦しむのではなく、「人類の」「地球の」苦しみを苦しむのだ、と認知を転換しないことには、冤罪で刑務所に送られるということ、それ自体を受け容れ・耐えることなど、私には到底できなかった。
　さもなければ、たちまちstir-crazyというやつになっていたことだろう。囚人が狭いところに長期間閉じこめられ、頭がおかしくなることを、英語でstir-crazyと言う。そのstir-crazyの実例を、刑務所で嫌というほどたくさん・これでもかというくらい、目にしてきた。いや、私自身がすでにstir-crazyなのかもしれない。
　20歳で心身修養の道を歩み始めて40年以上が過ぎたが、この間、常に、自分自身のことよりも他者ひとのことを優先させてきた。いやしと人間的成長の歓びを、いつも人々と分かち合おうと努めてきた。心身の不調や重篤な病に苦しむ人々には、助けの手を差し伸べてもきた。
　その結果が、やってもいないことをやったと国家により無理やりでっち上げられ、人間の名に値しない罪人つみびとよ、社会に害を為す悪人よ、お前が身を置く場所など社会にはないのだ、お前など社会は必要としていない、消えてしまえ、と刑務所へ送られることであるとしたら・・・それでもなお、私は人というものを愛し続けることができるのか？　自分自身が人間の一員であるという事実を、受け容れることができるのか？

◎ゴールデンウィーク中、ヒーリング・ネットワークの友人らが広島に集い、長年留守にしてゴミ屋敷のごとく荒れ果てていた龍宮館・天行院の大掃除＆整備作業を手伝ってくれた。
　明るいうちは皆で精出して働き、夜間、龍宮道の伝授と稽古を執り行なったが、その模様の一部を撮影したのでご紹介する。虎口（手の親指と人さし指の間にある水かき部分）を活かして体内に浸透する縦波を発生させるわざや、気合（引進落空）、「猫かき」などが示演されている。例によって、打ち合わせや事前のリハーサルなど一切なし。武術のわざとして観るのも悪くないが、術者も受け手も皆、波打ち続ける波紋として観れば、さらに楽しめる。

動画　2022.05.03　於：天行院

フルハイビジョン画質　06分17秒

◎龍宮道にも「秘伝」はある。
　が、それは、特別なわざを一部の人間が独占し、他者よりも優位に立つための狭量・狭小なる秘伝ではない。
　そのわざを会得するために必要な身体的・心理的な基礎・準備がまだ整ってない状態で――そこへと到るために必要な途中のプロセスを端折はしょって――早まって習ってしまうと、それ以降の熟達・成長が却って妨げられる、という意味における秘伝だ。
　しかるべき手順を踏んだ上で、龍宮道の秘伝すべてを公開する用意はある。のだが、残念ながらそれを積極的に求める者・・・私が発信してきたメッセージに対し、ひたと向き合い、全面的に受け止めようとする者・・・は、この世界に一人もいない。
　であるならば、伝承とか相伝とか新たな執着を生み出すことなく、このまま埋没し、忘れ去られるままに任せるのが至当であろう。
　万物は流れ行き、流れ去る。その無常性に、私は究極の美と安らぎを覚える。

＜2022.05.13　蚯蚓出（みみずいずる）＞