Healing Discourse

ヒーリング・リフレクション2 第三十四回 龍宮巡礼

◎久方ぶりの海外巡礼に先立ち、本連載の諸所にさりげなく配置しておいたキーワード(南洋、イスラム、猫山王、ノコギリガザミ、etc.)や、第三十二回でご紹介した奉納舞ほうのうまいなどを観て、「巡礼先はイスラム教国のモルディヴだな。日本からの直行便はないから、経由地は(現在、政情不安定な)スリランカではなくシンガポール。帰途シンガポールへ立ち寄り、シンガポール人も大好きな猫山王マオシャンワン(マレーシア産ドリアンの品種)をきっと堪能してくるのであろう。旬の時期は過ぎているが、ドリアンと出会える可能性はまだ充分あるはずだ。シンガポールといえば、名物チリクラブやブラックペッパークラブを思い起こすが、その材料がノコギリガザミ(マングローヴクラブ)だ。そして、雨期で海況が荒れがちのこの時期にわざわざモルディヴくんだりまで出向くということ、さらに奉納舞に顕われている巨大なエイのような波紋とを考え合わせれば、目的地はズバリ、バア環礁のハニファルベイ!」・・・と、すでに看破かんぱされていたあなたは、シャーロック・ホームズ並の度外れた観察眼と洞察力をお持ちであるに違いない。脱帽である。
 しかり(その通り)。インド洋はモルディヴのバア環礁ヘ、巡礼に行ってきた。雨期、バア環礁のハニファルベイには時として百頭を越すナンヨウマンタ(Mobula alfredi)の大群が集い、海中で宙返りするように螺旋軌道を描きつつプランクトンを捕食するサイクロンフィーディングと呼ばれる大乱舞を繰り広げる。そのまっただ中に飛び込み、マンタと地球調和の祈りを共にしながら、奉納儀礼としての帰神撮影を執り行なってきた。
 祈りの旅の詳細は、今後トラベローグとして徐々に発表してゆくが、本連載ではその裏話などを適時、ご紹介してゆきたいと思っている。

マンタ

海にも生き物にも特に興味はないという人でも、マンタのことは誰もが知っている。魚の中で最も大きな脳を持ち、海底の地形などを詳細に記憶して広大なエリアを回遊すると言われている(写真をクリックすると拡大。以下同様)。

マンタ

海の中でマンタとごく短時間出会うだけでも、ダイバーにとっては至福の一時となる。ところがハニファルベイでは、含胸抜背を心がけておれば、こんな風にマンタの方から大接近してくるのである。近い、近い。近過ぎるほど近い(端に誰かのフィンが写り込んでいるのはご愛嬌)。だが興味深いことに、含胸抜背を崩すや、たちまちマンタは泳ぎ去ってしまい、決して近寄ってこようとはしなくなる。このことは、小さな魚であってもまったく同様だった。

マンタ

かくも大規模なマンタの集合現象がみられるのは、地球上でただ一ヶ所、モルディヴのハニファルベイのみと言われている。

◎本稿を執筆している現在いま、日本入国後に求められる1週間の自宅待機の真っ最中だ。毎日、何度も何度も携帯電話に連絡が来て、その都度、現在地や健康状態の報告、ビデオ通話による本人確認を求められる。帰国直前と帰国直後、2度続けてPCR検査を受けさせられ、両方とも陰性であってさえこの始末だ。
 モルディヴでもシンガポールでも、こんな面倒なことは一切必要なかった。シンガポールのテレビでは、「60歳以上と健康弱者の方々は、最初のワクチン接種から5ヶ月が過ぎたなら、2度目の接種をご検討ください」といった政府広告が流されていた。そんな呑気なことをやっていて、4度目のワクチン接種を半ば強制的に推進する日本と比べ、COVID-19の感染者や重症者がシンガポールでは圧倒的に多いのかといえば・・・いな、なのである。
 シンガポールのチャンギ国際空港は真夜中でもほとんどのショップが営業し、世界中の様々な国の旅行客で大いに賑わっていた。
 これに対し日本の関西国際空港は、各航空会社の受け付けカウンターの大半が閉まり、あまつさえビジネスクラスのラウンジすら閉鎖中で、「提携しているマクドナルドで食事してください」と言われたのには呆れ返った。
 空港内には旅客の姿がほとんどなく、閑散としていて、まるでゴーストタウンみたいだ。国際空港といえば、その国のいわば「顔」だが、関空のこのわびしい有り様は、日本という国の現実を如実に物語っているのだろう。

関西国際空港

◎ところで、日本の外務省は「モルディブ」という表記を採用し、一般の書籍などでも「モルディブ」と書かれるのが普通のようだ。が、Maldivesを和式に読むのであれば、「モルディヴ」の方がより正確だろう。ビクトリア女王やルイ・ビトンではなく、ヴィクトリア、ヴィトンと意識的に書き分けるのと同様に、あるいはベートーベンではなくベートーヴェンと記すように、私は敢えて「モルディヴ」という書き方にこだわらせていただく(あくまでも個人的なこだわりである)。
 余談だがルイ・ヴィトンといえば、次に掲げるムービーはシンガポール、チャンギ国際空港内のショップなのだが、入口が大きなモニター画面になっていて、アニメの海中景観が常に動くのである。内装といい、日本では考えられないような色使いや空間センスが新鮮で、思わず動画撮影してしまった。画面いっぱいに拡大してご覧いただきたい。

◎引きこもりの頑迷な年寄り国家・日本。そんな時代遅れの国のことなど、海外の人たちはもうとうの昔に関心を失っていて、ジャパンという言葉をきっかけに彼らの口からかろうじて出てくるのは、ニンテンドー、チェリーブロッサム(桜の花)・・・くらいのものか。日本円の価値が随分下がっているから海外旅行は大変でしょうね、などとタクシー運転手から同情、心配されるに至っては、憮然として沈黙するしかなかった。
 今回の巡礼は、日本国政府の支援も得て実現したものであり、私自身も日本人の一人であるからして、日本という国や社会に対しネガティヴな言辞など決して弄したくはないのだが・・・、海外をちょっと旅しただけで一目瞭然、私たちの国は確かにお年寄り国家である。いろんな意味で活力に欠け、元気も気概も気迫も、ない。進取の気性や冒険心など、どこを探してもみあたらない。

◎たとえそれが事実であっても日本の悪口を述べることは、その日本に生まれ・日本で育ち・日本で暮らす自分自身がダメと言っているのに等しい。即ち、自分で自分をおとしめ、自分で自分に呪いをかけている。
 すると、心身がたちまちこわばってくる。
 ヒーリングが必要である。
 福音(悦ばしき知らせ)が要る。切実に。

◎それで・・・遥々はるばるモルディヴまで巡礼してきて、奉納儀礼を執り行ない、マンタと霊的に交感・交流し、・・・「福音ふくいん」なるものが得られたのか?
 こわばった心と体に新風を吹き込み、隅々まで巡らせて、新たな活力に満たされる、そのための具体的方法を授かったのか?
 ・・・もちろんだ。
 自然界からの大いなる贈り物を、全地球の人々と分かち合うべく、授かり・たまわってきた。

◎モルディヴ巡礼を通じ、新しい<道>が豁然かつぜんひらかれた!
 まったく新しい、だが、究極の境地に達した先人たちが皆等しく語ってきたところの、基本にして奥義。
 ヒーリング・ブレス、いわゆる呼吸法である。
 巷間こうかんの呼吸法には実にいろんな種類があって、中にはやり方や手順を覚えるだけでも一苦労であろうような、煩雑にして複雑極まりないものもある。
 が、今、私が語っているのは、そういう類いの各種方式とはまったく違う、実にシンプルな根本原理だ。ただしここで言うシンプルとは、あらゆる極意・奥義に自ずから備わるシンプルさのことであり、安易とか簡単という意味じゃない。そのことはくれぐれも誤解なきように。

◎新たに授かったこの呼吸法の実践により、私の身体感覚及び身体運動の質は、従来とまったく異なる状態へとほぼ一瞬にしてシフトした。まだ対人で試す機会を得てないが(何せ自宅待機中の軟禁状態である)、龍宮道のわざも根幹から変容していることだろう。
 ヒーリング・ブレスの第一歩は、かの有名な腹式呼吸法だ。
「哲人は腹で息する」(荘子)・・・腹式呼吸を実践すればこんなによいことがありますよ、こんなに素晴らしい効果がありますよ、病気も治りますよ、体も心も健やかになりますよ、体力もつきますよ、・・・などなど、古人が強調・喧伝した<効果>が、現代を生きる私たちにも実際に味わえるようになってしまうとしたら、もうそれだけで充分とすらいえまいか?
 心と体の関係に真剣な関心を寄せる人ならば、これまでにきっと何らかの呼吸法を試し、あるいは一定期間実践したことがあるに違いない。が、上述のような素晴らしい諸効果は特に実感できなかったろう(それらの効果は本来、その場で直ちに感じられ始める)。
 それは、あなた方のやり方が正しくなかったからだ。息を吸う時に腹を膨らませて・・というところから、決定的に間違ってしまっていた。というよりは、目を覆いたくなるほどぞんざいに、いい加減なことをやらかしてしまっていた。これはあなた方だけの話じゃない。世の人の、おそらくほぼ全員が、呼吸法の指導者も含め、まったく同様の過ち(仮想)に陥ってしまっている。それでは、いかなる呼吸法も思ったような効果をあげられないのは当然だ。
 呼吸法とは、元来、物凄い効果を秘めているものなのだ。私自身が実際に、今、その効果を満身で如実に味わいつつある。
 真の呼吸法は、龍宮道に限らず、呼吸を重んずるあらゆる人々にとって重要なテーマだ。とりわけ、呼吸に合わせて動く流儀(龍宮道も当然そうだ)では、呼吸法が決定的に重要となる。

◎伊勢名物、てこね寿司。秘伝のたれにくぐらせたカツオのけを酢飯に載せ、ショウガや大葉、ミョウガ、貝割れ大根などの薬味をたっぷり添える。龍宮館のてこね寿司は、本場の老舗店で食べるよりも美味しいともっぱらの評判である。
 モルディヴやシンガポールでスパイシーなものを毎日いただいた後は、こういう食事が心身に染みてきて楽しい。

ドリアン

<2022.09.10 草露白(くさのつゆしろし)>