Healing Discourse

龍宮道メモ 第二回 鎖骨密珠2

2023.04.18

 鎖骨密珠の「ちょっとした」応用の一例。
 冤罪で4年余を過ごした刑務所より出所してすぐ(2020)、鎖骨密珠を始めとする胸郭の和らぎを伝授テーマとして集中的に取り上げたが、それはコロナ禍でマスク生活が続いたことにより人々の呼吸が知らず知らずのうちに浅くなり、胸郭が以前にも増して硬くなっていたからだ。
 胸の中央にある胸骨の裏には、免疫と深く関わるとされる胸腺がある。胸郭が柔軟でなければ、その中に収まっている肺がトータルに働くこともできない。むろん、心臓にも胸郭の状態は直接影響する。胸郭を柔軟にして胸腔内の流れを良くすることは、だから、いろいろな意味で大切なのだ。

動画4 『鎖骨密珠4』 撮影:2023.03.18 於:天行院

フルハイビジョン画質 02分08秒

2023.04.25

 肥田式強健術の創始者・肥田春充の横隔膜は、腹式で息を吸うと下に凹むほど可動性が高かったという(細菌学者・医師の二木ふたき謙三医学博士による)。
 大分前のことになるが、MRI(磁気共鳴画像)で自分の横隔膜の動きを調べてもらったことがある。病気でもないのにMRIを使わせてくれる病院がなかなかみつからず、友人の1人である帆足茂久君(医師・医学博士)があちこち問い合わせて、ようやく神戸の病院に受け容れてもらえることになった。ちなみに、これは決して個人的な好奇心を満足させるために行なったことではなく、人々の健康向上に役立てるためであることは言うまでもない。
 さて、サイズがまるで合ってない寝巻きみたいな検査服に着替えさせられるという屈辱に耐えつつMRIに入ったのだが、最初怪しげなものを見るような目つきでよそよそしかった検査技師たちの態度が、検査終了時には打って変わって奇妙に丁寧なものとなっていた。検査に立ち合った帆足君によれば、「あり得ない(これまで見たことがない)」ほど横隔膜が上下し、下がる時にはやはり下(足の方向)に凹んでいたそうだ。

動画5 『鎖骨密珠5』 撮影:2023.03.18 於:天行院

フルハイビジョン画質 03分22秒

 この動画は、肥田式強健術・腹胸式呼吸法のやり方を示すことが主旨ではなく、腹式にせよ胸式にせよ、腰に(体軸に対し垂直に)あてがった棒を軸として体を反らせるような「反り方」とはまったく異なる、別種別様の「反り方」があることについて、その概略を示したものである。
 鎖骨密珠を腕の支点として胸郭を柔軟に使うことについては、もう改めて強調する必要はあるまい。そのようにして胸式呼吸を行なうと(動画の後半部分)、胸郭が「普通ではあり得ない」やり方で動く。背中を反らせて胸を持ち上げるのとは違うし、肩胛骨を寄せて胸を開くのでもない(そうしたやり方では胸郭それ自体の体積はあまり変化しない)。
 動画で私の胸郭にヒーリング・タッチしている者たちの感想を、参考用にご紹介しておこう(チーム・コミュニケーション・ツールより)。

●先生の胸郭にヒーリング・タッチさせていただいた際の、特に背中側に起こった変化は私の既成概念をはるかに超えており、どう表現したものか戸惑いを覚えます。人間の体が、特に背中があんな風に動き、変化するものだとは想像すらしたことがなかったからです。
 拙い表現力に鞭打ち何とか書いてみますと、まず吸気(胸式第3息)に伴い、背中が膨らんで来たのですが、その幅は想像を超えるものでした。その膨らみ方も独特であり、背中の形が劇的に変わってゆき、ゆったりと膨らんだ形になりました。まるで胸側と背中側が入れ替わったかのような印象を受けました。
 実際には、ヒーリング・タッチの精度を上げて、先生に触れ合わせていただき以身伝身で感じ取る他、理会する道はないと思われます。人間の身体がこれ程まで伸縮、変化するものなのかと、その可能性を感じ取らせていただけたのは、大変貴重でありがたい体験でした。(東前公幸)

●先生が胸式呼吸をされた時、胸郭の前後と触れ合わせていただきました。
 先生が息を吸われると、胸郭内部が渦巻くような感覚とともに背中側が強烈に膨らんできて、それがブワッと波となってこちらまで伝わり、自身の身体も内側から張り伸ばされていきました。
 これまで胸式呼吸において、胸を身体の前面に向かって膨らませるのではない、ということは、頭では理解していましたが、背中側に膨らませるといっても、無意識に直線的な方向性の運動と捉えてしまっていたことに気づかされました。
 鎖骨密珠が上肢の支点となることで、力が体外に散逸することなく、身体の内側で螺旋状の流れが生じているように感じました。
 胸式呼吸による先生の胸郭の変化は想像を絶するもので、複雑な運動と感じましたが、同時に身体の構造ありのままの自然な動きであり、私たちが仮想に囚われ、いかに不自然なことをしているかということも強烈に感じた体験となりました。(佐々木亮)

●先生の胸式呼吸の際に胸と背にタッチさせていただきましたが、背中側が下で胸側が上として、手の触れ合っている場所が直接上下方向に同時に拡張する、他では感じたことがない異様な感覚がありました。動画でも比較として、腕や肘に力を入れて胸を持ち上げようとする動きを示されていますが、その場合はこちらの手が直接触れている場所より遠くから働きかけられている感覚があり、しかも胸が多少持ち上がっても背中側は反っているので少し変形はしていても胸の厚み自体はそれほど変化はありません。
 ところが先生の胸式呼吸では、ダイレクトにその場所から膨らんでいるのが感じられ、胸が膨らんでいるのに背中側の厚みも増す感触がありました。(道上健太郎)

2023.04.29

 動画6でご紹介するのは、やや応用的な修法だ。胸郭を強烈に開く作用があるので、基本がある程度できるようになってから、徐々に試していただきたい。

動画6 『鎖骨密珠6』 撮影:2023.03.18 於:天行院

フルハイビジョン画質 02分56秒

 胸郭を和らげるとは、別の言葉で言えば、「ハートを開く」ということだ。
 それではハート(心)はなぜ閉じるのか? 
「疑い」がハートを閉ざす。ハートが閉じると、他者と共感することができなくなり、愛の喜びも感じられなくなる。
 龍宮道のような共感(合気)に基づく武術では、ハートが閉じているというのは極めて不利な状態と言えよう。合気道開祖・植芝盛平翁いわく、「合気は愛なり」と。

<第三回へ続く>