Healing Discourse

龍宮道メモ 第一回 鎖骨密珠1

2023.04.05

 鎖骨密珠さこつみつじゅについては、ウェブサイト内でこれまで何度か言及してきた。関連する動画は以下の通り。

 鎖骨密珠とは、一言で言えば、肩ではなく鎖骨の胸鎖関節部(鎖骨内側の、胸骨と関節をなしている丸く膨らんだ部分)を腕(上肢)のつけ根・動きの支点として使う、ということだ。鎖骨も腕の一部とみなす、と言い換えてもよい。
 これは解剖学的には普通の(自然な)、常識的なことであって、何か変わった新しい身体の使い方を新たに提唱しているわけではない。解剖学における「上肢」は、手、前腕、上腕、鎖骨、肩胛骨から成っている。

鎖骨密珠

 以下の動画1は、第8回龍宮会りゅうぐうえにて撮影したもので、これまで述べてきた内容と一部重複するが、そのままご紹介する。

動画1 『鎖骨密珠1』 撮影:2023.03.18 於:天行院

フルハイビジョン画質 03分26秒

 密珠というのもヒーリング・アーツ(龍宮道を含む)独自の用語だが、最初にそれが自顕してきたのは2013年初旬頃だ。『ヒーリング随感5』第8回「密珠」も参照されたい。

2023.04.09

動画2 『鎖骨密珠2』 撮影:2023.03.18 於:天行院

フルハイビジョン画質 02分39秒

 動画2では、鎖骨密珠を使って相手との間合いをはかることが示される。

【参考】
  • 『ヒーリング・リフレクション2』第二十七回 動画1 『胸郭の和らぎ2』2022.07.02
     鎖骨密珠を球転する支点として上肢を使う応用例など。
  • ヒーリング・ムービー其之四 ムービー2 04:35〜06:00あたり。2021.04.17
     鎖骨密珠が全身に影響する身体運用上のポイントであることが、武術的応用例などを通じて示される。

2023.04.14

 今回の動画3では、鎖骨密珠を球的中心として腕(上肢)を使い、様々な打撃へと応用するすべが示される。
 龍宮道では、打撃の「強さ(威力)」ではなく、「質」をもっぱら重視して探求する。のだが、動画中で「基本以前の余技よぎ」と呼んでいるような簡単な手法ですら、タイミング次第では強烈な作用を受け手に及ぼすことがある(若い頃、稽古仲間などに遊び半分で試みた際、受け手がしばらく倒れ込んで動けなくなったりしたことが何度かある)。
 くれぐれも注意していただきたいが、要は何のためにそれを行なうか、という「意図」の問題だと思う。我々はもちろん、<ヒーリング>について学び修するために、こんなことをやっているのだ。

動画3 『鎖骨密珠3』 撮影:2023.03.18 於:天行院

フルハイビジョン画質 04分21秒

 鎖骨密珠は、龍宮道では「胸郭の和らげ」を体現するための具体的修法の一つとなっている。胸郭の和らげについては、以下の動画などをご参照いただきたい。

  • 「『太極拳論』を語る」第九回 動画1 2022.05.03
     龍宮道における含胸抜背がんきょうばっぱい」とは何か。他者の身体に含胸抜背を導くサポート法。
  • 「『太極拳論』を語る」第九回 動画2 2022.05.03
     相対の武術的シチュエーションで、含胸抜背がどのように機能するか?
  • 「『太極拳論』を語る」第九回 動画3 2022.05.03
     含胸抜背の応用。
  • 「『太極拳論』を語る」第十回 動画 2022.06.11
     動画の下で、鎖骨密珠の武術的応用と「鎖骨さこつ(くさり骨)」という名称に関することなどが説かれている。
  • 『ヒーリング・リフレクション2』第二十七回 動画3 2022.07.02
  • 『ヒーリング・リフレクション2』第三十一回 動画3 2022.08.12
     含胸抜背を活用しながら動くことで、背中が波打ち始める。

※ここまで龍宮道の基本である「胸郭の和らげ」(鎖骨密珠を含む)について集中的に述べてきたが、これらを修する際の注意点についても明記しておこう。
 まず第一に、言うまでもないことだが、いつまでも胸郭(上体)だけに集中して働きかけると、そこは充分開かれるだろうが全身的にはアンバランスとなりかねない。初心者はこうした問題についてあまり気にする必要はないが、少しく熟達してきたならば、骨盤を含む下肢の和らげにも留意し、上体と下体のバランスを取りつつ修練を進めてゆくようにしていただきたい。
 なぜ上肢のワークをまず行なうかといえば、頭部に中心がある現代人にとって、頭に近い胸郭や普段良く動かす手・腕は比較的意識しやすく、取り組みやすいからだ。ところが、そのようにして上体各部を働かせるのは、「実(力を用いる)」に属する使い方であって、龍宮道が最終的に目指す「上体(みぞおちから上)は常に虚にして虚」の状態とは根本的に相反することになる。上体が実であっても充分な効果は得られるが、それは到達点ではなくまだその先がある、ということだ。
 この問題は、武術に限らず様々な道でも同じように難題になっていると思う。龍宮道では「実」でもいいからまず大まかな形・動きを学び、と同時に骨盤を含む下肢の使い方を修得して上体と下体を連動させてゆく。力を抜いて「虚」を招くための稽古(力抜き、脱力)も大切だ。
 その上で、腰腹(中体)を中心として、上体が虚、中体が実、下体(脚)が虚にして実(膝から上が虚、膝から下が実)となるよう、「同時に(瞬時に)整える」段階へと進む(三位一体トリニティ)。これは「気合」とか「勁」、「合気」などと呼ばれる高等技術と密接な関わりがあるファクターだ。
 上記のようにして腰腹を充実させれば、後は何も要らない。身体各部の部分的修練はすべて腰腹と連動し、腰腹を意識してそこを発動させさえすれば身体が勝手に動いて必要なことをなす、という境地が自ずから顕われてくる。

<第二回に続く>