Healing Discourse

其之十二 活殺自在

文:高木一行

 約1年間、龍宮道を紹介してきた。私自身の日常は、祈りと瞑想を中心とする生活で特に身体の鍛練は行なわず、人に指導するのもせいぜい月に数回程度だが、それでも他者と相対あいたいするたびごとに、わざの熟達を実感する。心身の統一感、和らぎ、相手との一体感、精確さ、鋭さ、などが、留まるところを知らず深まってゆくのは、自分でも驚くほどだ。動静・剛柔・快漫、変化自在にして、自由自在なり。
 私はただ、女神の叡知たる聖杯原理(受容性)を使って、聖なる力の顕現(M.エリアーデのいわゆるヒエロファニー)に全心身を委ねている、・・・ただそれだけ。
 もちろん、そうしたトータルな委ねのさ中にあっても、「動きの中心」を意識し続けることを失念してはならない。これまでウェブサイト中の各所で述べてきた「腰」が、その動きの中心だ。

 第六回合宿稽古会(2022.03.19~21)で撮影した動画の一部を分かち合いたい。
 ゆっくり柔らかく人を投げ倒す(相手もゆっくり柔らかく倒れてゆく)というのは、実際にやってみればわかるが、簡単そうに見えて実は至難のわざだ。倒れた相手を片手でひょいと起こすことも極めて難しい。動画に登場する受け手の一人は、撮影した動画を直後に観て、「自分が協力してわざにかかっているようにすらみえる」との感想を述べていた。
 瞬間瞬間、「均衡バランス」と「制御コントロール」が絶妙に保たれ続けているからこそ、このようなわざが可能となる。

動画1 2022.03.20 於:天行院

フルハイビジョン画質 06分17秒

 合宿稽古会ではどんなことをやっているのか、その一端をご覧いただくため、動画の切り落としを2つ、ご紹介しておこう。
 私は剣道はまったく未経験だし、木刀の素振りすらほとんどやったことがないが、今回の参加者中に剣道7段という人がいたので、試みに(戯れに)いろいろやってみた。「遊びをせむとや生まれけむ。戯れせむとや生まれけむ」(『梁塵秘抄』)。

動画2 2022.03.20 於:天行院

フルハイビジョン画質 03分00秒

 動画2を観照していると、壁に掛けてある人間国宝制作の皿などが(不慣れな者に木刀で叩き割られはしないかと)ヒヤヒヤしているみたいで、何だか危なっかしい感じがする(呵々大笑)。大勢で武器術を修する際には、もっと広々した稽古場所が要ると感じる今日この頃である。
 ちなみに、なぜ(笑)ではなくて(呵々大笑)なのか、と時々尋ねられるので答えておくが、(笑)は冷笑とか自嘲など横隔膜が上がるアンチヒーリングの笑いが連想されてイヤなので、横隔膜が下がる健康的な大笑い、という意味で(呵々大笑)を意識的に用いている。英語で言えばBurst into laughter.(大爆笑)といったところか。

動画3 2022.03.20 於:天行院

フルハイビジョン画質 03分53秒

 動画3の最初に登場するのは、瞬間的に心身を統一させて一種の衝撃波を発生させるわざだが、いわゆる気合術にも通じるものであろう。龍宮道の根本原理たるレット・オフ(内破法)の一応用例だ。受け手によれば、内破(気合)の衝撃波は、生理的・神経的にハッキリ感じられるものらしい。実戦で本当に大切なのは気合だ、とはよく耳にする話だが、その真義がようやく腑に落ちるようになった。ここで言う気合は、単に大声を発することとはまったく違う。2種類の気合で、それぞれ他者の身体に起こる波の種類が異なるところにもご注目いただくと、ぐっとマニアックになってくる。
 内破法に続き、(力を入れる)実ではなく(力を抜く)虚の作用を使って踏み出し、相手との間合いを詰める方法が示演される。

「また(自称)呪術家のおふざけか」と良識ある方々の眉をひそめさせるであろうことを承知の上で敢えて述べるけれども、以前ご紹介した動画で「猫かき」というものが出てきたが、今年は寅年だから、というわけではないと思うが、今や「猫かき」がさらに進化(深化)して「虎かき」(虎掻こそう)になった。
 手の親指と人さし指の間にある水かき部分を中国武術では虎口ここうと呼び、弓道でもこの虎口を重視するらしい。
 虎口を活かす秘伝を知れば、全身のあらゆるところから縦波(地震のP波)を発することができるようになるのだが、龍宮道のように人体の主成分を水とみなす体術において縦波は非常に重要で、何せ周知の通り横波(S波)は水を伝わらないのである。
 縦波の活用法を身につければ、軽くポンと打ったり、はたいたりするだけで、相手の身体内に波紋が浸透し、(体内が)波打つ。実際の「虎かき」はこの縦波を連続して叩き込むのだが、非常に危険なため、演武ではすべて寸止めにとどめている。
 縦波をヒーリング方面へと活用すれば、体内に浸透してゆく性質が縦波にはあるので、当然ながら効果絶大となる。まさに、活殺自在という感じだ。
 なお、縦波は縦に波打ち、横波は横に波打つ、・・わけではなく、両者は波動伝達のあり方がまったく違うので注意のこと。

<2022.04.08 玄鳥至(つばめきたる)>