Healing Discourse

其之十五 コバ返し

文:高木一行

 大東流合気柔術中興の祖・武田惣角(1859~1943)が伝えたわざのひとつに、「コバ返し」なるものがある。
 コバとは木葉このはであり木の葉が風にひるがえるように軽妙に手を返す様を指す、とか、総角の出身地・会津の古い方言でコバは手首、または小手(手首から先)を意味した、・・・など、諸説あって実際のところはよくわからないし、大東流各派においてもコバはまったく重視されてないようだ。コバ返しというわざで、具体的にどんなことをするのかさえ、私は知らない。
 
 ところが、龍宮道における虎口(手の親指と人さし指の間の水かき部分。親指を含む)の学びを進めるうち、そこ(虎口の内部)を充分緩めて小さく瞬間的に波打たせるだけで、大東流合気柔術のすべてのわざが勝手にかかってしまうことがわかってきた。
 ご注意いただきたいのは、虎口に波を起こすといっても、ただその箇所のみを意識して作為的、能動的、もっというなら「実」で、波を起こそうとしたのでは、それによって発生するのは横波であって、合気はもちろん、何らの作用・効果も期待できない。
 まず手を充分緩め、虚実の転換(レット・オフ)が自在にできるよう訓練する。そして、腰腹を中心とする上虚下実(より正確にはトリニティ)を体現すべく、下体の実を鏡に映すように上体を虚で満たすのだ(下実と上虚は同時・相照)。それにより瞬間的に全身を貫く作用(いわゆる勁)を虎口へ通す時、縦波が身体内でより明瞭に感じられるようになる。
 透明に波打つとか、体内に浸透してくる無形の作用、などと表現されるのが「それ(縦波)」だ。横波は水中を伝わらないが、縦波は伝わる。そして、周知の通り、人体の主成分は水だ。
 
 6月10~12日の龍宮会で、虎口について皆で楽しくあれこれやっている時、ふと思ったのだ。武田惣角が言うコバが、もし、龍宮道の虎口に相通ずるものだったとしたら・・・。
 理屈はさて置き、上述の通り、そして動画をご覧いただくとわかるように、虎口を小さく波打たせるだけで、面白いほど大東流のわざがかかる。まさに自由自在である。
 龍宮会参加者の一人が、龍宮道式のコバ返しで散々翻弄され、投げまくられた後でぽつりといわく、「コバとは小波こばでしょうか」、と。
 私自身の体感とも矛盾しないし、なるほどうまいことを言う、と皆で感心した。
 以下の動画1と2は、一連の場面を2つに分けたものだ。

動画1 『コバ返し1』 2022.06.11 於:天行院

フルハイビジョン画質 07分10秒

動画1 『コバ返し2』 2022.06.11 於:天行院

フルハイビジョン画質 07分33秒

<2022.06.25 乃東枯(なつかれくさかるる)>