文:高木一行
本シリーズ(ヒーリング・ムービー)を、「武の舞」というタイトルから始めた(其之一)。およそ2年前のことだ。
武の舞とは、これまでも本ウェブサイト内で何度か述べてきた通り、かつて琉球王家の長男のみに一子相伝されてきたという秘伝武術・本部御殿手の用語・コンセプト(概念)であり、第12代宗家・上原清吉先生(1904~2004)より教わったものだ。
上原先生とは一度お会いして上級者向けの稽古を見学させていただいたのみで(1986年春)、何か具体的なわざを習ったわけではない。しかし、爽やかに晴れ渡った中城城趾(沖縄本島・宜野湾市)にて、師範レベルの高弟たち相手に繰り広げられた美しい達人わざの数々は今でも鮮烈な印象として脳裏に焼き付いているし、稽古後の食事会にまでお招きいただいて伺った貴重なお話や教えは、その後の修業に多大な影響を与えることとなった。
上原先生がおっしゃっていたのは、「御殿手では、舞姿が武となり、武が舞姿となる境地を至高の奥義とする」ということだった。それを実現するための重要な鍵は、剛から柔への価値転換、他者とぶつかり合わないこと、和を求める態度である、と。
そうした、元来は流派の秘事に属するであろう大切なことまで、上原先生は隠し立てせず丁寧に解説してくださった。そして、「自分独自の武の舞を探求してゆきなさい」と力強く激励していただいた。
ただひたすら感謝し、感激するしかない。
一道の秘奥に達した人と出会い、教えを受けるということは、それがただ一度・短時間の邂逅であったとしても、人生を変えるほどの重要な体験となり得る。このことを事実として知るがゆえに、私は常に一期一会(生涯ただ一度の出会いのつもりで全身全霊をあげ向き合う)の覚悟にて、1回1回の伝授の場に臨んできた。
上原先生は、稽古風景をビデオ撮影することまで快く許可してくださった。
上原清吉という武道の達人が沖縄にいる、ということは、当時すでに武道雑誌に写真つきで紹介されていたが、知る人ぞ知るいまだマイナーな存在であり、ましてやその実際の動きを映像で観たことがある者は内地(九州以北)にはほとんどいなかったのではあるまいか?
後日、『秘伝』誌(BABジャパン)の編集者に私が撮ってきたビデオをみせ、自分が目の当たりにしてきたありのままを熱く語ったところ、編集部で即、現地取材が決定し、さらには上原先生のご著書やビデオの刊行へと流れるようにつながっていった。私が仲介などせずとも、遅かれ早かれ上原先生の存在は広く知れ渡っていたはずだが、小さなこととはいえ「達人」の一人を世に紹介する一助を担えたことは望外の喜びだ。
さて、我々の「武の舞」だが・・・第7回龍宮会で撮った動画を改めて客観的に観て、まだまだ動きが粗いし、無駄な動作も多すぎて、(とりわけ武としては)目を覆いたくなるほどだ。が、私も他の者も月1回程度の稽古で、2021.05.03(其之一)から今日(今回の動画の撮影日2023.02.04)まで、常に<ヒーリング(全体性、調和、バランス、健康、聖性)>を旨として進んできた。「柔らかさ」「和らぎ」「舞」「調和(力対力でぶつかり合わない)」という観点から評価して、「まあまあ」の出来かな、と自画自賛しておく(呵々大笑)。
この動画の撮影に際しては、地球調和のための奉納という祈りや先師への敬意はもちろん、「渦」というテーマを特に強く意識した。ダ・ヴィンチの有名な渦のスケッチのイメージだ。
武術マニアの方はすでにお察しかもしれないが、それは本部御殿手の秘術「龍巻の剣・渦巻きの剣」へのオマージュともなっている。
フルハイビジョン画質 03分49秒
<2023.02.17 魚上氷(うおこおりをいずる)>