Healing Discourse

其之十八 流心:頭骨の開放

文:高木一行

「流心」とは、常に流れ続け、一所に決してとどまらない心を言う。龍宮道のあらゆるわざを使う際の基本的な心がけであると同時に、奥義に直通する極意ともいえる。これはひとり龍宮道だけでなく、ヒーリング・アーツ全般に言えることであり、のみならずあらゆる心身修養法や武術、芸道、スポーツ等においても同様だろう。
 流心については、『対話篇1』第四回『ヒーリング・リフレクション2』第二十六回でやや詳しく述べた。今回は、その流心を実際に現わすための具体的方法(の1つ)として、「頭骨の開放」に関する修法をご紹介しよう。

 健康的な人の頭骨が非常に微細なレベルで振動しているということは、科学的にも確かめられている事実だが、その頭骨の振るえは自分で内的に感じることができるし、ちょっとしたコツをつかみさえすれば、自由に振るえを惹起し・高めることさえ可能となる。頭の中から発する振動は、たちまち全身へと拡がり、それは触れ合っている他者にまで明らかな影響を及ぼす。
「頭の固い者は腰(体)も硬い」、とは療術の世界などでよく言われることらしい。頭を締めつけて硬くし(具体的やり方は後述)、頭骨の振動を抑圧すれば、たちまち全身がこわばって動きが鈍くなり、あまつさえ頭の働きまでが鈍くなることを、自分自身で実験してすぐ確かめることができる。なるほど、頭骨の状態は健全な心身と密接な関係があるようだと、誰でもすぐわかるだろう。 

 頭骨に働きかける修法はいろいろあるが、今回ご紹介するのは頭骨の中心部にある蝶形骨ちょうけいこつに着目し、そこから振動を起こす方法だ。
 蝶形骨を赤く塗った医学用頭骨モデルの写真をいろんな角度から撮ってみたので、自分自身の頭と実際に触れ合いながら、蝶形骨なる骨がおよそどのあたりに位置するのか、自らの体感に基づき確かめてほしい。

頭骨(前方より)

前方より。クリックすると拡大(以下同様)

頭骨(斜め側面より)

斜め側面より

頭骨(下より)

下より(観やすいよう下顎骨を取り外している)

 蝶形骨というのは、形も変わっているが、真ん中のくぼみのところ(トルコ鞍)に脳下垂体が収まって乗っかっていたりなど、いまだ知られざる面白い・重要な生命機能が、いろいろ秘め隠されていそうだ。
 頭の中にあるような骨を、一体作為的に何とかできるものなのか、と初心者はお思いになるかもしれない。が、赤く塗った部分が頭の側面(こめかみあたり)に観えるということは、そこから直接タッチすることすらできるわけだ。
 タッチせずとも、例えばまぶたを閉じて眼球を軽く奥へ引き込むように力を入れれば、眼の奥から蝶形骨に軽い圧力を作ることができるし、同時に眉間にしわを寄せて額やこめかみ周辺を締めつけるようにすれば(これらの操作はすべて、不快感を覚えない範囲内でごく軽く行なう)、目の奥・両こめかみの間あたりを柔らかく圧縮するような感覚と共に、そこが「おさえられている」ことが如実に感じられ始めるだろう。
 その状態で、体のあちこちをあれこれ自由に動かしてみるといい。驚くほど動きがぎこちなくなっているはずだ。頭も重苦しくなりまともに思考できなくなる。

 ここまでできたら、抑圧をそっと柔らかにレット・オフ、だ。舌も充分緩めるように。
 蝶形骨の締めつけをぱっと一気にやめるのではない。そんなぞんざいなやり方をすれば、あちこちにまだ緩んでないところが取り残される。それどころか、せっかく緩んだ作用が互いにぶつかり合い、足を引っ張り合ったりする。
 いろんな方向から蝶形骨を抑圧(凝集)しているのだから、それらのバランスをはかりつつ、同時に、互いに調整し合いながら、全体として「オフ」をかけてゆくのだ。ゆっくり、柔らかく。ヒーリング・タッチを知っている人は、「粒子的」という要訣も加味して。
 蝶形骨の凝集がバランスよくレット・オフされれば、頭の中心部から細かい泡が柔らかく繊細に湧き溢れてくるような振動感が発生し、たちまち全身を満たす。意識も瞑想状態へと自然にシフトする。
「『太極拳論』を語る」第十一回で説いた「(虚領)頂勁」の基礎練修法(壁に背をつけた状態で身長そのものをストレッチし、背骨を上下に均等に伸ばして関節間より縦波の微細振動を起こす)を事前に行なっておけば、頭骨の振動をよりハッキリ体感できるだろう。
 頭骨開放による細やかな振動を全身へと拡げ、満身に満たした状態においては、身も心も常に流れ続け、どこにも停滞がないと感じられる。これが、「流心」だ。

 以下の動画は、第七回龍宮会(2023.02.03~05)にて、「流心(頭骨の開放)」をテーマとして撮影したものだ。
 体も心も和らげ、流心を常に心がけておれば、相手とぶつかり合った力は術者の全身のあらゆる関節に分散して吸収されてしまう。そうした状態においては、相手を崩すも投げるも自由自在だ。
 何も考える必要はない。ちょっとでも考えたり、迷ったり、あるいは自分の強さに酔い痴れたり、・・・すれば、たちどころに流心が滞り、わざの流れが止まる。
 どんなに速く動いても、常に流心を保ち続けるのだ。一人にわざをかけた後の、いわゆる残心ざんしん(倒した相手の反撃や別の相手の新たな攻撃などに備えた油断のない態勢)のためにも、頭骨開放は重要なファクターとなる。

動画 『流心』 撮影:2023.02.04 於:天行院

フルハイビジョン画質 05分51秒

※蝶形骨を中心とする頭骨の開放については、ヒーリング・ネットワーク1のディスコース『ドラゴンズ・ボディ』第4回もご参照いただきたい。

<2023.02.10 黄鶯睍睆(うぐいすなく)>