Healing Discourse

生命の旋舞 〜モルディヴ巡礼:2022〜 第五章 海の歌垣

 久しぶりに南方の海で泳ぐと、時折プランクトンに肌のどこかをちくりと刺されることがある。皮膚の表面がちょっとチリチリッとして、その後はごく軽い痒みが残り、それが30分~数時間続く程度で特に騒ぎ立てるほどのことはないし、2日目、3日目と体が海に慣れるにつれ、刺されたことにすら気づかなくなるものだ。
 ところが、熱帯の海へ行くと10~20センチくらいの紐状になっているプランクトンが混じっていて、これに接触すると体にぴたっと巻き付いてきて、クラゲ並とは言わぬが結構強烈に刺すからちょっと厄介だ。刺されると、ビリビリッと軽く感電したように衝撃が来て、その後ミミズ腫れができ、やや強い痒みが数日くらいは残る。
 ハニファルベイの水の質感を満身で受け止めてみようと、ラッシュガードを脱ぎ、クラゲ対策効果もある日焼け止めクリームも敢えて使わず海へ入ってみたら、その時はプランクトンが特に大量に発生していて例の紐状のやつもうようよおり、どうやってもけ切れなかった。首や胸、腕などにミミズ腫れがいっぱいでき、環礁で構成されたモルディヴの地図みたいな有り様となってしまったが、まあ良いモルディヴ土産である(呵々大笑)。
 あんなにビリビリ刺すようなものを食べてマンタは平気なのだろうかと、つい余計な心配までしてしまったが、皆さん喜んで食べていらっしゃるわけだし、きっとスパイシーで美味しいんだろう。その土地の食べ物を楽しみながら巡礼するというのは、私たちがこれまで行なってきたことと本質的にまったく同一であって、マンタに対する親近感と共に、深い敬いの念を覚える。

 マンタにとりハニファルベイへの集結は、食の祭典だけでなく、おそらく性の祭典ともなっているのだろう。
 マンタ乱舞のさ中に身を置いていると、ふと、万葉集の有名な歌が脳裏をよぎった。 

わしの住む 筑波の山の 裳羽服津もはきつの その津の上に あどもひて 娘子おとめ壮士おとこの 行きつどひ かがふ嬥歌かがいに 人妻に も交はらむ が妻に 人も言問こととへ この山を うしはく神の 昔より いさめぬ行事わざぞ 今日のみは めぐしもな見そ 事もとがむな 

鷲が棲む筑波の山の中 裳羽服津もはきつの津のほとりに 若い男女が誘い合い 集まり遊ぶ嬥歌かがい(歌い踊る場)では 人妻に私も交わろう 我が妻に人も言い寄るといい この山を治める神様が 古来より禁じてない行事なのだから 今日だけは うるさく監視せず 男女の交わりをとがめだてるな

 古代の歌垣うたがき嬥歌かがい)とよく似た風習が、沖縄各地では毛遊びもうあしびと呼ばれて、近年(1960年代)まで残っていた。野原(もう)や海辺に、夕刻頃から若い男女が集まって歌や踊りを楽しみ、気が合った2人は夜の闇の中に消えていったという。

帰神動画 『マンタ舞:ムービー』

フルハイビジョン画質 03分14秒

 普通に見ても、マンタたちが集団で調和的に舞っていることは明らかだろうが、観の目を使えば、さらに驚くべきことが観える(感じられる)ようになってくる。
 上掲の動画の場合、まずは普通に見て普通に驚き、楽しんでいただきたい。その際には、自分の目がどんな風に動いているかにも注意を払うといい。あれを見たり、これを見たり、ある時には一つのものをじっと見つめたり、常に「眼球が動いている」だろう。
 そんな時には視野が狭まって、そこだけに意識のスポットライトが当たったようになっている。これをけんの目といい、集中的にものを見る、普通の目の使い方だ。

 動画観照の2回目には、見の目から観の目へとシフトする。そのためには、いったん画面中央に視点を決め(見の目)、そこから視点を動かさない(眼球を一切動かさない。まばたきもしない)ようにしながら、四方八方にぱあっと目を柔らかくみひらく。画面内のどこか特定のところに、意識を偏らせない。全画面のどこもかしこもすべて平等に、まんべんなく、均等に、意識が広く行き渡っている状態、それをずっと保ち続ける。
 最初はちょっと違和感を覚えるだろうが、やっているうちにすぐ慣れる。何が映し出されているかわからない、という場合は見の目へ換えてすばやく走査し、しかる後に観の目へとシフトすればよい。宮本武蔵は「見の目を弱く、観の目を強く」(『五輪書』)と述べ、観の目を優勢にして見の目を補助的に使う目付法(目の使い方)を説いている。
 少しずつ続ければさらに熟達して、いわゆる「心眼」の域へ達することさえ、決して不可能事ではない。

 動画を観の目で観ながら、マンタ一頭ひとり一頭ひとりの動きを波紋として認知すると(それは実際に波打つ動きだ)、あちらの波紋、こちらの波紋、どちらの波紋・・・と、あなた自身の「身体の中」でそれらの波が絡み合い、波打ち、・・・・・と同時に、「静寂」がスーッと内面を満たすのが、「感じられる」だろう。瞑想の体験がある人なら、深い瞑想状態と同じだとすぐおわかりになると思う。
 然り。マンタたちは、瞑想的意識状態にて、祝祭の舞を舞いながら、聖なる宇宙の力と交感・交流し、地球調和の祈りを捧げている。舞(動き)そく、祈りだ。
 そのことが観の目で向き合えば、ダイレクトに身体で感じられる。
 別々の波紋を同一画面の中で全部均等にずっと受け容れ続けるだけで、爽快なヒーリング感覚に満たされるから、是非試してみるといい。

 今回はマンタを中心とするややハードな巡礼行ではあるけれども、せっかくモルディヴまで来たのだから、リゾート気分をたっぷり味わうことも忘れない。
 リゾートというのは雰囲気が大切だが、幻想的な雰囲気を盛り上げる照明使いには、それぞれのリゾート独自の工夫があって楽しい。

レストラン
夜景

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 それでは帰神スライドショーだ。「観の目強く、見の目弱く」にて、どうぞ。

<2022.11.05 楓蔦黄(もみじつたきばむ)>