太靈道断食法講義録 第7回

第11章 断食後の注意
第1節 天候

 断食後といえども、あまり暗き部屋にあるのは感心すべきことではない。しかし、日光直射のところにいるのもよろしくない。やはり適当に光線の入る場所を選ぶ必要がある。その他すべての注意は、断食中における注意に準じてこれを行なえばよいのである。 

第2節 気温 

 断食後は、食事中よりもかえって寒さを感ずるものなるにより、断食後といえどもにわかに被服を減じたり、直ちに外気に触れたりすることは大いに慎まねばならぬ。総ての注意は前章における気温の注意を参考とすべきである。

第3節 水分 

 断食後における水分の摂取においては、常習の通りにても差支えないが、質のよい茶を用うることは絶対に禁じなければならない。
 もし茶を欲するならば断食中と等しく、番茶に塩の少量を混じて用うるがよい。
 茶の外に、コーヒーも避けるを可とする。
 水にせよ、茶にせよ、コーヒーにせよ、その用うる分量は断食中におけるように厳密にするにも及ばないが、ある程度までは天候によりては増減をなすことが必要である。 

第4節 沐浴 

 沐浴は断食後にも断食中と等しく水浴するを可とするのであるが、順次に温浴に移るのも、温浴に強く習慣づけられている人には差支えはない。
 しかし、決して急速に水浴をやめて温浴を取るのはよろしくない。しかして温浴に移った後といえども、温浴の際に浴槽に浸りおること二分を越ゆることはよろしくないのである。これは単に断食後においてのみの温浴法ではなく、平素においてもこの法に従うべきである。
 即ち二分間位浴槽にあって、一旦出で、充分に皮膚の垢を洗い落して、再び二分以内浴槽に入るのである。
 何故かといえば、長時間浴槽に浸っていることは、著しく身体の弛緩を来たし、疲労を覚えしめるからである。断食後温浴に移るとするも、それは少なくとも、一週間を経過してからにすることを忘れてはならぬ。 

第5節 飲料 

 飲料即ち酒類、サイダー類、煙草類のごときも、断食後において直ちに断食前の習慣に復することはよろしくない。その中において、純良なる葡萄酒の少量を用いる位は差支えないとしても、断食後一週間位を経てからでなければならない。サイダーのようなものは是非避けた方がよろしいのである。いかに煙草の好きな人であっても、断食後直ちにこれを喫するときは激しい眩暈に襲われやすい。ことにこうした飲料の中には、人の嗜好品である物が多いために、ややもすれば度を過ごし、その人をして失敗に向かわしめやすいために、特に深い注意を払う必要がある。 

第6節 食養の注意 

 断食後において摂取する食物は、食料というよりも、むしろ食養といった方が適切である。則ち食物を取ることによりて生ずる栄養物の方面にも包含せしむることが多いからである。
 断食の準備の章においても述べたるごとく、断食後においても玄米を取った方がよろしいのである。しかも、最初はそれを粥につくりて食し、それより漸次に米飯に進むことが必要である。当初においては副食物は梅干または鰹節に限り、その後なるべく菜食にした方がよろしいのである。肉食のごときは、少なくとも一週間経過したる後でなければ、食することを禁ずべきである。 
 断食後においてこれらの食養上の注意を要するというのは、あながち身体疲労しているためでもなく、また衰弱しているためでもない。断食後においては心身の機能は旺盛になっているのであるが、食物を取らなかったために、身体の状態は少なくとも普通時と異なっているから、慎重なる注意を加えることを必要とするのである。
 されば、たとえ心身の機能は旺盛になっているにしても、断食前に比べて一新された状態になっているから、それに適応した食物を取るということは、真に生命に対する理解を有する者の当然守るべきことである。
 そして、この断食後の食養法にしても、決して独立分離しているものではなく、断食前の準備、断食中の注意等と相関連しているものであるから、よくそれらのことを心得ていて、断食後の食養法にも臨まなければならぬ。
 断食後は慎重に食養上の注意を守るべきことは上述の通りであるが、これと相まってというよりも、むしろこの食養上の効果をして大ならしめる方法がある。それは胃腸の部分に対して押擦法を行なうことである。これは誰もが努めて実行を要すべき重要事項である。 

第7節 精神上の注意 

 精神上においても、断食後直ちにこれを活動させることは避けなければならない。それはそうすることによって、非常に精神の疲労を来たすからである。これは前節においても述べたるごとく、精神が衰弱しているためではなく、むしろ旺盛になっているのではあるが、旺盛になっていればいるほどその感受性並びに活動量は強く、多く、かつ大になるがゆえに、この時に際して精神を活動させて得たる外的な結果は、著しく良好であるべきはずである。したがって平時において思考し得ざる事も思考し、断定し得ざることも断定し得るはずである。
 しかしその活動はむしろ異常的に旺盛に働くがゆえに、その後には必ず疲労を覚ゆるに至るものである。かくのごとき理由により、断食したる後なれば、精神力が旺盛なるべきはずなりとして、急激にその活動を強いるのはよろしからぬ事である。
 その当時ホンの一時的の異常なる活動を見るにしても、その後に来る疲労のはなはだしいことを思わば、一時的な現象に眩惑され、これを濫費するというのは、生命に対する一種の冒涜であるとさえ言い得るのである。 

第8節 肉体上の注意 

 肉体上の注意についても、精神上のそれと等しく、急激にこれを使用することを避けなければならない。
 断食によりて旺盛になりたる身体各部の機能は、熱光線に対しても極めて微妙なる働きをなすようになっているが、それらのものに対して、充分な注意を払う必要がある。
 機能の旺盛ということをはき違って、単に強剛という意味に取り、無理をしても身体はこれに耐え得るはずなりと解するは、部分を知って、全体をわきまえざるものである。機能の旺盛という語の中には、その強剛敏活を含んでいるのはもちろん、微妙なる感受性あるいは変化性、適応性等をも加味されていることを忘れてはならない。その意味を解せば、断食後直ちに身体の急激な活動をなすことの不可なるは、自ずからにして明らかなるべきである。
 この理由によりて断食後においては徐々に、その身体の調子が復常することを図らなければならない。しかして肉体上の注意は、精神上のそれと深き関係にあることも、忘るべからざる条項の一つである。