2013.10.09(断食 DAY16)#2
<午後>
わが愛しの美佳、
本日はなぜか、まだ取り調べがないため、君へのラブレターをしたためる時間が取れた。
取り調べといえば、昨日面白いことがあったよ。
逮捕状に記してあった内容以外、一切を黙秘することにしたので、もう何も話すことがなくなってしまった。
しかし、私が黙っている間に、これまで断片的に語った(非本質的な、どうでもいいこと)を元に、取り調べ官が何やら盛んにPCに打ち込んでいる。
結局、6ページもの調書ができ上がったのだが、署名捺印を求められたため、隙をみて、「私が一言も発さないのに、上記文章が出来上がった。高木一行」と書き込んでやった。
それをみた相手の怒るまいことか(もう取り消すことができないそうだ)。「これまで長年刑事をやってきたが、こんなことをされたのは初めてだ」なんて怒り心頭に発していた。
こちらは、何せ命丸ごとを賭けているんだから、平然としたものだ。
「今は腹が立つかもしれないけれど、後になってきっと面白く感じるようになりますよ。これは私のささやかな抵抗[レジスタンス]です」と言ったら、「面白くなるなんて絶対あり得ない」「何がレジスタンスか」とプリプリしていたが、少したって突然ニッコリ笑顔になって、「本当だ。面白くなってきた」だとさ。
こんな調子で、取り調べのピリピリした雰囲気の中でも、2名の担当官らと楽しくやり取りする場面が結構ある。
最初、私が信者(友人)らを洗脳し、私利私欲のために利用しているとの予断に基づき取り調べを進めていたものが、私がたとえ自分の不利になろうとも友人らについては一切口にせず、日々絶食しながら静かに抵抗を続けていることに、徐々に感銘を受けたか、「さすがだ。なぜ人々があんたについてくるのか、よくわかった」などと言い始める始末。
とはいえ、私を有罪にして刑務所へブチ込むための材料を集めることが彼らの仕事であり、至上命題だ。どんなに打ち解けても、決して心を許せる相手じゃない。
取り調べ担当官の1人は、雑談の最中、
「セックスでねえちゃんをヒイヒイいわすテクニックを是非教えてほしい」と私に頭を下げた。どうやら私をセックスの奥義を得た達人と誤解しているらしい。
聴けば夫婦仲が最悪なのだという。
かわいそうだが、ヒーリング・セックスの秘伝を伝授する義理があるわけでもなし、ただヒントをいくつか教えてあげた。
それにしても馬鹿げた話だよねえ。
自分たちが取り締まっている薬物(のうちいくつかのもの)を賢明に使えば、ヒーリング・セックスの術[わざ]なしでも、夫婦間のしこりがたちまちほどけ、「愛」が戻ってくるというのに。
危険な副作用もなく。
そのことを話したら、「ウーン」と考え込んでいたよ。
それにしても、この担当刑事、「覚醒剤も修行に適しているんじゃないか?」と言ってみたり、ヤクザから覚醒剤や大麻を買う方法を詳しく教えてくれたり、広島のヤクザに知り合いがたくさんいるから紹介してあげたいものだとか、大麻は1グラム5千円が相場とか、雑談中とはいえ、とんでもない話が次々出てくるんだが、大丈夫かね。
そういえば、先日、取り調べの合間に食べ物のことばかり話す刑事がいたと書いたが、あの人はどうも精神に異常をきたし始めているようだ。
目が濁ったようになっているし、子供の頃タコ焼きがいくらだったといった昔のことは驚くほどよく覚えているくせに、最近のことが思い出せない。それに人の話になどまったく耳を貸さず、同じような内容を繰り返し一方的に垂れ流し続ける。
取り調べの刑事にそのことを話したら、周りの者も薄々気づき始めているようで、「ヒーリング・アーツで治してやってくれ」などと勝手なことを言っていた。
担当官2人の体の状態を一目で観[み]抜き、「あなたはここが痛いでしょう。ここが疲れやすいでしょう」など、ズバリズバリ言い当ててやったら、「一目見ただけで、そんなことまでわかるのか」と驚くと共に、少々気味悪くなったようだ。
「治してくれ」と頼まれても、私との身体的接触は一切禁じられており、まあこういうのを「自分で自分の首を絞める」というんだろうね。
こうしたことは、単なる余興に過ぎない。
美佳、こんな調子で、私は日々楽しく遊んでいるよ。もちろん「お遊び」じゃない。命がけの真剣な、だが軽やかな「遊び」だ。
美佳へ、1万回の「愛してる」を、君へ。
一行
付記:
君へのメッセージを綴[つづ]り始めると、言葉が奔流[ほんりゅう]のように湧きあふれてくるので、それらを忠実に書き留めようとするとどうしても読みづらい文字となってしまう。すまない。
今、突然思い出したので書いておくが、この留置場へ来て以来、ずっと「153[ヒャクゴジュウサン]番」と呼ばれているよ。
ちょうど53歳になったところであり、覚えやすくてありがたい。
警察や検察での取り調べの際は、「高木さん」だ。
それにしても、実際に体験・見学してみて、司法の世界に蔓延[まんえん]する無駄の多さに一驚した。
これぞまさに税金の無駄使いというものだ。
さらに高所より達観[たっかん]して、<生命の対等>というヴィジョンに照らした場合、現行システムの合理性、合法性(この場合の法は、人間が作ったものではなく、生命の法を指す)はいかがなものか。
興味深いテーマではあるが、今の私にはそういう方面で、思索を深める余裕がない。
「赤い靴」だったか、それを履くと死ぬまで延々踊り続けるバレエシューズの物語があったが、あれと同じで、いったん書き始めると、それこそキリがない。
指がこわばって動かなくなっても、しばらく休んでまた動くようになると、再び執筆にのめり込んでしまう。
一体これは何ごとかと思う。
君も知っての通り、これは今に始まったことじゃない。
私が本格的に書き始めたのは、ヒーリング・ネットワークのウェブサイトを立ち上げて以来だろうか。
「私」が書いているんじゃない。
言葉が、自分の中から自然に湧き起こってくる。
何ものかが、せき立てるようにして、私に書かせている、そんな感じだ。
実に妙な話じゃないか。
私は執筆家を目指したことなど、1度もないというのに。
美佳へ、限りなき愛と敬いを、君へ。
一行
2013.10.09(断食 DAY16)
<夕方>
愛する美佳、
午前も午後も、取り調べはなかった。
本日も空腹感なし。
体力が徐々に落ちて、次第に息切れしやすくなっているが、しかし、先ほどちょっと龍宮道で動いてみたら、術[わざ]のキレ味は、これまでの人生で、今が最高と感じた。
頭もスッキリ明晰で、全身のクリアーさといったら、それこそ言葉では表わせないほどだ。
こうしたことが、私にとって大いなる歓びであることを、君はよく知っているね。
きっと君も一緒に喜んでくれると思う。
取り調べ中、私に関する資料一式をまとめた、膨大なファイルを見せられた。厚さ10センチ以上あったろうか。
ここにも大いなる皮肉を感ずる。
これまで、できるだけ多くの人たちと、私たちが真剣に探究してきた成果を分かち合いたいものと努力を重ねてきた。
が、ごく少数の共鳴者を除き、まともに取り合おうとする者は誰もいない。
私が命がけの断食を通じて得たヴィジョンである「ヒーリング・ネットワーク」という言葉を、「ヒーリングネットワーク」と勝手に変えるうっかり者までいる始末。
どれほどの思いが、祈りが、「・」ひとつに込められているか、感じ取ろうともせず。
いかに私の主張に共感を覚えようとも、それを深く研究し、分厚いファイルを作る人間など・・・1人もいなかった。
私を閉じ込め、滅ぼそうとする人間が、私について最も深く調べ上げている。
・・・とはいえ、その内容は、ごく表面的な、私にとってはどうでもいい、何の意味も成さない枝葉末節のことばかりだがね。
中~長期の断食中にしばしば体験する、自分が生きているのか、死んでいるのかわからない、あの奇妙な感覚が、最近時折起こるようになった。
それにしても、檻の中というのは、絶食修養には最適だよ。
いろいろ不自由、不便な点も、もちろん多々ありはする。
が、一室に閉じ込められ、何かをしたくともできないこの状況は、余計なことに一切わずらわされず、何ごとかに一心に打ち込めるという点において、素晴らしい。
執筆がスラスラ進むのも、もしかして檻のおかげかもしれない。
昔、私が神聖な目的で、慎重に実験、使用したことがあるハーブ、薬物(当時はすべて合法)は、精神の働きを弱め、依存を生み、人間性を破壊する危険なもの、ということになっている。
が、少なくとも私に関する限り、完全な間違いと断ずることができるね。
私は今、何らのハーブも薬物も、もちろんまったく使ってないわけだが、そうしたものへの渇望を全然感じない。つまり、中毒してない。
10数年前、集中的に使用したハーブ・薬物(向精神薬)により、私の意志力、精神力は弱まり、破壊されたのか・・・?
論ずるもバカバカしい。
意志の弱い人間がわずか1日だって断食なんかできるもんか!
頭の働きの衰えた、精神力の弱い人間に、ヒーリング・アーツを理路整然と説くことなど、できるはずがないじゃないか。
断食の期間が延びれば延びるほど、私の言葉の重みはますます増してゆく。
私の存在感は、さらに大きくなってゆく。
私が断食しているのは、何か結果を得ようとしてのことじゃない。
私が、宗教的と呼べるほどの敬虔[けいけん]な態度で、神・・・否、<聖なるもの>を探し求め、<聖なるもの>とコンタクトを図るため使用してきた、神聖にして大切なものを、後から追いかけてきて次から次へと抑圧、弾圧してゆく、権力者側の理不尽さ、横暴に対し、私は自らの命をかけ、断固、抗議している。
「国民をいつまでも子ども扱いすることを、やめよ!!」と。
家宅捜索後、猫たちが何日かおびえて落ち着きがなった、と弁護士から見せられた君の手紙で知り、少し心配している。
遠隔ヒーリングを毎日しているが、本当は直接診[み]て、ヒーリングしたいところだ。
ひどくおびえると肝臓に負荷がかかり、先になって寿命を縮めることがあるからね。
いわゆる「肝[きも]がつぶれる」というやつだ。
強いショックは、実際に肝をつぶす。これは猫に限らず、人間も同様だ。
表面的に元の状態へ戻ったからといって、油断せず、よくケアしてやってほしい。
君への遠隔ヒーリングも毎日続けているよ。
柔らかな愛を、君へ。
美佳、愛してる。
一行