Healing Discourse

ヒーリング随感2 第3回 連理の枝

 ヒーリング・アーツは、自発調律運動を重視する。
 自発調律運動とは、体が勝手に動いて思わぬ動作を演じる自働現象のうち、特に身体(及び精神)調整の役割を果たすものをいう。
 体が、これまでやったことがないような奇っ怪な動きをいろいろ行ない、終わってみたら気分爽快になっていた。
 手が自動的に体のあちこちを撫で、圧(お)し、擦(さす)り、叩き、揉むなどする。これもまた、実に快適だ。
 さらには、他人の体をも、あれこれ思ってもみないような方法で的確に調律し始める。
 ・・・そういった現象は確かに、ある。

 つい先日、東京で執り行なわれた相承会でも、自発調律運動について少し取り扱った。初参加の人たちから、「やってほしいと思うところを、次々とどんぴしゃでされてびっくりした」とか「これまでに体験したことがない、実に気持ちいいマッサージだった」などの感想・体験談が、いくつも届いている(施術側は療術の素人)。
 あたかも別の意志によって身体が動かされるかの如き状態へと、積極的に全身を委ねていく受動的メソッド。それを仮に名づけて、自発調律運動、略してSTM(Spontaneous Tunig Movement)という。注1)

 STMを呼び起こすための、いろんなやり方が様々な流派に伝わっている。各派開創の縁起(えにしの起こり)をたずねてみると、劇的STM体験が最初のきっかけとなっている事例が、圧倒的に多い。
 太霊道(注2)の霊子顕動法も、そうしたSTMの1つだ。私自身のSTM体験については、そのごく一端を『奇跡の手 ヒーリング・タッチ』に記しておいた。
 そもそも、ヒーリング・アーツとは、すべてSTMの産物なのだ。

 これまでの自動運動誘発法の問題点は、超意識運動と無意識運動の区別をどうやってつけるか、ということだった。いかにして無意識から超意識の方へと注意を振り向けるか、それが常に研究課題として残されていた。
 ある方式に従い、何らかの動きが表われたとして、それは自分で無意識的に行なっているものなのか、超時空的な感応の結果か、初心のうちは特に区別がつけがたいことが多い。
 また、最初は正真正銘のSTMでも、それを無意識がすぐ引き取って惰性の動きに変えてしまうことも、初学のうちは頻繁に起こる。
 あなたの、その動きは、パーソナル(個人的)か、それともユニヴァーサル(普遍的)か?
 始めに誤解し、「まあこんなものだろう」と自分を納得させてしまうと、もうそれしか目に入らなくなってしまう。「最初」は、本当に肝心だ。 

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 それでは、「連理修法」の入門術[わざ]の1つを、段階を追って、伝授していこう。

<フォーミュラ1>
 片脚を上げたままにする。

 立位から片脚立ちになり、それを30秒間継続する(30秒がどうしても無理なら、自分に合った時間をみつける)。
 クッキングタイマーを適宜活用すればよい。壁の時計をチラチラ気にしながらでは、注意を充分術[わざ]に集中できない。
 まずは、ここまでを各自なりのやり方で、左右、行なう。計1分に過ぎないが、慣れない者にはなかなかの重労働かもしれない。
 実践の前後に、全身を自由に舞わせる試験運動を必ず行ない、実験の効果(肯定的あるいは否定的変化、または変化なし)を確認すること。
 1分間実践してから、次へと読み進むように。
 ここから先は、上記のやり方で実際に体を動かした直後でなければ実感が湧かず、したがって修法体得の感動が薄れてしまう。「トリック」を知らない方がマジック・ショーを楽しめるのと一緒だ。

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 さて、どうか?
 片脚立ちになってしばらくすると、よろよろっと来て、手がヒラヒラ動いたり、上体が斜めになったり、あるいはぴょんぴょん体が跳び始めたり・・・してきただろう。動くまいと思っても、バランスを取るためにはどうしても動かざるを得ない。
「あなた」は必死になって、「バランスを取ろう」と頑張る。だんだん苦しくなってくる。つらい。あちこち痛い。まあ、毎日トレーニングすれば、もっと楽に立てるようにはなるだろうが。

 ・・・・そんなところだろうか?
 試しに、ちょっと舞ってみる。・・・アアッ、どうしたッ!?・・・・何の変化もない・・・どころか、最前より明らかに硬くギクシャクしている。かえって悪くなった。アンチ(反)ヒーリングが起こった・・・のではないか?
 笑い事じゃない。

 根本的なヒーリングが必要だ。救済がいる。
 <フォーミュラ1>は、自らの病的状態を自覚するための方便だ。
 認識を根本的に変えれば、ある行為の意味がまったく違うものとなってしまう。行為の結果(成果)も自ずから変わる。自己存在感(世界感覚)までシフトする。
 片脚立ちという、これ以上シンプルになりそうにないものが、いかに変わり得[う]るか、それを実際に示すのが、次の2番目の<フォーミュラ>だ。

<フォーミュラ2>
 その状態(片脚立ちで体が揺れたり、ジャンプしたりしている様)を、「バランスが崩れた」と思わず、逆に「(体が)バランスを取っているところだ」と、認識を切り替えてみよ。

 もし体がひと塊のものであれば、いったんぐらついたなら、後は倒壊あるのみだ。
 しかし、実際にはそうはならない。すでに実験した通りだ。
 ぐらつきと同時に、崩壊を波動的に解消しようとする動きが自然に起こり、バランスを保とうとしていたはずだ。
 ジャンプが起こったのは、着地時の衝撃を使い、体内のこわばりを破砕していたのだ。つまり、体をほぐしていた。
 そうした諸々の働きを、「バランスの崩れ」と誤って思い込み、(自分で)バランスを取ろうと力むことは、実は体の平衡維持機能と闘うことを意味する。

 自らを正そうとする自然の働きを、崩そうとする敵と早まって思い込み、一生懸命押さえつけようとしていた・・・・???
 ・・・おわかりになったろうか? わかったなら、これからは「邪魔しない」ことを心がける。
 それどころか、むしろ、協力するのだ。そのためには、邪魔(自分で何とかしようとすること)の方へとまず注意を振り向け、それをちょっと絞って(強調して)からオフにする。
 
 改めてもう1セット、片足それぞれ30秒ずつ、やってみるといい。
 まず、最初に軽く舞って運動の質を確認した後、直立し、片脚立ち。
 今度は、動くこと(バランスが崩れること)が即ちヒーリング運動なのだから、ずっと気が楽だろう。
 むしろ、どんどん動くに委せる。動きを止めようとしない。動きに委ねる。
 ただし、ひたすらレット・オフし続ける。レット・オフと動きを溶け合わせる。動中求静(動きのさ中に、何もしない感覚を求め続ける。この場合の静は、レット・オフと同義)。
 思わぬ動きが出てきたりするだろう。広い場所で行なえば、かなり激しい動きが顕われることもある。周りに障害物がなければ、倒れたって構わないのだ。自然に倒れる時は、不思議とどこも痛くなく、怪我もしないものだ。
 両脚とも行なったら、直ちにチェック運動に入る。
 ・・・・・・・全身が、前より統合していることがわかるだろう。より「しっかりした」感じ。
 つまり、よりバランスが取れている。

 このように、認知のモード(自分にとって、あるものごとが意味するもの・こと)をシフトさせるだけで、同じ運動がまったく異なるものとなる。これまでは特に何の意味も持たなかった「片脚で立つこと」が、ディープないやしのムーヴメントと化す。
 単に体がほぐれるだけじゃない(それだけでも大変な福音だが)。実際にやってみればわかるが、「バランス能力」が著しく増す。これは、バランス感覚そのものを鍛えるヒーリング・エクササイズなのだ。

 片足30秒ずつ、合わせて1分。
 実践前後に、軽く全身を舞わせてみて、自分の現在の調律度(滑らかさ、統一感、しなやかさ)をチェックする。そして、どれくらい変わったか、しっかり味わうようにする。
 ヒーリング・アーツ式で行なえば、体の実感、動きの体感が、たちどころに変わるのが確認できるはずだ。その変化が、私のいう「熟達」だ。1分前の自分よりも、より自由で、伸びやかで、流動的・循環的になっているのを感じるだろう。

 連理修法の基礎の1手(足)として、「エクペダン修法」と、これを名づける。
 連理とは、いうまでもなく「連理の枝」から来ている言葉だ。根を異にする2本の別々の木が、1本の枝を成して連なっている・・・・最も親密な夫婦・恋人たちのシンボル。そのような親密さをもって、2本の脚を統合していくシステムが連理修法だ。
 エクペダンとは、古代ギリシアやローマのディオニュソス(バッカス)密儀において、巫女や女信者たちが神を宿すため踊ったとされる片脚踊り。彼女らも、きっとSTMに身を任せていたのだろう。
 片脚立ちで静止し続けようとして、体を無意識的にホールドすることをやめ、むしろ体が動こうとするままに任せる。委ね切る(リラックスする)。すると、あれこれ「動き」が現われてくる。
 これは、STMを超意識的に引き出すまったく新しいやり方だ。そして、ここでもやはり、レット・オフが鍵となっている。

 これは結構運動量が多く、エネルギーもたくさん必要になる。「全身調律」とは、それだけの大仕事であるということだ。
 自宅の一室でもできるから、手軽に継続できるヒーリング・エクササイズともなる。

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 以上が、連理修法の入門となるエクペダン修法だ。
 これを種子として、連理修法という<道>が芽生え、各自の裡にて生命の聖樹として育ち展開していく。その実が、命の糧、マナだ。

<2010.05.07>

注1)STMについては、ディスコース『ヒーリング・アーツの世界』第4〜5回を参照。
注2)現在、『超越へのジャンプ 〜田中守平(太霊道)〜』でご紹介中。