Healing Discourse

ヒーリング随感2 第7回 「いきづまり」をほどく

◎繊細な粒子感覚を得たいなら、まず息をほどくことをお勧めする。
 息をほどくと、単に感性が細やかになるだけではない。「生きること」そのものの詰まりが、同時にほどけ始める。すると、人生の停滞も解消されていく。
 新しい道が拓けてくる。
 これは、私がおよそ30年かけ実践・確認してきた事実だ。

◎息をほどくためには、例えば以下のようにする。
 立ってやるのがよいだろう。まず可能な限り深く息を吸う。
 それから、腰や腹をゆさゆさ揺さぶる。縦や横、回転など、いろいろなやり方で。そうしながら、さらに息を吸っていく。

 何度か行なって確かめてほしい。
 これ以上は吸えないと思ったところから、腹に揺さぶりをかけると、期せずしてさらに息が入ってくる。そんな気がする、といったレベルの話ではなく、新たな息が驚くほど流れ込んでくるだろう。
 すると、当然ながら、大量に息を吐ける。
 たくさん吐けば、大きく、深く吸い込もうとする機縁が生まれる。自然に呼吸は深くなる。

◎今度は、呼気にも腹の揺さぶりを応用してみる。
 息を吐き切ったと思った、その地点から、腹を揺さぶり始める。
 再び驚くだろう。
 まだまだ吐ける。いくらでも吐ける。
 慣れてきたら、吸いにも吐きにも、揺さぶりをクロスオーバーする。まず静かにして吸い、吸い切ったところで揺さぶり始め、今度こそ本当に充分に吸い終わったと感じたなら、腰腹の動きを収め、また静かに吐き始める。吐き終わった段階で、揺さぶりながらの動的(ダイナミック)な呼息へと移行する。

◎数分も行なえば充分だ。終わった時には、活き活きした脈動が全身で息づいているのが実感できるだろう。血中の酸素濃度が高まった証だ。それをしっかり味わうといい。「それ」こそが、ヒーリングの醍醐味、マナ(命の糧)にほかならない。
 このエネルギーは、外側へと表現していく外的な修練と、瞑想的な内向訓練の両面で活用することができる。

◎こうやって深く呼吸するだけで、たちまち心身がリフレッシュされる。毎日の習慣にするといい。心身の健康が少しずつ増進し始める。決まった形式にしたがってウンウンやるばかりが呼吸法じゃない。
 ヒーリング・アーツには、呼吸に関する修法だけでも何手あるかわからないほどだが、方式よりも<体/心>造りの方が常に重視されている。深く呼吸できる体を錬っていきさえすれば、正しい方式(呼吸法)に自ずと合致するようになる。

◎以上は、実際にやってみた人は直ちに理会されたと思うが、息の詰まりをバラバラにほぐし、ほどいていく法だ。本当はもっと吸い、もっと吐くことができるのに、それを妨げているブロックを、腰腹を中心に全身あれこれ揺さぶることで、くだき、細分化していく。
 掌芯を中心として行なう手ほどきをクロスオーバーすれば、さらに細かいところまで息を通じさせることができる。やってみるとわかるが、手を振る角度によって、異なるブロックが揺さぶられ、それぞれ違う場所に息が出入りし始める。まんべんなく手をあらゆる方向へと振ることで(手ほどき)、肺にトータルに息が満ち、あるいは肺を最小にまで絞り切る体感が得られる。

◎「息詰まり」は「行き詰まり」に通じる。行き詰まると、人は息苦しさをしばしば感じるようになる。
 そんな時、外側に向かって何か手を打とうする前に、まず息の詰まり(ブロック)そのものを解消することを試してみるといい。
 1〜2分行なっただけで、体内の「風通し」がやたら良くなったと実感できるだろう(行気)。そういう時には、心もスースー流れるように軽やかなはずだ。
 物事が滞りなく進んでいく時、人はしばしばこうした呼吸の全身的流通感を感じるものだ。そして、私の経験によれば、息の詰まりをほどくことは、人生の詰まりを解消することに、直ちに結びつく。呼吸(息方)を変えることで、人生(生き方)を変えることが、実際にできる。
 
◎上記の基礎呼吸法を応用することで、潜在能力を急激に発することができる。
 各自の裡に秘められているのに、普段はそれがあることにさえ気づかない封印された力(余剰エネルギー)が、自然に出てくるようになる。
 最初は、何か重いもの(机など)を持ち上げようとしながら試してみると良い。

<フォーミュラ1>
 息を普通に吐き切り、その吐き切ったところから、まだ残っている息を、腰腹の間に全身で絞り込むように凝集して、一気に吐く。

 机を持ち上げ(ようとし)ながら、息を使う練修を何度か行なううちに、呼気を使って力を出すコツがわかってくるだろう。
 体に力を込める普通のやり方とはまったく違うシステムで、息が力に直接変換される。

 吸いでも、練修すると良い(吸いでは力は入れない)。
 吸い切ったところから、わずかに吐こうとして凝集する、その幽かな方向性をレット・オフ・・・と、直ちに、さらに吸えるだろう。
 吸いと吐きの幅が大きいほど、より多くのエネルギーが手に入る。

◎ヒーリング・エクササイズ(旧・肥田式強健術)でも、最大限に吸い、最大限に吐き切ることが大切だ。しかし、大抵の人は、吸いも吐きも中途半端なまま終わってしまっている。すると、大して効果が現われない。
 いずれかの型を1回行なっただけで、腹の底からカーッと熱くなってくる強健感が生じないとしたら、中途半端な息で行なっている証と見なして差し支えなかろう。
 特に、吐き切ることが重要だ。そうすれば、腰腹間の重心点に向かって、四方八方からヒーリング・バランス的(同時・均等)に、中心力と呼ばれる力が集約してくる。
 吐き切るためには、息の詰まりをあらかじめしっかりほどいておかねばならない。そのための具体的一方策が、冒頭の練修法だ。
 普通に吸い、吸い切ったところで身振り・手ほどき(するとさらに吸える)、充分吸い切ったら、普通に吐いていく。吐き切ったら身振り・手ほどき(さらに吐ける)。以上を、振り方・振る方向にいろいろ変化をつけつつ、自由に楽しく修する。
 これは、ヒーリング・アーツ式呼吸法の1手だ。

◎息が満身を充分流通するようになったら、左半身の呼吸と右半身の呼吸をそれぞれ別個に掘り下げ、各々に充分行き渡らせた上で、息を介して左右半身を統合する作業に入る。
 これは、ヒーリング・アーツでは「比翼修法」と呼ばれ、連理修法と対をなすシステムとなっている。
 具体的な修法は、片方の鼻孔(鼻の穴)を指でふさぎ、空いている鼻孔のみを使って息をする。その息は、鼻孔を使っている側の半身のみにもっぱら作用する。息が半身を満たし、半身から退(ひ)いてゆく、それを感じ、意識するように。片方の腕や手先だけ、足・脚だけに、息が通じる。すると、息を通じさせた側の体重が、反対側よりも少しずつ重くなってゆく。
 比翼修法の基本を会得した者は、左右の体重差をその場で直ちに変えることができる。2個の同じ体重計を並べ、左右の足でそれぞれに乗り、ただ呼吸に特殊な注意を向ける・・・だけで、右を重くしたり、左を重くしたり、自由自在だ。一息ごとにみるみる変わり、数キロの差を数回の呼吸で見事に整えることができる。
 先日、東京で執り行なわれた相承会でも、同じ体重計を2つ用意してもらって実際に示演した。別に特殊な能力ではなく、比翼修法のポイントを会得した者は、誰でも同じことができるようになる。
 そういう体得者の両手首をしっかり掴んでみると面白い。術者が、例えば右半身だけに息を通じさせる(比翼修法を練修すれば、そういうことが実際にできるようになる)・・・と、受け手の左半身(術者と向かい合っているサイド)だけに、スーッと柔らかな「流れ」が内的に生じ、満ちていく。
 体を左右真っ二つに分ける断面の片側だけが、活き活きと流体的になる。術者の状態が、鏡に映したように映ってくるのだ。
 これは、「息を合わせる」術[わざ]の一例だ。息の合い方には、いろんなヴァリアントがある。
 ヒーリング・アーツでは、瞬時に相手と「息を合わせて」しまう。慣れれば、多数とも同時に息を合わせることができる。
 
◎息の感覚を細やかにほどく補助修法を、最後に一手。

<フォーミュラ2>
 花の香りをゆっくり柔らかくかぎつつ、小鼻(鼻の穴の周りのふくらみ)をそっとつまむようにヒーリング・タッチした指を<凝集→レット・オフ(いったん強調するように凝集して、その強調しようとすることをオフにする)>。

 たちまち、香りの単位が細やかに、粒子的になる。
 これは、呼吸にもすぐ応用できる。
 息を吸いながら、あるいは吐きながら、小鼻を凝集→レット・オフ。
 すると、たちどころに息の感覚が非常に繊細になる。息が、粒子的になる。
 呼吸感が粒子的になれば、私たちのあらゆる営みは直ちに粒子性を帯びる。

<2010.05.19>