◎人の声には左右がある。
両耳を閉じ、片鼻を交互に押さえながらハミング。そして、裡なる音に耳を澄ませ聴き比べてみれば、直ちにわかる。
気合とは、まず第一に、左右の声を同時、均等、相照的に発し、共鳴させることだ。
その時、「爆発的」な波紋が生じる。ここでいう爆発とは、岡本太郎が教え示した芸術的爆発を指す。
◎体の右半身のみで声を発する間、左半身は休んでいる。その逆もしかり。左右同時もできる。周囲で聴く者は、術者が声を左右にスイッチしたり、両方同時にクロスオーバーするのがハッキリわかる。
◎肥田式強健術（注）で、加速度的に息を吐きつつ、「ウーッ」という気合を発する（口は閉じたまま）。それを、ウーッの音（声）を大きくしていくものと誤解して行なう人が多い。注意が必要だ。
そんなやり方では、却って体を壊す。肥田式修業に熱心に取り組んでいた某氏（肥田春充の子孫）は、中年にしてすでに満身これ病、仕事もできない状態だそうだ。
息の使い方を間違えて、強い鍛練を重ねると、そういうことに、しばしばなる。
強健術は、正しい道理に則って行なえば、生命力を一気に燃え上がらせ、高めることができる素晴らしい鍛練法だが、猪突猛進（盲信）的に「頭（マインド）」から突っ込んでいけば、病気・障害を自らしょい込むことになりかねない。
あんまり危険なので（安易に誤解・曲解して暴走・迷走する者が続出するため）、強健術の公開指導を私は現在一切行なっていない。
◎ヒーリング・アーツの術［わざ］は、生きて成長する。
そして、いろんな術の系統樹が、連理の枝よろしくあちこちで通じ合い、融合し合い、複雑な修法体系をネットワーク的に編み上げていく。
これまで、異なる系で捉えていた術・概念・発想が、互いに複雑にクロスオーバー（交乗）し合い、＜道＞が形成されていく。
◎老子や荘子のいうタオ（道）を、私たちが歩く道路のようなものと誤ってイメージしてしまうと、先人の真意を受け取り損ねてしまう。道の道とすべきは常の道にあらず。
◎相異なる2点AＢの中心、それはＡＢを共に超越する（AでもBでもない）。中心はまた、そこでABが出会い（AでもBでもある）、そこからABが別れるという意味において、ABの根源（祖）だ。
諸々の「中心」が、世界に充満している。
足の中心、声の中心、人体の中心、地球の中心、脳の中心、銀河の中心、素粒子の中心・・・。これら、宇宙を構成する全「中心」のトータル・ネットワーキングこそ、老荘のいわゆる道［タオ］だ。
私は、それを、自らの観神体験（1999年）に基づき、神明流［しんめいりゅう］と呼んでいる。
◎2点の中心に、超越のポイントが秘められている・・・。大切なことなので、もう少し詳しく述べてみよう。
右がなければ左は存在できない。その逆も同じだ。つまり、右と左とは互いに依存し合っている。１つのコインの裏表だ。同じ面が、コインの置き方により、表ともなり裏ともなる。
そうした相対性（無常性）を越える絶対への扉を、幾何学的に表現するとどうなるだろう？ つまり、右と左に満たされた世界で、右でもなく左でもなく、しかも右と左を産み出す根源を見出すためには、どこを探せばよいのか？
右と左がそこから相照的に、互いに振るえ合うように産み出され、右と左が共にそこへ還るように消えていく。その超越的絶対。右と左という対極が出会い、別れる場所。
それは、「中心」だ。超越へのジャンプゲート。
左右の中心は、右でもない。左でもない。その中心を境として、右と左が生じる（規定される）。中心から、右と左は産み出されている。
右と左の対立を、中心はもろともに丸ごと受け止め、呑み込む。こうした中心の働きを、「止揚」とか「超越」と呼ぶ。
だから、右と左の二元対立を越えるマジカルな超意識世界を探検したいと思ったら、右と左の中心に着目すればいい。
身体感覚においてそれをなすには、右の感覚と左の感覚を同時に、均等に意識する。これを、ヒーリング・アーツでは交乗［クロスオーバー］と呼ぶ。
◎1＋1↓1 それを大抵の人は、せっせとやっている。これは無意識へと導く悪魔の公式（フォーミュラ）だ。
1×1=1⇔０ これがヒーリング・バランスの基礎公式。2（相対性）なき1（絶対）は、空（0）に等しい。
・・・・何だって？ よくわからない？ まあ、無理して一気にわかろうとせず、ゆったり構えなさい。そのうち自然にわかるようになるだろうから。
◎物事が困難であることを「難い」というが（理会し難い、など）、この「かたい」は身体的な手応え・感触が、実際に「硬い」ことを示す。その「固さ」を強調して、レット・オフすれば、困難さえもほどくことがあなたにも可能となる。
体の硬さが消えるのと同様、（困難を感じていた）心も霞んで消えてしまう。死ぬ時も、こんな風になるんだろうと思う。というより、感じる。
◎いや、実際に死ぬ時は、こんな中途半端なもんじゃないはずだ。
何せ、全宇宙が本当に全部丸ごと崩壊する。それは「自分にとって」の全宇宙（主観的認知）ではもちろんあるのだが、しかし、死ぬのは「私」なのだから、私の全宇宙認知は、私にとって森羅万象（この世のありとあらゆるもの）と等価のはずだ。
しかり、あなたが死ぬ時、疑いようもなく全宇宙が、死ぬ。
死ぬ時は1人だなどと、誰が無責任な嘘をまき散らし始めたのだろう？
あの大嘘を、私も初め信じた。確かに正しいと思えたし、偉大な洞察に満ちた人であるOSHO（インドの神秘家）ですら、誰しも死ぬ時は1人きりと述べている。
あなたが死ぬ時、世界も死ぬ。
あなたが死ぬ時、あなたのすべてが死ぬ。
全宇宙が、あなたと共に、死のダンスを踊る。
全世界が、死の始めから終わりまで、ずっとあなたと一緒にいる。
あなたは独りじゃない。
あなたは決して、独りでは死なない。死ねない。
あなたが死ぬ時、過去も未来も、全宇宙のあらゆるものが、あなたの元に駆けつける。
あなたは決して、取り残されない。あなたのいない宇宙は、存在しない。
だから、死とは、最も盛大で賑やかなコズミック・ダンス。
あなたと一緒に、全宇宙が歓喜の踊りの裡へと、死んでいく。
なんて豪勢［ゴージャス］なんだ！
全宇宙葬！
楽し！！
＜2010.05.24＞
注）肥田春充（明治16年～昭和31年）によって編み出された独自の心身錬磨法。詳細は、拙著『鉄人を創る肥田式強健術』（学研）参照。なお、ヒーリング・ネットワークでは肥田春充の説明とはまったく異なる原理に基づき、独自のやり方で腰腹を錬磨するヒーリング・エクササイズを提唱している。