Healing Discourse

ヒーリング随感3 第1回 世界樹の元にて

[ ]内はルビ。

◎世界樹の元にて、私は永遠[とわ]の安息に憩いつつ、時間と空間を超え超越的に、こうしてあなた方に語りかけている。

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◎私は、まるで植木か観葉植物の世話をするみたいに、本ウェブサイト上に書き記した文章を定期的にチェックし、必要に応じ加筆修正したり削除したりしている。そういうことが、ウェブ上の文章では自在にできるが、それによって言葉の熟成・発酵が起こることを、私は発見した。書物という形態では容易に行なえないことだ。
 言葉の才能なき私にとり、こうした地道な作業は欠かせない。 現在、あれこれ言語実験を試みつつ、インターネットという新媒体を最大に活かすための新しい言葉使いを模索している。
 すでに読み終わったディスコースを、何かの折りに再読してみれば、おやっと思うような加筆を新たに発見するかもしれない。
 そういうマニアックな楽しみを、私は本ウェブサイトのあちこちに、宝探し的に隠してきた。
 現在の(今読んでいる)人も、未来の(先で読み始める)人も、各自それぞれ独自の楽しみ方ができるよう、私は常に意識して執筆している。

◎『ボルネオ巡礼:2009』の第1回を、新鮮な気持ちで丁寧に読み返し、説かれている修法を実践していた際のことだ。
 ふと、これを書いた当時の自分自身の状態や周囲の状況はいかなるものであったかと思いつき、外側の動きを統[す]べて留[とど]め、記憶バンクのやや深い層にアクセスしてみた。
 普段、過去を想起する(あれこれ思い起こす)習慣がないのだが、いったん真剣に取り組み始めるや、自分でもちょっと驚くほどリアルに、様々な体験の細部まで思い出すことができる。潜在意識の迷宮的構造をかき分け辿[たど]っていく感じだ。
 高校時代、自己流の記憶術で教科書を丸暗記する訓練を積んだり、20代の頃夢見の術(夢を詳細に思い出したり、夢の中で意識的に行動するトレーニング)を本格的に実践したことなどが、何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。

◎2年前と今と、根本的な「スジ」はずっと一貫しておりながらも、外面に現われた形態・活動のそのあまりの変化ぶりに、自ら一驚を覚えざるを得なかった。
 当時、ヒーリング・フォトグラフさえいまだ存在してなかった。そんな可能性があると想像してみたことさえなかった。それを思う時、「隔世[かくせい]の感」というやつが、妙にリアルに感じられて面白い。
 <撮影という営みをヒーリング化する>という絶大な啓示を私が得たのは、2010年度の第2次ボルネオ巡礼中、密林を割いて流れるキナバタンガン河を、ボートで遡航[そこう]している真っ最中だった。

◎2年前には、ヒーリング・アーティスト列伝1『通身是手眼』でとりあげた筋骨矯正術も、まだ「幻のわざ」だった。
 驚くべきことに、療術界情報の権威たるたにぐち書店・社長ですら、井上仲子の名をご存知なかった。
 今や、その幻のわざが、わが手の裡にある。
 そうなるまでに至る道筋も、今思い返せば、あらかじめ仕組まれていたとしか思えないような幸運に恵まれ続けた。
 まるで目にみえない意図(糸)に導かれるかのように、井上仲子が遺した筋骨矯正術の秘密の隠し場所へと、私は自然に導かれていった。
 そして、これまで一切表に現われることがなかった筋骨矯正術(の現存するすべて)を、伝承者より親しく学んだ。
 以身伝身・以心伝心にて。
 真剣・命がけで、取り組んだ。
 そして、至誠が天地に通じたか、失われた幻のヒーリング法をしかと我が手にすることができた。
 これは、奇跡的と呼んでもいいことなのかもしれない。

◎井上仲子の子・健一の施術を実際に受けたことがあるという人と直接会い、実際に体を動かしてわざを試しながら、詳しくお話を聴くこともできた。
 これらの収穫を元に、現在まで日々怠らず研鑽を積んできた。
 その結果、井上仲子のいわゆる「腹すじ」とはいかなるものであったか、その全体像が朧[おぼろ]げながら明らかとなってきた。
 これは、ヒーリング・ネットワーク独自の「腰腹相照原理」として昇華され、ヒーリング・アーツの核心をなす根本原理として、今、燦然と輝きを放っている。
 人の生命のあり方に関わるこうした重要情報を、特定団体や小グループ内のみで独占するつもりは一切ない。今後様々な形式・様態にて、広く複層的に分かち合っていきたいと祈念している。
 かつて、某会社重役がヒーリング・アーツを習って曰く、「企業でいえば高度な知的財産に相当するであろうものが、あのように次から次へと惜しげもなく公開伝授されることに、非常に驚いた」と。

◎ 療術の専門誌『手技療法』誌(たにぐち書店) に、筋骨矯正術を紹介する記事が連載されることになった。
 面白いと思った読者は、かなり多かったらしい。編集部が驚くほどの反響があったそうだ。
 連載2回目以降は、「使っていい文字数(ページ数)」が1.5倍以上になった。
 連載終了と同時に、『井上仲子』(仲子の1周忌を記念して造られた私家本。井上仲子と筋骨矯正術に関する唯一の詳しい貴重資料)の復刻が、たにぐち書店より刊行の運びとなった。原本はヒーリング・ネットワークが提供した。
 これで、より多くの人々(とりわけ療術に専門的な関心を寄せる人たち)が、井上仲子と筋骨矯正術について研究できるようになった。

◎井上仲子の物語を本ウェブサイトで発表し始めてから、『井上仲子』(井上仲子刀自記念刊行会)の復刻に至るまで、およそ1年。
 私は、井上仲子・健一親子にあまりに多くを負っていると感じるので(何せ、根本的身体観の確立と共に、すごい手わざまで得てしまった)、お2人の廉潔な精神に敬意を表し、上記の諸々の仕事[ワーク]を、すべて無償にて行なった。
 人類への貢献[ヒーリング]として。

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◎「ヒーリング」というキーワードにより貫かれ、ヒマラヤの祈りの連旗のごとくはためく折々の随感を、次回より、自由気ままに綴っていこう。
 刻々と機械化が進みつつある人類の、大いなるヒーリング(救済)を祈り求めつつ。

<2011.08.21 蒙霧升降(ふかききりまとう)>