Healing Discourse

ヒーリング・リフレクション1 第十一回 宮島巡礼

文:高木一行

◎宮島の弥山みせんでプチ巡礼を楽しんできた。
 ロープウェイを降り、山道を歩き始めてすぐ気づいたのは、不規則なでこぼこの連続を上り下りするようなことを、不当逮捕された2013年秋以来、今日まで、まったく、して・なかった、という事実だ。
 平らな場所を普通に歩く時とは、使われる筋肉が違うし、筋肉の使われ方も違うのである。
 最初、普段意識することさえないようなところに痛みや重さを感じ始めた。歩きながら龍宮道でそれらを調律してゆくと、今度はあちこちのこわばっていたところが、一歩ごとに揉まれ・ほぐされ・溶けて・・・ゆき始めたのはいいのだが、たちまちあまりにほぐれすぎてしまって全身グニャグニャとなり、体に力が入らなくなってきた。
 下山する頃には、煮込みすぎたうどんさながら、である。

◎体力が相当落ち込んでいるし、使ってなかった筋肉がかなり萎縮していることがよくわかった。
 まあ、無理もあるまい。刑務所の平日は朝、居室から敷地内にある作業工場へ移り、工場では椅子に腰掛けた態勢でほぼ終日を過ごす。夕刻、居室へ戻ったら、勝手に運動したりしてはならず、自分の場所(畳1枚分くらい)に、じっと座っていなければならない。土日祝日は、居室から出ることはできず、午前と午後、10分程度の室内運動の時間がある以外、じっと座り続ける。大きくのびをしたり、首を回したりしてはいけない(冗談を言っているのではない)。
 そんな生活を長年強いられるから、囚人は皆、足腰が弱くなる。秋に開かれる刑務所の運動会では、徒競走やリレーの走者が次々に転ぶのが恒例となっているが、囚人も看守もそれをみて面白がり、大いに盛り上がるのだ。何が一体面白いのか、4年間も刑務所にいたのに、私はついにわからずじまいだった。

◎そういう「体力のなさ」でも、龍宮道を使う際は、何のデメリットも感じない。私より体格も体力も遥かにまさる元気のいい連中を相手取り、結構ハードに長時間どすんバタンとやっても、まったく息が乱れないし、変な疲れも全然感じない。感じるのはただ、爽快感と楽しさ、充実感、神聖感、そして感謝のみだ。
 最近、何人かの高齢者に龍宮道を指導する機会があったのだが、皆さん、ちゃんとそれなりに波打っていて、<ヒーリング>を存分に味わい・楽しんでいらっしゃったようだ。ヒーリング・ムービー其之一にも記したが、脊柱管狭窄症で治療中という78歳の男性は、広島のセレブレーションで何度も投げられたり・倒されたり・転がされたり・床に叩きつけられたり、あんなことをいきなりされちゃって大丈夫なのかと心配になるほど、いろんなわざをかけられまくった結果、・・・本人いわく「症状がまったく改善した」、とのこと。
 龍宮道が真のヒーリング・マーシャルアーツであることが、よくおわかりだろう。
 逆に言えば、それくらいやって初めて解消するような頑固で根源的な凝り、歪みも、あるということだ。そんなものに対し、生ぬるいやり方でいくらほどこうとしても、ひどく効率が悪いのかもしれない。

◎ところで、宮島まで出かけ全身が煮込みすぎうどんになったおかげで、龍宮道のわざがたちまちバージョンアップされたからうれしい・有り難い。祝いである。祭である。
 前(昨日まで)のわざが、粗い・・と言うか、散発的、とすら感じられるほど、現在はさらに一層また、より細やかに、もっと繊細に、なっている。
 緻密、という言い方もできるかもしれない。と同時に、動きの枢軸たる腰の在り方がより一層精妙さを増し、「波紋度」、「水度」が、さらに高まったのを感じている。その水の密度を、流体的・動的に自在にコントロールする新たなマナ・スキルも獲得した。
 こんな風にわざがバージョンアップするとしたら、プチ巡礼といえどもその偉功大なり、と言わざるを得ない。
 今後、しゅっちゅうあちこちへ出かけて巡礼修業しまくろうと思う。龍宮道の場合、たった1日の修業であっても、直ちに具体的なわざの熟達という結果となって返ってくるのが楽しい。
 心身がより開かれるからだろう、瞑想も驚くほど深まる。

◎どういう態度で、我々が龍宮道をやっているか、いろんな動画を公開してきたから、何となく感じていただけていると思う。
 実際、皆ニコニコ微笑みながら、実に楽しげにやっている。時に、神妙不可思議なわざに驚嘆のまなこみはり、かと思えば<ヒーリング>のあまりの開放感に叫びがあふれ、あるいは感極まって皆で突然拍手し始めたり、我ながら毎度毎度、呪術的な光景だなあと思うのだが、呪術家が呪術をやって何が悪いと、これはもう開き直るしかあるまい。
 笑いながらやる楽しく気持ちいい呪武術、そういうのも、あっていいと思う。

◎呪術家を名乗り始めたことをきっかけとして、カルロス・カスタネダの呪術シリーズ(特に最初の4作)を、改めて呪術家の目で読み直し始めたところだ。生前のカスタネダ氏が主宰していた個人サークルに、私は一時期、属していたこともあって、本に書かれてない激レア情報などをゲットしていた。
 呪術という言葉に、迷信、盲信、非科学、時代遅れ、などの否定的イメージをついいだいてしまいがちという方々は、上述のカスタネダの著作を一読されるとよい。「呪術」に対する偏狭な既成概念が粉々に打ち砕かれ、爽快な読書体験を楽しめるはずだ。

◎宮島は、にぎにぎしい新緑の寿ことほぎに、全島が包まれていた。
 神の島のめでたい御神気を、プチスライドショーで分かち合いたい。

◎宮島に巡礼される折りがあったら、巡礼の締めくくりに、厳島神社出口にほど近い「ふじたや」で、宮島名物あなごめしに舌鼓を打たれんことを、是非お勧めする。宮島在住者が食べに行くあなごめし専門店。もう随分長いこと通っているが、いつ頃からある店なのかと思ってネットで調べてみたら、約120年前の創業だった。今はどうか知らないが、以前店で聴いた話では、その日の朝に宮島沖で獲れたアナゴだけを使うと言っていた。

あなごめし

帰神撮影:高木一行

宮島

こういう光景も、宮島では日常茶飯事である。 帰神撮影:高木一行

<2021.05.19 小満(しょうまん)>