文:高木一行
◎近所のスーパーで買ってきたドリアン(タイ産のモントーン種)が、大して期待してなかったのだがいい感じに追熟し始め、1個の皮に割れ目が入って、奥に秘め隠された黄色の果肉がちらと覗けるまでになった。少し早いかとも思ったが待ちきれず、魔界の果実みたいなとげだらけの皮を注意深く・手際よく開け、ぱあっとめでたい光を放ちながら剥き出しとなった無防備な果肉のかたまりを、ヒーリング・タッチでそっとつまみ口へと運んだ。
モントーン種としては果肉が少し白っぽい。が、充分濃密で複雑な味わいと、チーズのような濃厚な匂いとが、淫靡に、絡み・とろけ合いながら、全身を柔らかく満たす。
自分の瞳孔が開くのが、ハッキリわかった。・・・「まとも」と呼べるグレードの生ドリアンを日本で口にするのは、随分久しぶりな感じがする。
そうだった。美味しいドリアンを食べると、「幸せ」を感じるのだった。
◎マレーシアやタイに合宿などで人を連れて行った際には、ドリアンを3回試すよう、いつも勧めてきた。3度食べると、本当に好きになってやみつきになるか、もう二度と見たくないと思うか、2つに一つだ。
ところで、日本語で「棚からぼたもち」と言うところを、インドネシア語では「Dapat Durian rentuh. (落ちてきたドリアンを手に入れる)」と言う。
◎「ドリアンを食べることは新しい感覚であり、それを体験するためにだけでも東洋へ航海する価値がある。」・・・ダーウィンとほぼ同時期に、自然淘汰による進化論へと独自にたどり着いたアルフレッド・ラッセル・ウォレス(1823~1913)の言葉だ。私もまったく同意見だが、ウォレスが生きたのは帆船による航海がまだ一般的だった時代だ。
ウォレスのドリアン賛にしばし耳傾け、偉大な博物学者・探検家・生物地理学者へと思いを馳せよう。
「その濃厚さと風味は筆舌に尽くしがたいほどである。アーモンドで強く風味をつけてバターをたっぷり塗ったカスタードが、ドリアンの味の大体の感じを最も的確に表わしている。しかもそれに混じって、クリームチーズ、玉葱のソース、褐色のシェリー酒、その他の場違いな物を思い起こさせるふんわりとした香りがある。そして、他の果実と違って、果肉内はねばねばした口当たりの良さがあり、しかもそれがうま味に加わっているのだ。ドリアンは酸っぱくもなければ甘くもなく、汁が多くもない。しかしそれらの性質のどれか一つが不足していてもいけないのだ。それは、あるがままで完全なのだ。」(『マレー諸島』宮田彬:訳)
◎ドリアンについては、『ヒーリング随感2』第21回も参照のこと。
『ヒーリング・リフレクション1』第十回でご紹介したインドネシア(コモド島)巡礼の数ヶ月後、マレーシア領ボルネオのキナバタンガン河へ巡礼した際の報告記だが、この巡礼の最中、ヒーリング・フォトグラフ(帰神写真)の道が啓発的に示現したことを思うと感慨深いものがある。ご興味をお持ちになられた方は、『ヒーリング随感2』第18回~第22回を是非お楽しみいただきたい。私の初めてのスライドショー作品も収められている(発表当時よりも画面が大きくなった)。そこまで来ると、あなたも立派な龍宮道マニアの仲間入りだ。
◎出所後、オオトカゲのオットちゃんを庭で散歩させられないかと思いつき、ペットショップで犬猫用のハーネスと引き紐を買ってきた。犬や猫とは体形が根本的に違うのでぴったりとはいかないが、それを着けて人と一緒に散歩することはすぐ覚えた。
散歩中、突然地面を熱心に掘り返し始めることがあるのだが、やがて美味しそうにころころ太ったコガネムシの幼虫などが出てきて、たちまちオットちゃんのおやつになる。土の中の虫が、匂いでわかるのだろうか。
<2021.05.24 紅花栄(べにばなさかう)>