高度な精神性に裏打ちされたマンタ舞の動画を、もうひとつご紹介しよう。
かつて、沖縄の西表島にロングステイしていた時のこと。当時、いろいろお世話になった現地の友人たちの一人が、海で突いてきたばかりのブダイを今夜の酒のつまみ用にとさばきながら話してくれたのだが・・・(肝醤油でブダイ刺し身を食べるのが八重山流。酢味噌もよく合う)。
ある時、深いところへ潜っていって魚を突こうと身構えた、その瞬間、あたりが突然サーッと暗くなったのだという。驚いてみあげると、巨大なマンタが頭上にいるではないか。
「怖かったけど、必死に頑張って息をこらえたサァ。しっぽの猛毒にやられたら終わりだから・・・」と、怖い物知らずで島でも有名な巨漢が無邪気に語る内容を、「せっかくの武勇伝だけど、マンタには毒棘はないんだよね」と無下に否定し去るのもためらわれ、曖昧な態度で聞き流したものだが・・・。
第六章の帰神ムービーに登場したアカエイやマダラエイ、それから前章の帰神スライドショーでご紹介したマダラトビエイなどは、皆、毒棘を持っている。私が中学・高校生の時に自宅で飼っていたアマゾン産の淡水エイも、よくなれて水槽越しにいつも愛想を振りまき、手から直接食べ物を与えることができたが、やはり立派な毒棘を持っていた。そんな小さな個体であっても、経験者によれば刺されると数ヶ月~半年以上も猛烈な痛みが残るというから、エイ類全般に対する注意を怠ってはならない。
人になれていて足元にすり寄ってくるような個体でも、こちらがバランスを崩して体を踏んづけたりしたら、反射的に尾で攻撃してくるかもしれない。凶暴なワニや毒蛇との格闘で知られたオーストラリアの「クロコダイル・ハンター」ことスティーヴ・アーウィン氏も、海でテレビ番組を撮影中、偶発的にエイの毒針攻撃を心臓に受け、命を落としている。
エイのことを英語でスティングレイというが、スティングは刺すという意味だ。毒針を潔く捨て去ったマンタは、エイの中の例外的存在であり、そういう在り方そのものが非暴力的といえるわけだが、これまで述べてきた通り、確かにそうなのだ。
シュノーケラーの足ヒレがぶつかったりすれば、普通の魚であれば驚いてたちまち逃げ去ってしまうところを、泰然としてまるで何事もなかったかのように受け流してしまう、その大人ぶりが実に堂に入っていて、観ていると清々しいほどだ。本当に「平和的」な生き物なのだと感じ入るしかない。
人間の主観を自然界に投影しているだけかもしれないが、全員揃って大きく口を開け・舞う様子などは、まるで生命の讃歌を祈りに満ちて合唱しているみたいに観えてくる。
フルハイビジョン画質 02分40秒
すでにあれこれ充分に述べてきたことだし、本章ではこれ以上の饒舌を控え、ムービーや写真、スライドショーをして、それ自身に語らしめたいと思う。
本スライドショーをもって、マンタの帰神フォトは最後となる。あらかじめ予告しておいた通り、「マンタに囲まれ、マンタにまみれ、マンタと一緒に祝祭を楽しみ、マンタと共に祈る」ということがいかなるものなのか、その超絶的とも言える体験を・・・あなたもきっと、今や、我が身の裡に実感しているに違いない。
帰神スライドショーを観照するうち、マンタらが自分たちだけの狭い枠組の中だけで行動しているわけでは決してないのだとわかってくるだろう。水面にいっぱい浮かんでいて時折潜ってきたりもする不器用な連中(私たち人間)のことも明らかに意識しながら、高度なパフォーマンスを「演じている(みせている)」・・そのことが、体でわかる・感じられる。
帰神撮影中、時折雨が激しく降ることがあったが、それが却って幸いして、生命感、エネルギー感がこれまで以上に強くこもった作品がたくさん撮れた。
Take off now. 共に・・・翔び立とう。
<2022.11.18 金盞香(きんせんかさく)>