Healing Discourse

ヒーリング・アーティスト列伝 第2章 超越へのジャンプ 〜田中守平(太霊道)〜 第10回 霊子術の偉功 後編

 医師・朝倉松四郎は、守平が直接指導する太霊道講授会に参列した。
 その頃朝倉は、病後で著しく衰弱しており、腰や外陰部の湿疹、大腸カタル様の排便など体調も思わしくなく、一時は苦痛に耐えかねるほどであったという。
 それが、講授会で会得した霊子術を日々励行した結果、日を追って治癒すると同時に、血色紅潮し、毛髪密生し、かつ黒色を呈し、大いに肥え太ってきて(当時は太っていることが健康の証しとみなされていた)、元気旺盛となることができた。
「まさに主元院下(太霊道における守平の尊称)の賜物と毎日感謝に堪えず」と、朝倉は太霊道の機関誌『太霊道』創刊号(大正6年11月1日発刊)に寄せた体験談中で、いやしの感・動を述べている。

 朝倉はさらに重ねて記す。
「しかして霊子作用の効果は単に自己のみならず、他の患者に応用するに、実に鴻大[こうだい]顕著なるものあり。特に予は自ら医業を営みおるが故に、直ちに種々の疾患に応用するに、その効果まことに著しく、おおむね全治または軽快す。
 ことに施術中、患者の多くは、一種霊妙の気に包まれて自ずから爽快を感じ、ある一人のごときは毎日帰宅せんとして拙邸を出ずるや、あたかも後ろに引かるるがごとき感をなし、翌日重ねて来たり、施術を受くるを無上の楽しみとなせるあり。
 これらは、畢竟[ひっきょう=つまるところ]疾患そのものが自然的に霊子の作用を要求するためなるにはあらざるかと考えられる」と。

 朝倉は、霊子潜動作用(後の回で詳述予定)についても、面白い報告を記している。
「・・せんべい様[よう]の菓子に潜動を伝え、これを小児ならびに大人等に割破して食するよう命じたるところ、誰一人としてよくこれを割破する者なく、ことに小児らはこれを割らんとする時、手指に蟻走感覚を起こし、いかんともする能わず、困却するの状[さま]は実に不可思議の現象とするほかなし」

 朝倉がこの体験報告中で列記している「最近のヒーリング実例」の中から、いくつかかいつまんでご紹介しよう。

●慢性子宮内膜炎、常習頭痛 青山しん(44歳)
 この患者は15年以前、産後の肥立ち悪しく、子宮内膜炎を起こし、それより常習頭痛を併発し、いかなる日といえども1日として気分よろしき時なき者なりしが、施術1回にして頭痛軽快し、3回にて全快したり。

●慢性左肋膜、肺炎症 林田源二郎(53歳)
 この患者は、2ヶ月前より発病、咳嗽[がいそう]・食欲不振・発熱・局所疼痛ありて、9月4日突然急性発作を起こし、発熱烈しく、左胸・左肩の疼痛甚だしく、横臥するあたわず。血痰を起こし、その他の症状も険悪に、予の診を受く。
 その時、患者に秘密に、局所にわずか2、3分間、霊子作用の押法を行い、帰宅し、翌日同時刻に往診せしに、患者は大いに軽快なるを訴え、かつ患者の言うに、「実に不思議なるは、昨日ご帰宅後直ちに気分よろしく相成[あいな]り、痛み軽快してやや横臥するも苦痛を耐え得るに至れり。貴君はあたかも神のごとし」と。
 その後、4回の施術によって全快し、職業をとるに至れり。発熱は初診の際38度5分なりしが、翌日平熱となりしには、予もその効果顕著なるに驚きたり。

●萎縮腎・心臓、肝臓肥大、膀胱カタル、慢性胃腸カタル、脳血管のトロンブスによる軽症半身麻痺 石井安吉(45歳)
 この患者ははなはだもって難物にて、大学病院その他の病院を経て来たれる者なり。元来、この患者は相撲取りにて壮年の節、身体を粗末にし不摂生をいたせし者なれば、疾患もその頃より発病せしものならん。
 歩行は半身麻痺のため不能、言語も大いに渋滞、心悸亢進し、呼吸促迫し、1日1、2回の痛みを伴う下痢あり。尿は混濁し血色悪しく、患部に非常の苦痛を訴え、診察するには横臥する能[あた]わず、横になれば直ちに呼吸困難を起こすという状態にありしが、霊子施術を間隔を置きて前後8回行いしに、大いに軽快に向かい、言語の渋滞、歩行の不能は5回にして軽快し、今なお治療しつつあり。
 初診の時の苦痛滅却し、血色も大いに紅を潮するに至れり。

●歯根膜炎、咽頭炎 松村金之助(48歳)
 この患者は、歯科医に4、5日治療を受けおりし者にして、歯科医も咽頭炎には少しく困り、予に依頼したり。
 さて、霊子作用を施すに、施術2回より歯根膜炎、咽頭炎共に全快し、患者はその効果の偉大なるに驚き、それよりは他の患者を拙邸へ向け、施術を依頼し来たるに至れるものなり。

●慢性子宮内膜炎・便秘症 松村きり(41歳)
 この患者は、数年以前より発病し、平素子宮白帯下[はくたいげ:白のおりもの)甚だしく、時々疼痛す。ことに月経時前後はもっとも甚だしく、平素気分悪しく、かつ便秘に苦しみ、3、4日ないし4、5日便通なく、下剤によって便通を取るものなり。
 施術2回にて、気分よろしく、便通あり。4回にして、疼痛・白帯下減少し、6回にて全治す。

●頭部脂肪瘤 綾井金太郎(43歳)
 この腫瘤は10年以前より発生し、初診の時は小茶碗大なり。患者の言によれば、炎症を起こし、その節は最も苦痛に耐えかねたりという。
 施術10回にして、その半容となり、20回にしてその3分の1となる。目下、その3分の1を施術中なり。

●慢性腸カタル 福島藤吉(43歳)
 この患者は、数年以前より発病し、平素2、3回の下痢便あり。また、食物により直ちに下痢・疼痛を起こし、血色も初診の時は最も悪し。
 施術4回にて疼痛・下痢便軽快し、8回にて全快。面色大いに佳良となり、かつ肉付きよろしくなりたり。

●痙攣症 飯田諦吉(4歳)
 この患者は、昨年11月より突然痙攣症を起こし、多き時は1日7、8回少なきも1日4、5回発作し、非常に精神亢進せしも、施術1回にして、1日2回となる。
 3回施術によって、大いに良結果を来たししところ、親類のために障害せられ、その後中止す。

●不正発熱・脚気症 細野幸四郎(45歳)
 この患者は、1ヶ月以前より発熱し、ある医師に治療を受けたるもその熱の何たるかを知る能わず。困却せしものにして、予が初診の節は、全身ことに下肢に浮腫あり。かつ上下肢に麻痺を呈し、歩行少しく不利。昼は無熱なれども、午後4時より午後8時頃最も高く、38度5分ないし39度、早朝6時頃まで発熱、また盗汗あり。その状、あたかも結核性の発熱のごとし。ただし、肺部ならびに一般を診察するに、少しも結核の症状なし。
 施術2回にして、長時日患者及び医師を苦しめたる熱、とみに消滅せるには、患者の喜びはもっとも甚だしく、予もまたその奇妙なるに驚きたり。その後、施術4回にして、歩行の不利全快し、今さかんに活動せり。

●産後脚気病 足立かず(37歳)
 この患者、4月下旬分娩し、のち1週日にて脚気病を起こし、2、3の医師に治療を受けたるも歩行ますます困難となれり。
 往診施術1回にして、3日の後、拙宅へ歩行し来たる。町数はやや4町のところなり(1町は約100メートル)。その後、3日目ごとに施術し、4回にして自己一人にて歩行するに至れり。

●慢性腸カタル、慢性子宮内膜炎、脱肛症 松井かつ(39歳)
 この患者は4、5年以前よりの発病にして、1日4、5回の下痢便あり。ことに食物不良なれば直ちに下痢す。また白帯下甚だしく疼痛発作あり。これは平素の状態なり。
 初診の時は、面色蒼白、高度の衰弱を呈し、栄養もっとも不良、下痢1日6、7回ないし7、8回。夜間も3回は下痢すという。下腹左方に腫瘤ありて、時々疼痛す。ことに歩行時には最も甚だし。肛門は脱肛し、平素粘液様の稀液流出す。ために脱脂綿を厚く当て、布にて包帯す。また、歩行の節は脱肛の疼痛最も苦痛なりという。下腹部の腫瘤は、子宮の腫瘤なり。
 施術2回にして、下痢、疼痛は大いに滅却す。3回にて歩行時の疼痛まったく止まり、肛門疼痛は1回の施術にて止まり、粘液の流出は始め濃厚となり、翌日はまったく止まり、脱肛は3回にして縮小し、歩行するも障害なく、ほとんど平素のごとくなれり。5回にてすべての症状忘るるがごとく、面色紅潮し、元気旺盛し、6町ほどの自宅より往復歩行するに至れり。
 皮膚の光沢良く、肉つき、足は夜間冷却して苦しみたる者がわずか3回の施術によって温暖を感ず。予もかくのごとき重症者がわずかに5回にて全快したるは、案外にして真に驚きたり。

●リュウマチ症 久松とよ(25歳)
 この者、慢性リュウマチ症の急性発作にして、大腿筋及び腰部の筋肉の激痛なり。初診の時は側臥のままにして脚を縮むることもできず、非常の困難なり。
 施術1回にて翌日往診せしに、起立して家事の用を営みおりたるには、予も大いに驚き、患者は実に喜びおれり。その後1回施術したるのみにて全治せり。

●妊娠つわり 宮内せん(26歳)
 この患者は、4月下旬、妊娠2ヶ月にて悪性のつわりを起こし、飲食物を始め、漿液、水液、何も胃にとどまること能わず。飲食すれば直ちに吐出し、大衰弱を呈し、2、3の医師に治療を受くるも治せず、拙宅に参りし者。
 施術3回にて嘔吐止まり、飲食をとるに至る。しかるに、患者は嘔吐やみ、飲食をとるも障害なきため、かえって食物をとりすぎ、それがため再び吐出するに至れるが、施術5回にてまったく健康状態に相成れり。この患者は、一時は一命危うきまでに衰弱せるも、わずか5回にして全治したるに、驚きたるものというべし。目下健全、数日前に拙邸へ来訪されたり。

●妊娠脚気病 竹林ふく(17歳)
 この患者は、重症の脚気症にて、歩行はまったく不能。自己の帯を締めることもできず、上肢下肢とも麻痺せり。
 施術3回にて歩行その他軽快す。予は、分娩時はいかなる困難を起こすかと思い、妊娠9ヶ月なれども、腹部に最も施術を行いしに、9ヶ月の末期において、実に予想外なる安産にて、親子ともに健全なりしに、家族の者はその奇なるに驚きたり。
 この患者は、出産を非常に心配せしゆえ、前々にこの術を行う時は必ず安産をするなりと申し置きし。
 このことは、予も実に初めてのことなれば、術の効果に驚き、今後は難産の癖ある者には必ずこの術を8、9ヶ月の頃より施術すれば、母子とも健全なるを期すべきものと思う。

●重症脚気病 酒井周五郎(61歳)
 この患者も初診時は歩行まったく不能なりしが、施術5回にして、杖を持たずして歩行するに至る。

●重症脚気病 望月武夫(20歳)
 この患者はもっとも重症にて、横臥せしのみ。寝返りもできず、大小便は人の手によるほどなりしが、施術3日目ごとに3回行いしに、自己にて大小便を便器により行い得るに至り、前後10回にて、2階の昇降可能、15回にて市街を歩行するに至れり。

 ・・・・まだまだいっぱいあるのだが、キリがないのでこのくらいに留めておく。
 朝倉は、その後も月刊『太霊道』誌に治病実績を幾度か投稿している。その中に、ちょっと変わったほほ笑ましい(だが不思議な)エピソードをみつけたので、最後にご紹介しておこう。

 ある朝、朝倉邸の庭で「チキンチキンと」声がする。みると、アオジという小鳥だったが、下のくちばしがだらりと垂れ下がって、口が開きっぱなしとなっていた。
 餌をまいて与えたところ、近くにきて食べようとはするのだが、少しも摂取できない。
 とらえてよく調べてみると、下嘴が根元で破れ、口を開閉できなくなっていた。
「こうした野放しの渡り鳥は、その性として人の姿を見ればたちまち逃げ去るべきはずなるに、容易にとらえ得たることは何とも不思議に堪えぬところであります」と、朝倉は述べている。
 直ちに霊子療法を行ない、カゴの中へ入れておいて、それから数回にわたり施術した。
 正午頃になると、しきりにカゴから出ようとするので、放してやると、別に逃げる様子もなく、あちこち歩き回っている。そこで餌を与えてみると、朝とは違い、不充分ながらもくちばしでつつき、どうやら食べることができた。
 なお施術して夕刻に至ると、よほど調子よく餌をついばむようになった。

「ことに不思議なるは、カゴからその鳥を出して、座敷・庭園どこでも自由に飛び回れるようにしてあるので、飛び去ろうとすれば飛び去れまするに、いずれにも逃げ去ることなく、患部を検診するもあえて嫌いもせず、なすがままになっております。
 また、家人の足元にからみつき、後を追う様は、あたかも飼い猫の人を慕うがごとくであります」

 翌日は、患部も非常に快癒し、餌を摂取するのにまったく差し支えないまでになった。
 この日も、昨日のごとく屋敷を飛び歩き、家人の行く後を追い、診察室、玄関または台所等を飛び回る様子は、まことに愛らしい限りだった。時として、朝倉や子供の膝の上に乗るかと思えば、餌をとり、満腹となれば部屋の隅に行って熟睡していた。

 午後4時頃、今まで部屋の片隅で眠っていたアオジが起き出してきて、診察室より玄関に至り、さらにしばらくの間子供たちと遊び戯れていたが、突然声高に3度鳴くと、庭に飛び出し、そのまま南方の塀を越えて飛び去った。
 帰りを待ったが、二度と戻らなかったそうだ。
 こうした動物の不思議な治癒例も、『太霊道』誌にはいくつか報告されている。

 田中守平の術[わざ]を実際にみたことがある人から伺った話だが、亀の背中に火のついたロウソクを立てて地面に置き、それに向かって守平が念を凝らすと、右といえば右、左といえば左など、亀を意のままに従わせることができたという。

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 太霊道霊子術の基本は、これまで何度も述べてきた通り、霊子顕動法だ。
 これを、守平みたいに、とまではすぐにはいかないだろうが、できるかぎり折り目正しく、節目節目を明らかに、節度正しく、・・つまり常に姿勢(全身のバランス関係)を調えつつ、実行しなければならない。
 バランスを取るための人類普遍のクライテリア(基準)として、ヒーリング・ネットワークでは腰腹相照[ようふく・そうしょう]なる原理を提唱している。
 それに基づき霊子顕動法を執り行なえば——「執り行なう」という気持ちで、私はそれを実践・研究する。偉大な先達の御霊[みたま]と超時空的に共振しつつ——同じ修法の効果が、極めて短時間で数段階以上バージョンアップする。
 姿勢を正すことが、人間の行為にどれだけの好影響をもたらすものか、よくわかるだろう。
 腰腹相照原理とは、要するに、「腹すじ」「腰すじ」「背すじ」「首すじ」の解剖学的定義と相互の関係について述べたものだ。日本古来の丹田思想と術[わざ]の流脈を内外両面より——内とは心身の裡なる霊的寺院、外は既成の御流儀——汲むものであり、新しい時代のグローバル(汎地球的)な道(学&術)として、インターネットを介し超時空的に唱道し始めたところだ。

 その効果を一言で述べるなら、「心身共にトータルになれる」ということに尽きようか。何をするのでも、どういう風に生きるのでも、何を考えるのでも、何を信じるのでも、その「行ない」「生き」「考え」「信じ」「感じ」「怒り」「喜ぶ」ことが、鮮烈に・瑞々しく・美しく、そして楽に、なる。
 生きているという実感が、全身のあらゆるところで全面的に感じられる。いわゆる生き甲斐。生きる楽しさ。
 この感覚が人生からかけ落ちてくると、人は生[せい]を空疎と感じ始める。
 腰腹相照原理については、今後、稿を改め細密に説く予定だが、概要を『ヒーリング随感2(第16〜23回)』に記しておいたから、興味のある方はそちらもどうぞ。

 次回からは、当時の資料を元に、太霊道講授会の内容と実際の模様を、可能な限り詳細に再現・解説していく。

<2011.08.23 処暑(暑さ退かんとす)>