Healing Discourse

ヒーリング随感 [第20回] 言の葉(ことのは)

◎第11回で述べた尻の意識化について、幾人もの人たちから報告が来ている。特に、大臀筋停止部の意識化に感・動した人が多かったようだ。
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 <報告1(抜粋・以下同)>
 いつもながら驚くのは、尻の大きさです。なぜここまで自分の尻を小さいと思い込んでいるのか、不思議に思えてくるほど大きく、広い範囲で存在しています。そしてその位置も、自分が思っているよりもずっと下であり、以前ディスコースで尻の意識化について学んで以来、これまで何度も何度も触れ合ってきたにも関わらず、その仮想の酷さに呆れるばかりです。
 先生からご指摘いただきましたように、大臀筋の停止部までとしっかり触れ合い、あるいは尻の筋肉をつまんで停止部まで辿りつつ、尻全体を意識化してみると、今まで上に持ち上がっていた重心がスッと下がり、腹と腰の間に自然に収まりました。
 これまで大臀筋の、大腿骨まで繋がっている停止部はまったく意識できておらず、停止部を含めた全体を意識することで、全身のバランス感覚がまったく変わってしまいました。身体だけでなく精神も落ち着き、頭や胸も自ずとスッキリとしてきて、こうなって初めて自分が「浮ついていた」ことが認識されました。尻を意識しつつ歩いてみると、多少のことでは転びそうになく、「たとえ転んでも大丈夫だ」と思えるような頼もしさすら感じられました。
 仕事で重いものを持ち上げることがよくありますが、尻全体を意識しつつ行なうと、力がまとまって分散せず、とても楽に、そして効率よく持ち上げることができます。しかも動きは落ち着いているにも関わらず軽快であり、これまでに感じたことのない感覚を楽しんでいます。
 日常の中で、できるだけ大臀筋を意識するようにしていると、これまでの自分のあり方が、あまりにも軽く、フラついていたのではないかと自問せざるを得ませんでした。過去のことを思い起こせば、思い当たることがたくさんあり、これからしっかり取り組んでいかなければいけないと思います。<M.K. 男性・岡山県>

<報告2>
 立位で腰を落として、重心の落ち具合を確認しました。その状態で尻とヒーリング・タッチで触れ合っていくとそれだけでも尻の意識が覚醒し、姿勢が安定してくるのが実感されました。しかし、これまで様々な機会に大臀筋の意識化には取り組んできましたが、その停止部までしっかり触れ合っていくと、「まさかここまで」というほど大臀筋が下方へと伸びていることがわかり、まったく尻の一部しか意識していなかったことに気づかされました。あいまいな部分もあったので解剖図でも大臀筋の構造を確認しましたが、大腿骨のかなり下側まで縦に伸びており、またそれを触覚的に認識することで、みるみる姿勢が変化してきました。
 これまでの尻の感覚から、正しく停止部までを意識化した状態にシフトした瞬間、突然何か底が抜けたようにガクッと劇的に重心が落ちていき「なんだこれは!」と驚きました。体感として拳一つ分程は重心が下がったように思われました。
 様々な動作において試みると、これまでと比べ、身体の中にあった「ひっかかり」がとれたかのように自然で滑らかな動きとなっていることを実感し、精神的にもせかせかしていたのが悠然としてきて、落ち着くべきところに落ち着いた、という感覚に満たされていきました。<R.S. 男性・神奈川県>
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 母親が脳内出血で倒れ半身不随になったという人からも、細かい報告と感謝状が寄せられている。当初は足指をわずかに動かすことさえできず、医師から「元に戻ることはない。杖をついて自力で何とか歩けるようになることが目標」と言われたそうだ。が、ヒーリング・アーツ仲間の協力・助力を仰ぎつつ、熱鍼法やヒーリング・タッチを励行した結果、通常の半分以下の期間で家事ができるまでに回復し、今やほぼ完治に近づきつつあるそうだ。

◎たまふりを招くやり方はいろいろある。
 視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、それぞれの感覚/意識(神経)を通じて、各々まったく独自のたまふりを招来することができる。
 例えば、こうして執筆する手をちょっと休めて、合掌→かしわ手→片手の親指をくわえ吸いながら→口の中に陰圧を造り→それを徐々に咽喉へと拡げていく。咽喉の裡を、上から下へと順に感じて、その存在感をつなげていく(裡なる咽喉の存在感を顕わす)。時に、ヒーリング・タッチで外からもサポート。
 こうしておいて、何かを呑み込むような動きを起こす。口中に唾液を溜め、それを実際に呑むのもよい。ただし、ゆっくり、やわらかく、粒子状に。転(まろ)ばしやかに。
 ヒーリング・アーツとは、身体/精神の基盤(存在感)を流体的に感じ、使う道だ。

◎あなたがもし真に口、咽喉の裡(形)を感じているのなら、「言(こと)の葉」とか「言霊(ことだま)」という古語の意味を生理的に理会できるだろう。
 私たちが嚥下するたびごとに、口から球状の波紋が放たれて咽喉から体内へと送り込まれていく。これだけでもかなりの面白さだが、それをしっかり呑み込んでおいて、その呑むことを<強調→レット・オフ>すると、さらにびっくりすることが起こる。
 腹底から球が浮き上がってきて口の中で弾け、空中で無数の粒子が響き振るえる(アやイなど適当に音を選び、自然に発声するといい)。
 これが言の葉だ。生い茂る葉叢(はむら)のように、空間が粒子的に振るえる。言葉のエッセンス(霊)。
 
◎肥田式強健術の胸式呼吸法では、胸一杯に息を吸った上で、さらに頬を膨らませて口中に息を含み、呑み込む。
 これをやろうとして、「頬」を膨らませるつもりで、「口のまわり」をプーッとやっている人が多い。
 本物の頬の内側を感じるためには、親指を吸いながら何かをゆっくり呑み込むようにするとよい。頬が内面から感じられるようになってくる。そこに息を溜めて膨らませるとどうなるか? 
 最初はあまり大きく膨らまないだろう。それで充分だ。レット・オフすれば、深海から浮上してくる泡のように、内向波紋がみるみる大きく膨れ上がりながら胸郭を満たす。これが「息を呑む」ということだ(腹に呑むやり方もある)。
 肋骨全体がこういう風に全面的に拡がり、(呼気に伴い)縮むことによって、初めてハートが開かれる。心が広々としてくる。胸が開く際には、両乳首を結んだ体表面上の線が伸びる。
 乳首の向きも重要だ。それが真っ直ぐ前を向いている(直立時)と仮想していると、ハートの自然な開放が著しく妨げられる。
 私が何を言っているのかわからずポカンとしている人は、自分や人の乳首をよく観察してみることだ。外側斜め前を向いているはずだ。乳首とヒーリング・タッチしつつ、そのあるがままの向きに「乳首の向き」という意識を合致させていくといい。・・・胸郭の拡張・収縮の幅が、一気に拡大する。これまであなたの胸郭は、乳首のところでねじられ歪められていたのだ。

<2009.03.03>