私はセルフ・ケアの一環として、日々「熱鍼法(ねっしんほう)」を励行しています。これは平田内蔵吉(ひらたくらきち:1901~1945)によって創始されたヒーリング法ですが、熱鍼器(ねっしんき)という特別な器具を使って皮膚表面にリズミカルな刺激をあたえることで、全身どこでも好きなところを調整し、活性化していくことができます。鍼と灸の優れた効果を同時に得ることができる、21世紀の健康法といえるでしょう。
「鍼と灸の効果をクロスオーバー」と聞いただけで、熱くて痛いのではないかと拒絶反応を起こす人が時々います。しかし、熱鍼器は温度を自由に調整できるので、気持ちよく感じられる範囲内で行なえば、灸のように熱さに耐える苦しみもないし、半永久的に痕が残ることもありません。コテの先端をそっと皮膚面と触れあわせるだけだから、皮膚に傷もつきません。また鍼灸には専門的な知識や技術、そして資格が必要ですが、熱鍼法は誰でもすぐに習得して初日から実践しはじめることができます。シンプルですが、底知れぬ奥深さを秘めたヒーリング法です。
熱鍼法は自分自身に行なうこともできますが、ペアで交互に施術しあうのも楽しいものです。
熱鍼法のフィーリングは身体各部によってさまざまですが、コテがそっと皮膚と触れあっているだけなのにズシン、ズシンと体の奥に迫ってくるような不思議な熱感を覚える場所があります。性感帯を上手に愛撫された時のように体がビクン、ビクンと反応して自然にのけぞったり、声が出てしまう。このような「熱くて気持ちいい」特別な感覚が生じる部位を、「知覚過敏帯(ちかくかびんたい)」といいます。
知覚過敏帯は人によって千差万別で、内臓の不調和に対応して現われます。健康な人でも、体のどこか数ヶ所に必ず知覚過敏帯があるもので、病気の人ではその範囲や度合いがずっと大きくなります。そこをよく熱鍼刺激すると、内臓や全身のバランスが正しい方向へと調整されていき、その結果健康な人はさらに健康になり、病気の人は快方へと向かいはじめます。
部位によって、とても熱く感じたり、ピリッと電気が走るような痛みを感じたりすることがあります(これが鍼と灸の要素)。熱く感じる部分は細胞や血液循環の働きが不活発になっていて、エネルギーが不足している状態を表わしており、痛く感じる場合にはそこが過剰に働いて凝滞していることを示しています。どちらのケースでも熱鍼刺激があたえられると、エネルギー不足の部分にはエネルギーが適切に補われ、過剰になっている部分では余分なエネルギーを燃やして沈静化させる作用が働きます。どこに刺激を行なっても結局はバランスをとる方向へと作用するので、むずかしい知識も必要なく、トータルなヒーリングへと自然に導かれていく。21世紀の健康法と私が呼ぶゆえんです。
太ももやお尻などに施術を受けると、体のまるくふっくらした輪郭が自覚できるようになります。本来はこのようになだらかな曲線を描いている体のラインを、もっと直線的にイメージしてしまっていたことに気づきます。自分の体の形を感じていると、女性的な柔らかさや滑らかさ、やさしさなど、普段の自分に足りない精神的な要素も引き出されてくるから面白いものです。
さらに背中やお腹にも施術を受けるうちに、快感と熱さと痛さがだんだん融合して、ほかでは味わえない独特の気持ちよさに変わっていきます。にごり、くもっていた体が、内臓のひだの奥まで清らかな水で洗われるように透明になり、体の奥底から元気がわいてきます。
こんなふうに全身のすみずみを熱鍼法で活性化しながら、合間合間にヒーリング・タッチやヒーリング・ストレッチなどをはさんでいくと、天にものぼるような極楽体験が待っているのです。
夫婦や家族、恋人、友人同士で熱鍼法を施術しあえば、お互いの健康をサポートし、未然に病気をふせぐことができます。高齢になってくるほど病気が心配になってきますが、そういう将来についても、保険に入るよりずっと確実な安心が得られます。全体の体力を底上げすることで、病気を寄せつけない強靱な心身を養っていくことができるのです。
平田氏十二反応帯(一部)。
東洋医学の世界でよく知られている「平田氏十二反応帯(通称:平田氏帯)」は、元来、平田内蔵吉が熱鍼法のために定めたもので、全身の皮膚表面に各内臓に対応した12種類の反応エリアがあることを示したものです。たとえば腎臓に問題がある人は、腎臓の対応部にあたる手首や膝に、肝臓に故障がある人は、その対応部である足首や肘に知覚過敏帯があることが多いです。
私自身、知覚過敏帯や平田氏帯について、はっきりした体感を得た経験があります。ある時、右の鎖骨の下あたりに痛みが生じたことがありました。筋肉痛にでもなったのかと思いましたが、原因が思い当たりません。
ふと、同じように違和感を感じていた右足裏の指先あたりを熱鍼刺激してみると、不思議なことに右鎖骨下の痛みが消えてしまったのです。調べてみると、痛みや違和感を感じていた鎖骨下と足裏は、平田氏帯でいうと同じ「気管支・肺」の反応帯になっていました。
筋肉痛になっていたのではなく、気管支と肺が弱っていたことによって、その反応帯である鎖骨下と足裏に知覚過敏が生じ、そこを熱鍼刺激することで、原因となっている気管支・肺のアンバランスが解除され、結果として反応帯である鎖骨下の痛みもなくなったというわけです。
ちょうどその時風邪を引きかかっており、右の鼻がつまり、のどがいがらっぽくなっていたのですが、右足裏に熱鍼法を行なったおかげですぐに治ってしまいました。
こうした経験を重ねることで、平田氏帯の意味と正確さを自分自身の体で確認することができました。他者に施術を行なう際も、相手の知覚過敏帯を平田氏帯と重ねあわせることで、身体内のどこが不調和になっているかを大体推測することができ、それがズバリと当たって驚かれることもしばしばです。
<2008.06.13>