Healing Discourse

第29回(最終回) 龍宮の恩寵

※[ ]内はルビ。

◎自分自身が21世紀版・浦島太郎となっている事実に突然気づくというのも、なかなか斬新な体験ではある。
 過去、10数年の間、ほとんど世間と没交渉で来たことは、すでに何度か述べた。
 一切見ない、興味もない、「国有放送」の視聴料を毎月毎月、何年も何十年も、請求され支払い続けることに我慢ならず、幾度か抗議するも、「法律で決められていることだから」とか「屋根にアンテナがついている限り見ているものとみなされる」など通り一遍の・機械的回答しか得られず、業[ごう]を煮やして「屋根のアンテナ」を(撤去費自己負担で)取り払って以来、わが家のテレビには「国有放送」以外の一般番組も一切映らぬ。
 が、別に何の不自由もしてない。

◎テレビの他、雑誌とか本などもほとんど読まない年月が長らく続いたから(ネット・サーフィンも興味なし)、必然的に「世間知らず」となり「井の中の蛙」ともなり、最新の世の中の動向とか流行とか、そういった諸々の諸事にも疎くなり(最近また首相が入れ替わったらしいが顔も名も知らぬ)、時流に乗り遅れた完全なる時代遅れ、文字通りの「今浦島」と私たち夫婦は化し果てているはずなのだが、今回の龍宮館プロジェクトをきっかけに、再び世の中と少しずつ交渉を持ち始めてみると、意外や、全然「時間差」を感じないから、かなり驚いている。
 システムキッチンとかユニットバス、建具、照明など、リフォーム関係のショールームを、妻と共にあちこち観[み]て回ったが、観の目を使えば不良製品の不良箇所が直ちに判明するから愉快痛快(ある有名メーカーのショールームで一々指摘してやったら、店員たちが青くなって右往左往)。

◎本ウェブサイトで視覚体験の3D化(観の目)について説いたら、少し遅れて世間でも3Dムービーが一気に普及した。
 個人的な趣味の領域で、20〜30年前に私が夢想し、実現を願い・祈ったことが、今やほとんどそのまま現実化している実例がいくつもある。
 なあんだ。おれたちは時流に乗り遅れているのではなく、時代の最先端のそのまたさらに先を行っていたのか。
 龍宮館リノベーションに先立ち、総費用の概算を業者に求めたが、すべて終わってみると専門家の見立ては倍近く外れ、私が直感で示した金額がピタリ的中していたから、周りの者たちも驚いている。

◎私ほどの「役立たず」もまた世間には少ないかもしれない。
 高学歴なし。資格・免許、一切持たず。賞や賞状などの類いをいただいた経験もなし。金脈とか人脈とか、かつて少なからず有していたこともあるが、全部投げ捨ててしまった。肉体的な力も大してない(私が龍宮拳で使う力の<小ささ>を知ったら驚くだろう)。知識もほとんどない(現在デリートの真っ最中)。
 何もないない、まったくない。
 が、その何もない空っぽの空間(虚であること)に、女神の恩寵が無限に注ぎ込まれる。

◎龍宮拳のユニークさを早くから認め、リノベーション工事の手伝いなど、無私の助力・協力を惜しみなく提供してくれた友人たちを招き、龍宮館完成を祝って第1回龍宮拳研究会を開催した。
 その模様を一部ご紹介する。天行院での稽古も久しぶりだ。

 ヒーリング楽曲は高木美佳の『レインボーズ・エンド』。
 龍宮館実現と共に、「地球を味方につける」方法が啓発的に顕われてきた。大地(地球)と接触面の間で相手を挟む。それを観念論ではなく、生理的・神経的体感に基づき現実化させる。すると、相手の重心を自由に移動できるようになる。それによって相手の全身を波打たせる。

 ヒーリング楽曲は『カニのワルツ』と『ア・キム』。これらのパラオ巡礼シリーズは龍宮拳との相性が抜群だ。
 大東流のわざ(基本の柔術わざ)を示演する場面も出てくるが、原理については重要な秘伝としてひた隠しにしている会派もあると聴くので、勝手に書き立てるような不粋な真似はしない。
 肩が生え出ている方向を正すマナを1人1人に体感させる際には、一回ごとに自分の肩をわざと仮想状態にして相手にヒーリング・タッチさせ、そこから実際の肩の位置、向きを意識化することにより、どれほどの変化が生じ、伝わってくるかを体感させている。

◎第1回龍宮拳研究会の感想をいくつか。新しく用意された専用BBS(友人らが時間と空間を超えて集い、学び、切磋琢磨し合う場)より抜粋。

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・龍宮館リノベーション後初めての龍宮拳の体験となりましたが、高木先生と手合わせで触れ合う、その最初の一触からすでに皮膚と皮膚が押し合うような抵抗感が全く無く、柔らかく細やかで澄み切った水がなめらかに流れ込むようにこちらに映ってきました。自分の外形が人の形をした水のかたまりのように大きくゆらめかされるのが自覚できているのと同時に、体の奥底のほんの微かな揺らぎさえも感じ取れ、その心地よい繊細さが全身に波及していきました。内部の透明で静かな爆発が繰り返されていくと、ある時点で急に違う次元へと移り、別世界のような静謐さが裡に満ちていました。<道上健太郎 山口県>

・高木先生の肩の屋根の部分に触れ合わせていただき、術をかけていただいたときのことです。先生が意識を切り替えられると、それまで掌で感じていた肩の存在感が溶けてしまったように感じ、同時にドーッと一気に自らの全身が緩んで、気が付くと途方もない拡がりをもった波の力に翻弄されている自分がいました。まるで大海のど真ん中にいきなり放り出されたかのような意識の拡がりや開放感を感じておりました。
 これまでも龍宮拳を体験させていただいてきましたが、龍宮館が建立され、最新の術を受けさせていただいて、いやしの波紋が浸透する感覚が今までになく繊細で柔らかく、かつ強烈になっていることを味わわせていただきました。波紋が心身に響き、波そのものとなってしまう凄さも一段と感じられ、心底驚きました。<佐々木奈緒子 神奈川県>

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◎少年たちの永遠の夢「エンドレス・サマーバケーション(終わりなき夏休み)」を20代半ば頃に実現して以来およそ四半世紀、愛と笑いと歓びに充ち満ちた聖美なる祝祭[エクスタシー]の裡で生きてきた。そこでは悲しみでさえ途方もなく深遠な美しさを孕[はら]んでいる。
 ただただ感謝。ひたすら感激。
 私個人の力なんかじゃ、もちろんない。
 すべては恩寵なり。女神の、龍宮神の恩寵なり。
 そしてこの恩寵は、誰に対しても公平・平等に開かれている。罪人[つみびと]であっても悪人であっても、自分には何の価値もないと感じる者も、生き(続け)る意味をどうしても見出せない者も・・・・・。

◎夜、龍宮館の2Fアトリエに1人でいると、時おり奇妙な物音が聴こえることがある。時間帯は一定してない。
 子供が駆け回っているような、猫が遊んでいるような(実際には1Fのリビングで熟睡中)、誰か(何か)が合図を送っているような、いくら調べても発生源が特定できない、不思議な音だ。
 妻に話したら、まったく同様の現象を体験していることがわかった。そして2人とも、初めてその音を聴いた時、同じ言葉が脳裏をよぎっていた。
 ・・・ざしきわらし。
 龍宮館に、早速、座敷童がすみついた!?

——ヒーリング随感4・終——

<2012.12.27 麋角解[びかくげす]>

※2011年度 海の巡礼シリーズ:関連リンク
◎Healing Photograph Gallery1『エルニド巡礼記 @フィリピン』/『パラオ巡礼:2011』/『ボルネオ巡礼:2011
◎Healing Photograph Article『エルニド巡礼記・余話
◎ヒーリング・ディスコース『レインボーズ・エンド パラオ巡礼:2011』/『ヒーリング随感3』第3回第6回第8回/『ヒーリング随感4』第21回
◎ヒーリング・ダイアリー『ヒーリング・ダイアリー4