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高木一行
今回の巡礼では、実験として防水タイプの小さなコンデジ(コンパクト・デジタルカメラ)を使い、シュノーケリングしながら帰神撮影を試してみた。
が、いかんせん、非常に難しい。
観た瞬間・感じた瞬間にシャッターを斬れる一眼レフと違い、コンデジではピントが合って撮影されるまでに、1秒近いタイムラグが生じる。
すると、写るのは魚の尻尾のみ、なんてことになってしまう。
あれこれやっている真っ最中、1メートルくらいのサメが突然現われた。が、あれよあれよという間に深みへと悠然と泳ぎ去っていった。その、流れるような動きは、撮影のことを一瞬完全に忘れさせるほどの、流線の機能美の極致だった。
さすが、4億年(!)もの超歳月を、海の世界でたくましく生き抜いてきた強靭凶猛なる種族だけのことはある。私は、本当に、サメとかエイを尊敬する。あれらの動きに、波紋の法の奥義を観て、いつもほれぼれと感心する。
サメやエイに限らない。魚のひれの動きなんか、観の目で観るとすごい波紋を放っている。『鯉波紋』(スライドショー2-12)の「あれ」は、鯉が尾びれや胸びれ、背びれなどを巧みに使って起こす渦流を、超意識状態で写し撮ったものだ。鯉のコミュニケーション手段みたいに観えた。
エルニドでは、水中を自在に移動するものたちをシュートすることはあきらめ、動き回ったりしないシャコガイとかサンゴなどに、もっぱら狙いを定めることにした。
シャコガイの模様は共生する褐虫藻が創り出すものだが、1つ1つ個性があって、美しく、神秘的だ。観の目を使えば、いろんな姿や形が観えてくる。まるで、海の中の立体壁画のように。
これはあるいは、ある種の擬態になっているのではあるまいか? 最後の作品なんか、海ヘビがうようよ集まって、こちらをギロリとにらみつけているみたいだ。魚には、どんな風に観えるのだろう?
そういえば、南海のサンゴ礁でシュノーケリングしていて、シャコガイが目に入ってくると、私はいつも一種の衝撃を全身で感じる。びりっと軽くしびれる感じだ。シャコガイの模様が発する汎生物メッセージが、私の無意識を撃っているのかもしれない。
スライドショーの07、08、09、10、11、12、13、14、20、21は、いずれもシャコガイ。
心を鎮め、レット・オフ態勢を保ちつつ、幅50センチ以上ありそうなオオジャコ(比良夫貝)の、身(外套膜)に、そっと指先でヒーリング・タッチする(ヒーリング・タッチで触れ合えば貝は殻を閉じない)・・・と、この生き物が外側に対しては警告を発しながら、内面では至福のエクスタシーにどっぷりつかって「存在」していることが、共感的に感じられた。サルタヒコを呑み込んだ、南海の女神のあでやかな女陰。
南太平洋には、世界の創造を終えた神々は貝殻の中に隠れひそんだ、という神話も語り伝えられているそうだ。
シャコガイですら、もぐって片手で岩につかまりながら、逆立ちの態勢にてもう一方の手でカメラを操作・・・・しなければならないため、はじめのうちは帰神撮影どころじゃなかった。
しかし、次第次第に慣れてきて、海中帰神撮影の醍醐味が少しずつ味わえるようになっていった。
水深7〜8メートルほどの海底で、小ぶりのウミガメ(タイマイ)が静かに瞑想しているところに、そっと遠くから近づいていって、撮影に成功した。
Crown of Thorns(とげの冠)なる英名と、キリスト教国フィリピンという2つのキーワードを携えつつ、オニヒトデと向かい合って帰神撮影したら、作品05のような作品が出来上がってきた。『海神[わたつみ]の王冠』。これも、特に気に入っている1舞だ。
コンデジの性能では魚の群れを詳細に描写できない不利を逆に活かし、南の海を墨絵風に表わした作品15も面白い(美佳撮影)。
コンデジの画像ゆえ粒子性が粗く、意識面においてもまだまだ未熟ではある。が、私たちの初めての海中帰神フォト作品を、エルニド巡礼記の附録として、そしてエルニド巡礼の記念として、ここにご紹介するものである。
なお、スライドショーとクロスオーバーして流れるのは、高木美佳の『ベニティエ』。詳細は、彼女のアルバム『木之佐久夜姫』のライナーノーツにて。
ちなみにベニティエとは、フランス語でシャコガイを意味する。
<2011.05.28 紅花栄>
※2011年度 海の巡礼シリーズ:関連リンク
◎Healing Photograph Gallery1『エルニド巡礼記 @フィリピン』/『パラオ巡礼:2011』/『ボルネオ巡礼:2011』
◎Healing Photograph Article『エルニド巡礼記・余話』
◎ヒーリング・ディスコース『レインボーズ・エンド パラオ巡礼:2011』/『ヒーリング随感3』第3回、第6回、第8回/『ヒーリング随感4』第21回
◎ヒーリング・ダイアリー『ヒーリング・ダイアリー4』